怒りの感情と上手に付き合うのがアンガーマネジメント
怒りが込み上げてきたとき、あなたはどんな態度をとりますか? 怒りを言動で爆発させる? それともグッと我慢する? 怒ってしまったときは「あんなこと言わなければよかった」と後悔することもあります。一方で、グッとこらえたとしても、後で「なんであのとき、ちゃんと言えなかったのだろう」と、やはりモヤモヤした気持ちが残ることも。
“怒りの感情”は、爆発させても我慢しても、ともすると人間関係、信頼関係、キャリアに影響を与えかねません。
「アンガーマネジメントとは怒らないようにするものではなく、怒りの感情で後悔しないようにトレーニングをすることです」(安藤俊介さん)
では、そもそも怒りの感情とはどんなものなのでしょうか?
「怒りという感情は人間が生まれつき持っているもので、別名『防衛感情』と呼ばれています。
動物にも怒りの感情はあり、その場合は目の前に
迫る危機から身を守るためのもの。天敵から命を守るために、“闘うか逃げるか”の選択が迫られたとき、どちらを選択するとしても、アドレナリンを放出して臨戦態勢をとります。これが怒りの感情です。
私たち人間の日常生活では、命を守るシーンはなかなかありませんが、自分の価値観や立場を守ったり、家族や仲間を不本意な状況から守るために、怒りの感情は使われています。
つまり、怒りの感情そのものが悪いのではありません。むしろ、怒れない人は大切なものを守れない可能性も! だから怒りを感じたからといってそれに罪悪感を抱く必要はまったくありません。大切なのは怒りと適切に付き合う術を身につけることです。それがアンガーマネジメントなのです」
現代の日本は怒りに満ちている!
「特に現代社会には怒りがあふれている気がします。その原因のひとつがSNSの普及でしょう。以前なら、テレビを見ていてその内容に怒りを感じても、せいぜいお茶の間で悪態をつくくらいで収まっていました。
ところが、SNSだと誰かが発した意見に対して、反論の投稿ができます。その裏には正論を訴えたい正義感によるものもあったり、単なるストレス発散であることもあります。そしてその意見にまた反論が巻き起こることも。こうしていわゆる炎上騒ぎが日常のこととなっています。まるで生贄を探しては、吊し上げるといった様相です。
誰かをたたいたり、怒りをぶつけることは消費でしかありません。問題なのは、ただの消費ではなく、実はその悪習慣が知らないうちに自分自身をむしばんでいるということです。
例えば、脳には神経可塑性という性質があります。これは思考によって脳の神経構造が変わることを意味します。ネガティブな思考癖がある人は、よりネガティブに考えるように脳が変わり、常に怒っている人は、より無駄に怒りやすくなるのです」
最近では、AIがその人の嗜好性を判断すると、似たような記事がアップされてきます。もしも腹立たしいニュースを何気なくクリックすると、さらに同じようなニュースが集まってきて、これらのひとつひとつに怒っていたら、穏やかな日常とかけ離れたものになることでしょう。
「怒りを生じやすくなった理由はこうしたSNS問題だけでなく、競争社会の激化や共働き家庭の増加などにより、社会全体が忙しくなったこと。また科学技術の発達で便利になった反面、不便なことや不快なことへの忍耐力が低下していること。グローバル社会で価値観の違いや習慣の違いの多様性が高まったことなども要因と考えられます。
こんな世の中だからこそ、無駄に怒らずに、かといってただ我慢するだけでなく、怒りの感情と上手に付き合っていくことが大切なのです。
そうすることで、怒りの感情に翻弄されることなく、自分と考えの違う人を受け入れられ、人生を楽に生きられるようになります」
【教えていただいた方】
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。新潟産業大学客員教授。怒りの感情と上手に付き合う理論と技術をアメリカから導入。教育現場から企業まで幅広く講演、研修、セミナー、コーチングなどを行う。ナショナルアンガーマネジメント協会では世界で15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルの唯一のアジア人。『[図解]アンガーマネジメント超入門 怒りが消える心のトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。
イラスト/カケハタリョウ 取材・文/山村浩子