フィンランドに惚れ込み、ユニット活動のkukkameri(クッカメリ)として2018年にトラベルガイドブックまで出版してしまった私、新谷麻佐子の田園ツーリズム紀行。第2回は、ずっと憧れだったラトビアの夏至祭をご紹介します。
(第1回 「フィンランド式サウナ」の記事はコチラ)
取材・文/新谷麻佐子
Profile
あらたに・あさこ●イラストレーター&編集者。2009年以降、毎年のようにフィンランドに通い、2014年にムーミンの作者トーベ・ヤンソンが暮らした島「クルーヴハル」に、友人でライターの内山さつきと1週間滞在したのをきっかけに、kukkameri(クッカメリ=フィンランド語で「花の海」の意) を結成。以後、フィンランドの小さな町や四季、暮らしと文化をテーマに取材を続けている。著書に『とっておきのフィンランド』(ダイヤモンド社)がある。http://kukkameri.com
人々が都会からカントリーサイドへ大移動!
「夏至祭」って一体どんなもの?
北欧諸国とバルト三国は、食べ物やサウナなど、似ている文化が数多くあります。
太陽が高く昇り、昼間が最も長い夏至を祝うのもそのひとつ。
フィンランドに通うようになって3年目くらいから「夏至祭って、いったいどんなお祭りなんだろう?」と気になっていて、「次に夏に行くことがあったら、ぜひ体験してみたい!」と思っていました。
2017年6月に、フィンランド南西部の町でついにそのチャンスが到来。
なのですが、実際に行ってみてわかったのは、フィンランドの夏至祭というものは、どちらかというと家族や地元の友人たちと穏やかに祝うものであって、観光客が見たり参加したりできるものではないということでした。(なかには観光客向けの夏至祭もないわけではないのですが)
それが、バルト三国の夏至祭となると、まさに旅行者がイメージするような、伝統衣装に身を包み、一晩中、踊ったり歌ったり。旅行者が参加できるものも多いと聞き、この夏、ラトビアの夏至祭に参加してきましたよ!
でも、そもそも夏至祭って何をするのでしょう?
日本人にはなじみがない文化なので、私も最初はピンときませんでした。
農耕&海洋民族だったラトビアにとって、太陽はとても大事なもの。
一年の内で太陽の力が最も強い夏至に、心身を清め、五穀豊穣を祈ります。
フィンランドもそうですが、ラトビアやエストニアなど、北欧やバルト三国を訪れて感じるのは、キリスト教など他の宗教が浸透した今でも、日本と同じで、自然崇拝の精神が人々の心に、生活に根づいていること。
夏至祭は、まさに自然崇拝の文化のひとつなのです。
なので、ラトビアでは、都会で働く人たちも街から離れ、6月23日と24日の夏至祭「ヤーニ」の夜、自然に囲まれた中で家族や仲間たちと過ごします。
ラトビア人にとって木はとても大切なもの。
女の子が生まれたら冬菩提樹を植え、男の子が生まれたら柏を植えるといいます。
ゆりかごから墓場まで木とともに生きます。
上の写真は柏の木。毎年違う木が選ばれる御神木(ごしんぼく)に、ラトビアの伝統文様が施された帯「リエルワールデ帯」を巻きつけます。
女性はみんな乙女に戻る!
花冠をかぶって、健康と幸せを祈りましょう
今回は、首都リガから車で1時間半ほどのところにあるプリャヴィニャス(Pļaviņas)県クリンタイネ郡の夏至祭におじゃましました。
夏至祭当日、ラトビアの人たちは日中寝て過ごし、夕方18時ごろからスタート。
田園地域の夏至祭はそれほど大規模なものではなく、50人以上100人未満といった感じでした。
また、ラトビアの人でも、今年は父方の地元へ、来年は母方の地元へ、その次の年は親戚の地元へという感じで、ひとつの土地にこだわらないそうなので、厳密にどのくらいの方が地元の人たちなのかわからないのですが、9割くらいが地元の人かなあと。
日本人は私たちの他に2〜3組。旅行者や留学生などが参加していました。
会場には、伝統的な衣装をまとっている人とカジュアルな装いの人がいましたが、女性は必ずといっていいほど、花冠だけはつけていましたよ。
それがまた素敵だこと!
マダムたちは、おしゃべりをしながらささっと花冠をつくってしまいます。
人目を引く可憐な少女は、大人たちから距離を置きつつも、その場を離れることなく参加していました。伝統的なお祭りといってもかしこまった場というわけではなく、全体的にリラックスした雰囲気があって、それがまた心地いいです。
花冠をつけた女性たちは、みんな嬉しそうで、外国人の私たちがついついカメラを向けちゃうからかもしれないですが、どことなくはにかんだ様子が愛らしく、いくつになっても女性は乙女なんだなあと思うのでした。
そして同じ女性として、私もやっぱりそうでありたい!と思います。
今回ガイドを務めてくださったラトビア人のウギスさんによると、実際、夏至の日だけは、花冠をかぶった女性は、皆、「未婚者扱い」になるそうです。
なんですって!? びっくりです。
また、男女ふたりで森に入り、シダの花を見つけられたら、9カ月後に子宝に恵まれるといわれているそう。
なんだかロマンチックですね!
