手術当日がやってきた

 

そして再び、その外付けオプションだった「機能」をひとつ身体から取り外そうとしている。

 

 

これまで、自分が女であることすら意識しようとは思わなかった。毛糸の腹巻をしたり、足を冷やさないように靴下を重ね履きしたりする女性たちを不思議な気持ちで見てきた。アロマだの、マッサージだのに頼ったことすらなかったのである。

 

 

しかし、本当にそうだったのだろうかと、今になって思う。私たちの年代は、最初の雇用機会均等法時代である。何にしても、頑張る癖がついている。努力と根性のスポコン漫画で育ち、男性に負けずに生きることを奨励されたままの心の癖が長いこと抜けなかった。

 

 

しかし、そろそろ身体のゆらぎに心を添わせる時期である。揺れるサーフボードの上で、いくら足に力を入れたところで波は制御できない。これからは寒かったら毛糸のパンツを履こう。

佐々さん_photo

 

 

やがて、看護師が迎えにきた。私はベッドに乗ったまま、廊下を通って手術室へと連れていかれる。テレビドラマのようだ。家族に見送られて、自動ドアの向こうへ行く。心配そうな家族の顔が自動ドアの向こうへ消えた。自動ドアの向こう側は、デパートの地下駐車場のようにやたらと広い。小さな部屋がいくつもあって扉がついている。その小窓からは手術しているスタッフたちの横顔が見えた。私と同じように手術台に乗っているだろう人たちに、私はその時、心からのエールを送った。

 

 

病人にならなければ、こんなに病人がいることに気づかなかっただろう。私も小さな部屋へ連れていかれて、マスクを当てられたあと、意識を失った。

 

 

麻酔をされた時の感覚は不思議だ。寝ている時には感じない時間の断絶を感じる。私は、その時間、どこへ行っていたのだろう。意識って何だろう。

 

 

しばらくして、私を呼ぶ医師の声で起こされた。
「手術終わりましたよ」そう言われて重い瞼を開けると、医療スタッフたちにのぞきこまれていた。「卵巣取れましたよ」と医師が私の卵巣を見せてくれた。見ると、イクラなどの珍味が入っていそうな透明な容器の中に、膜に覆われた小さな卵巣が入っていた。自分の卵巣と対面したときの感想は「ちょっとおいしそうだ」というものだった。つるつるの卵巣には、不自然な感じで毛髪が二本ツンツンと生えている。「オバQの頭みたいだな」と思ったのを覚えている。

 

 

「お部屋に戻りましょう」と声をかけられたが、戻る道中のことは、眠ってしまったらしく覚えていない。

 

 

長いことかかった卵巣騒動は、これで一応の決着を見た。私は、卵巣ひとつぶん軽くなって病室に戻って来た。

 

 

永遠に続くものなど何もない。私は私でありながら、昨日の私と違っていた。

 

 

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