女性の手指トラブルはなかなか理解されない。だからつらい!
富永喜代先生によると、手指のトラブルや痛みで、人に言えないままつらい思いをしている女性が多いそう。
なぜそういう症状が起きるのかというと…
「手指のトラブルが男性に比べて断然女性に多いのは、もともと女性は靱帯や軟骨が男性よりも柔らかく、関節に負担がかかりやすいこと。
更年期以降に手指の不調が起きやすいのは、女性ホルモン『エストロゲン』の変化と濃厚に関連しているためです。
エストロゲンは関節組織を健やかに保つ働きがありますが、それが急激に減少してしまうことでトラブルが起きやすくなります。
仕事や家事で手指や手首をよく使う人、冷える環境にある人は、特に発症のリスクが高まるのです」と富永先生。
先生が院長を務める「富永ペインクリニック」(愛媛県松山市)には、手指の痛みに悩む40代、50代以降の女性が全国からやってきます。
一人で苦しんでいる女性の患者さんをたくさん診てきたという先生は、なんとか痛みやつらさから解放してあげたいと言います。
「女性の手指のトラブルは、腰痛や膝痛とは違います。
腰痛や膝痛なら横になって患部を休ませることができるけれど、手は使わないわけにはいかないでしょう?
痛かろうがなんだろうが、仕事でも家事でもやらなきゃならない。
我慢してやっているのに痛くないのだと思われてしまう。
元気そうに見えてしまうから共感も得られない。
他の痛みと違って、さめざめと泣いている女性が多いのはそこ。
まわりになかなか理解されない病気なんです。
医療でできることをするのはもちろん、大事にマッサージしてあげてね、優しくいたわってあげてね、ともアドバイスするんですよ」
手指に違和感があったら、放っておかないで!
誰でも、最初はこわばりなどのちょっとした違和感だったはず。
それを放っておくと痛みやしびれが起きたり、いつしか見た目にも明らかな変形が起こってきます。
なんとなくこわばっているような違和感→むくんだり、なんとなくグーパーがしにくい→力を入れたときなどに痛みがはっきりわかる→気がつけば部分的に指が太くなったり変形していた→ついには両手の手指に変形が…。
こんな経過をたどることもあるので要注意です。
リウマチだけじゃない! 手指の痛みや変形につながる病気
手指の痛みを感じたら、原因を探るために「放置せずに、まずは医療機関を受診して」と富永先生。
手指の病気にはどんなものがあるのでしょうか?
手指の痛みで整形外科に行くと「変形性指関節症」と診断されることが多いものです。
変形性指関節症というのは、指の関節に腫れや痛み、変形が起こる病気の総称。
「関節リウマチ」でも指の変形は起こりますが、関節リウマチは全身の病気のため、ひじや肩など、指以外の関節にも変形が現れる点が異なります。
手指の病気には、痛みや変形が起きる場所、症状の違いによって、さまざまな病名がつけられているので、ぜひ参考にしてください。
【手指のトラブル・病気のいろいろ】
❶ヘバーデン結節/手指の第1関節に腫れやコブなどができたり、こわばり、痛みやしびれが起こります。
❷ブシャール結節/ヘバーデン結節と同じ症状が第2関節で起きたもの。どちらかが発症する場合もあれば、両方同時に起こる場合も。
❸関節リウマチ/免疫機能が過剰に反応することで発症する「自己免疫疾患」のひとつ。
血液検査によって診断されます。
❶や❷とよく似た症状が起きますが、大きな違いは手指だけでなく全身の他の関節にも症状が出ること。
❹ドゥケルバン病/親指を動かしたり力を入れると、手首の親指側に痛みの出る症状。
手首の腱鞘炎の一種で、手首を酷使することが原因のひとつ。
❺ばね指/指の腱鞘炎の一種。
指の付け根に炎症が起こり、動きがスムーズでなくなり、指の付け根に痛みや腫れ、熱感が生じます。
関節を動かすとばねのようにはねることも。
❻母指CM関節症/母指とは親指のことで、親指の付け根付近にあって手首と手のひらをつないでいる「CM関節」に炎症が起こり、痛みや変形が起こる病気。
親指をひねる動作で痛みが出ます。
スマホを片手で持ち、親指だけで操作する人に増加中。
❼手根管症候群/手首の付け根にある「手根管」に炎症が起きるもの。
手のひら側に痛みやしびれが起こります。
❽腱鞘炎/「腱」や腱を包んでいる「腱鞘」が炎症を起こし、指や手首に痛みが起こる病態を腱鞘炎といいます。
ばね指やドゥケルバン病も腱鞘炎に含まれます。
──手指や手首に痛みトラブルが起こった場合、その裏に思いがけない病気が隠れている可能性も否めません。
例えば、
●糖尿病 ●脳梗塞 ●頸椎症 ●頸椎椎間板ヘルニア ●頸肩腕症候群 など。
糖尿病が全身の血流を悪くして、そこから手指のトラブルに発展する場合や、脳梗塞や頸椎症が神経に作用して、痛みやしびれが出ることもあります。
違和感や痛みを感じたら、自己判断をしないで、まずは医療機関を受診しましょう。
【教えていただいた方】
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。
撮影/天日恵美子(富永先生) イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/蓮見則子
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