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https://ourage.jp/column/life/interview/225484/

至高の頂・K2から人々の「土地」へ。小松由佳さん(写真家)が言葉で映した「人間」の姿とは?

「人間に恐ろしいのは未知の事柄だけだ。
 だが未知も、それに向って挑みかかる者にとっては

 すでに未知ではない。」       

  ~『人間の土地』サン=テグジュペリ著より

 

著書、『人間の土地へ』の冒頭に引用された名著の一節にある、“挑みかかる”という言葉にふさわしく、日本人女性未踏(世界でも女性で8人め)の山頂に立った、小松由佳さん。

若くして迎えたひとつの「人生のピーク」から14年を経て、小松さんは、今秋発表したそのノンフィクション作品で新たに注目を集めている。その間の心の軌跡、そして世界を動かす運命の軌跡を写し取った作品について、本人にうかがった。

 

至高の山頂制覇の直後に生命の危機に直面して…

 

エベレストに次ぐ世界2位の高峰、最も難関といわれる山、「K2」に24歳で果敢に挑み登頂に成功した小松さん。2006年のことだ。

 

世界最高峰クラスの山に挑む登山家として、その後は写真家として、世界各地の、いずれも秘境や紛争地などを歩き、そこで暮らし、記録してきた小松さん。澄んだ瞳が印象的

 

「秋田で生まれ、山の恵みや山との深い関わりを持ちながら育ち、高校時代には登山部に入りました。日常では確かな生き甲斐はなかなか見い出せませんが、山に登ることで”生きている”と感じられる瞬間が好きでしたね。」

本にも書かれているK2登頂は、日本の登山家として紛れもない快挙。でも、自分では決して満足できるものではなかったという。下山時に基地にたどり着けず途中でやむなくビバーク(=露営)するという危険を冒してしまったのだ。疲労のピークで迎えた悪天候の中、緊迫した描写が冒頭から続く。

 

「この経験で、人はただそこに生きていることだけで尊いということに気づ き、山に登ることだけが目的ではなくなっていきました。その代わりに、K2でポーターとしてベースキャンプに荷物を運んでくれた地元の人々の暮らしや、彼らの文化への興味が湧いていることに気づきました。次第に人間の暮らしに気持ちが向いていったのです。彼らの暮らしは決して裕福でなく質素な生活ですが、厳しい自然の中でも感謝して祈りを欠かさない、そして表情豊かで幸せそうに見えました。」

 

登山に明け暮れた日々とはきっぱり決別して、08年には中国やモンゴルの草原から西に向って旅をする。さらに日本で写真を学び、また旅へ。やがてシリアの古都パルミラではラクダの放牧をして暮らすアブドュルラティーフ一家と出会った。

 

「全くの1人旅で、途中でお金を全部盗まれるなど危険な目にも遭いました。それでも各地に暮らす人々を撮るうちに、ロシア、ウクライナ、トルコ、イスラエル、ヨルダン、シリアと旅して、パルミラに辿りつきました。そこで出会ったアブドュルラティーフ一家は総勢60人以上が一緒に暮らす大家族でしたが、放牧をしながらのんびりとお茶を飲み、家族や友人との団らんを何より大事にしている。彼らのゆとりある暮らし(=ラーハ)に強く魅かれました。」

シリアの地で出会った家族、そして愛する人。しかし苛酷な運命が一同を待っていた…

その暮らしぶりを追いたくなった小松さん、翌年も、また翌年もと通い、一家の写真を撮り続けようと考えた。やがて一家の12番目の息子ラドワンと親しくなっていくが、イスラム教徒の彼とは男女2人きりの時間など到底持てない。女性たちは立場が弱く、普段は男性の目に触れることなく、女性だけの時間を過ごすのがイスラム世界のルールだった。

 

「彼の父親ガーゼムからも、旅人としては歓迎されましたが、結婚は家族や社会という背景があるものだと諫められたりしました。一家の女性たちには、最初は私のカメラを避け、逃げられてましたが、2年目からは仲間に入って一緒に家事や裁縫をしました。でも女性たちだけの、しかもできることが限られた暮らしはやはり窮屈で、私には3日が限界でしたね。」

 

シリアの古都パルミラの大家族とそのコミュニティに飛び込むが、やがて…。その変遷を見つめる小松さんの文章から、テレビやネットのうわべでしか知りえなかった現地の様子が、個別の「人間」の姿として浮かび上がる

 

 

小松さんがパルミラに通うようになって4年後の2012年、シリア内戦が始まった。最初は政府軍と反政府軍の交戦、2014年からは過激派組織IS(イスラム国)の攻撃が加わって激しさを増していく。多くのシリア人が犠牲となり難民として故郷を離れざるをえなくなった。

「アブドュルラティーフ一家の平穏な暮らしも奪われ、家族もバラバラになっていきます。ラドワンは政府軍に徴兵されましたが、自力で脱出を図り、その後ヨルダンで難民となりました。彼の兄サーメルは民主化運動に参加した後、逮捕され、いまだ行方不明です。彼の両親もパルミラを脱出してトルコに逃れて、今はトルコ南部で暮らしています。」

 

戦火に逃げまどい、理不尽な体制に脅かされ、豊かで落ち着いていた人々の心も荒れた。
ISに活路を見出す友人もいれば、政府に捕らわれ拷問を受けた話も伝え聞いたという。少し前までの穏やかさとのコントラストが悲しい。戦火の中で翻弄される大家族。そして小松さんとラドワンの運命は・・・?

 

 

幸せだった家族を不幸に陥れた、シリア内戦の現実を何とか伝えたいと考えた小松さん。ただ、本当に伝えたい現実は、最前線の戦場ではなく、そこにいたはずの「人間」のことだった。彼女が撮りたい、伝えたかったシリアで暮らす人々の生活や家族の変遷を、この本が克明に伝えている。

 

現在、シリアはどうなっているだろうか。日本や世界の国々同様コロナ禍にあり、困難さは増していることも懸念される。小松さんも、今は現地に飛ぶこともできない。
「難民キャンプでは新型コロナの感染も心配ですが、それ以前にインフラが整わず、飲み水や食べ物が不足して支援を必要としています。報道ではなかなか伝わってきませんが、トルコに残っているラドワンの家族や、シリアの友人たちと連絡を取り合い、彼らから聞く状況をこれからも伝えていきたいと思います。」

 

シリアの状況と、そこに生きる人々の暮らし。我々には想像もつかなかった世界が、小松さんの文章と写真を通じて鮮烈に伝わってくる。決して「他人事」でなく、自分自身で知りたいと努力して、そこに生きる異教の人々の平和を願う。その大切なきっかけを、彼女の著書『人間の土地へ』が教えてくれたように思う。

(インタビュー・文=金田千里 撮影=山下みどり)

 

『人間の土地へ』  集英社インターナショナル ¥2000(税別)

世界で最も困難な山K2に登頂し、その後旅に出て
シリアのある一家と出会った。やがて起こる内戦で
翻弄されるその家族や友人を通じて、土地に生きる
人間たちを克明に描き出す、ノンフィクション作品。

 

●著者プロフィール
こまつ・ゆか=1982年、秋田県生まれ。高校時代から登山に魅せられ、東海大学山岳部に入り、エベレストをはじめ国内外の山に挑戦。2006年 世界第2位の高峰K2(8611m)の登頂に成功。植村直己冒険賞ほか受賞。その後フォトグラファーとして、シリア内戦や難民の取材をする。著書は「オリーブの丘へ続くシリアの小道で ~ふるさとを失った難民たちの日々~」(河出書房新社)ほか。

 

 

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