一方、独身女性たちは、花冠を柏の木に投げて、何回目で引っ掛けられるかで、いつ結婚できるかを占います。
1回目で引っかかれば1年以内に、2回目なら来年、結婚ができるという具合。
そんなわけなので、夏至祭を訪れたら、地元の女性たちに混じって、花冠をつくりましょう!
会場によっては、花冠のワークショップが開催されるところもあるようです。
伝統的には27種類の野花でつくり、花冠が災害や病気などから守ってくれるといわれています。
ちなみにフィンランドでは、夏至の日に7種類の野花を摘んで、枕の下に敷いて寝ると、夢に未来の夫が出てくるといわれています。
このような占いやおまじないって、どこの国でも、いくつになっても楽しいものですよね!
私もフィンランドで、枕の下に野花を敷いて寝るというのは、やったことがありますが、残念ながら、誰も、なーんにも、現れませんでした(笑)。
一方、男性はというと、力強さの象徴である柏葉冠(かしわばかんむり)をかぶります。
かっこいいですね!
夜が明けたら、朝露でけがれを落とし、
美も手に入れる!
こうしてみんなが揃ったら、まだ明るいうちから歌ったり踊ったりして過ごします。
今回、私もダンスと歌に混ぜてもらいました。
演奏する人以外は、老若男女、参加者ほぼ全員が手と手を取り合って、大きな輪をつくって踊ります。
シンプルな輪から2本に分かれてクロスしたり、合流したり、再び離れたり。
みんなで手を繋いで踊るなんて、うん十年ぶり!
フォーメーションが変わるたびに、新しく手を繋ぐ人と顔を見合わせ、「こんにちは。どうぞよろしく!」と思わず笑顔。
踊り終わると、にっこり笑顔で「ありがとう!」。
実際には、言葉を交わすことなんてできないけれど、心が通じ合うのを感じました。
それだけでなんだか楽しい! 温かく迎え入れてくれたことに本当に感謝です。
途中、丘の上にみんなで移動し、ポールの先に火を灯す儀式もありました。
火が勢いよく燃えている間、子孫繁栄や幸運を祈って、夏至祭民謡を歌い続けます。ラトビア語がわからなくても、必然と耳に残るのが「リーグア」という言葉。これは囃子詞であり、お祝いの言葉で、祈りのこもったリーグアの音色は心地よいものでした。
その火が尽きそうになると、火を松明に移し、再びメイン会場へとみんなで戻っていきました。
一年のうちで一番日が長いといっても、ラトビアはフィンランドより南にあるので白夜にはならず、夜が訪れます。写真は、22時半頃の空です。
日没を迎えると、いよいよかがり火を焚き、さらに歌ったり踊ったりしながら、日の出を待ちます。
かがり火は太陽の象徴。前年につくった花冠なども燃やします。
午前4時半頃、太陽が昇ったら、夏至祭はお開き。
なのですが、朝まで頑張って起きていたのに、これで帰ってしまってはもったいない!
日の出の後に森を歩き、朝露を体につけてお清めをしましょう。
太陽が一番強い時の水の霊力は素晴らしく、半年分のけがれが流せるそう。
顔に朝露をつければ、美しくなるともいわれています。
私は、実はこの日は朝露をつけることができなかったのですが、前日に、顔に朝露をつけました! 少しは効果があるかしら?
なお、夏至祭では、一晩中歌いっぱなし、踊りっぱなしというわけではなく(まあそんなの無理ですよね)途中で休憩を挟み、チーズや黒パンを食べるなど、食事をとりながら、みんなでのんびり歓談します。
夏至祭の食べ物といえば、ビールとチーズ。
五穀豊穣を祈ってビールを飲み、牛のミルクがよくとれますようにと祈ってチーズを食べます。
ほんのり甘いはちみつビールは、ビールが苦手な人でも飲みやすいやさしいお味。
チーズも手づくりのものが用意され、夏至の日にいただく「ヤーニチーズ」は、キャラウェイ(スパイスの一種)の種が入っています。
こちらの写真は別の日に、ラトビアのチーズ工場を訪問した時のものですが、手前がキャラウェイ入りのチーズです。夏至祭では、丸の形が太陽を表すため、断面が丸い筒型に成型したものを用意します。
こうして、憧れだった夏至祭をラトビアで満喫しました!
取材協力:CAITOプロジェクト(田園ツーリズムプロジェクト)https://balticsea.countryholidays.info/