「打ち止め」となる女性ホルモンの代替は…脳内から出る幸せホルモン!
OurAge読者の皆さん、こんにちは。富永ペインクリニック院長、富永喜代でございます。
皆さんも私も、女性ホルモンが減りゆくお年頃ですよね。そしてこの世代って、仕事やら家族のケアやら、とにもかくにも人生が忙しいじゃないですか? さらに私のように働きすぎの人は、“打ち止め”となる女性ホルモンの「代替」が必要! 「それには“脳内の幸せホルモン”の増量や〜!」と思い立ったわたくし。実はこの夏から、ジャンガリアンハムスターを飼い始め、愛でております。
「今、私に足りんのは癒しや」と思ったからなんですけどね。
韓国アイドルにハマる同世代の方も多いですが、私にはそういう推しもいない。斎藤工の裸は好きなんですけどねぇ…。でも、触れられんでしょう?(近くにおって、触れられて、私のぺースで癒されたい…)と思った私は、のこのこ行っちゃったんですね、近所のペットショップに。するとそこには、何やら小さな哺乳類がいるじゃないですか。尻尾もなくて、丸くてかわいいし、「ジャンガリアンやったら、散歩も行かんでいいんちゃうんけ!」と、テンションが爆上がりました。
しかもね。ペットショップの店員さんが、「ジャンガリアンだったら、スターターキットが全部揃っています」とか言うわけですよ。ケージ、回し車、餌と砂場セットと、全部そろって1万6500円。あのカラカラ回る回し車を入れておけば勝手に運動するし、ジャンガリアンは哺乳類の中でも排泄が少ないんですって。すっかり衝動買い(…飼い?)の果てに、今は夜な夜な話しかけたり、手のひらに乗せて餌をあげたり、すっかりハートウォーミングな時間に癒されています♡
この子がジャンガリアンハムスターの「まる」。丸くてコロコロしていたので命名しました。性別はオス!
閉経すると女性ホルモンは激減。そう、出ないものは出ない。けんど、代替ホルモンによって幸せになって、元気が出て、ハツラツとするなら、それはそれでいいんじゃない? だから「幸せホルモンを有効活用しようよ!」と謳いたいわけなんですけどもね。
女性の脳は、妄想だけでオーガズムを得られる!
そこでまず、女性の皆さんにちゃんと知っていただきたい正しい知識があるんよね。
よく「セックスをすると女性ホルモンが出る」みたいなこと、言われるじゃないですか。あれ、嘘よ。迷信ですからね。セックスで出るのは、β-エンドルフィンとかオキシトシンなどの脳内ホルモンであって、それは女性ホルモンではありません。
つまり、推し活によるキラキラの根幹は、女性ホルモンとは違う、「脳内神経伝達系」のなせる業。幸せを感じると、脳内からさまざまなハッピーホルモンが出るんです。
私の場合は、触れることのできない斎藤工の代わりにジャンガリアンを飼いましたけどね。まるですぐそこに斎藤工がおるような感じで脳が興奮する…ということが、いわゆる推し活ですよね。
でね、女性の脳と男性の脳には性差があると言われていてね。目から入る情報に大きく依存される男性の脳とは違って、なんと女性の脳は、想像&妄想(+経験と記憶)という“エア恋愛”だけでもオーガズムを得られる「脳イキ」が可能。…つまり、脳内だけでイクことができるっちゅうことが、医学的にも証明されとるんですわ!
さて、このときに女性の脳内に何が起こっているのか。
『オルガスムの科学 性的快楽と身体・脳の神秘と謎』(作品社)の著者、コミサリュックという神経学者とウィップルという性科学者らが、「どうやら女性は、イメージだけでイケるんちゃうか」ということを証明しようと、2005年に脳イキの研究を行ったんですね。
どんな研究かっちゅうと。生殖器を刺激してオーガズムを得た場合と、想像だけでオーガズムを得た場合、それぞれのときの女性の自律神経反応を調べると、パラメーター(血圧、心拍数、瞳孔の拡張、痛みの閾値(いきち)の減少)の測定値はどちらも同様に、大幅に増加していたんだそう。
さらにfMRI(MRI装置を使って脳活動を調べる方法)でも、生殖器を刺激してオーガズムを得た場合と同様に、想像だけでオーガズムを得た場合では、脳の側坐核領域が活性化することが認められたそうです。
結果、脳の側坐核は「女性のオーガズムの快感の調整役をしている」ということがわかったんよね。
ドーパミンの「多幸感」、オキシトシンの「幸福感」
専門用語があれこれ出ましたけども。
要は、脳から神経を興奮させるドーパミンが出るという点で、推し活やエア恋愛は「疑似セックス」にも通じている、ということ。
ただ、ドーパミンっていうのは最も強い快楽物質なので、「多幸感」をもたらします。覚醒剤取締法で禁止されている薬物等は、直接ドーパミン作動ホルモンに働く物質。だから、「これさえあれば幸せを感じる」という、依存を招くリスクが大きいわけなんです。ドラッグさえあれば、現実がどんなにつらくてもハイになれる。この“多すぎる幸せ”という意味の「多幸感」と、私たち世代が求める「幸福」は、意味合いが大きく異なりますよね。
じゃあ、ドラッグ系の多幸感と、セックスでオーガズムを得たときの幸福感との違いとは?
どちらもドーパミンは出るけれど、セックスの場合は「ドーパミンが出たことを引き金に、幸せホルモンのオキシトシンも出てくる」というところ!
言い方を換えるならば、ドーパミンほどの強い快楽が得られなくとも、大好きな人によしよしされるとか、肌と肌の密着による刺激によってオキシトシンが出て、幸福感が得られるんよね。
もちろん推し活でもエア恋愛でも、ドーパミンが出たらオキシトシンに紐づきます。実際に触れ合えなくとも、じんわりとした幸福感に包まれることでしょう。
ちなみにドーパミンの分泌は「しょっちゅう、チョロチョロ」とは出ないもの。例えば、ランナーズハイと呼ばれる状態も、1〜2㎞程度走ったところでなりませんよね? 必死の必死の先に、「…何か気分がよくなってきた」となるように、ドーパミンは「報酬系」の神経。
頑張って得た先のご褒美物質として出るものです(だって、いつもチョロチョロ出よったら、ドーパミンの味が忘れられなくてそればかり繰り返すし、人間、何も努力しなくなるよね)。
だから、推し活もエア恋愛も、とことん楽しんだらいいと思うんです。
むちゃくちゃ楽しい~と感じると、ドーパミンが出て、さらにオキシトシンも出て、多幸感に依存することなく心が満たされていく。それはきっと、産み育てるという性を持った私たち女性ならではの心身の仕組み、特権じゃないのかなぁと思う今日この頃。
あ、もちろん、「幸せなセックスでドーパミンを大量に分泌して、オキシトシンも出す!」派の人も、それはそれで◎です。
さて、私はそろそろ、ジャンガリアンにひまわりの種をあげる時間。皆さまも、それぞれの推しに癒されてくださいませね。
【教えていただいた方】
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。
撮影/天日恵美子 角守裕二(花) 取材・文/井尾淳子