袋田の滝を見ましたか? 絶景と温泉、一挙に堪能!
もしもあなたが日本に住みながら、「袋田の滝」を見たことがないなら、まちがいなく損をしている! ましてや関東に住みながら見ていないなら、それはもう、もったいないなんてもんじゃないよ、これはーーーっ! と叫びました。
そう、袋田の滝で。前回から続く「いば旅」は、今回その話からはじめたいと思います。
袋田の滝は日本三名瀑(めいばく)のひとつ。瀑とは、滝のこと。
ちなみに、日本三名瀑のあとのふたつは「日光華厳の滝」と「那智の滝」。
またこの3つの滝は、瀑布(ばくふ)でもあるそうです。
瀑布とは、高いところから白い布を垂らしたように直下する滝のこと。
夏の季語、と広辞苑に。確かに力強く目にも涼しい。
新明解国語辞典には、大きな滝の漢語的表現とあります。
この袋田の滝、それはただの瀑と言うのには惜しい、まさにザ・瀑布。
布が流れるような幅広の滝がすごすぎるでしょ? 写真では伝えきれないのが悔しい。日本にこんなところがあるのか! と心底驚きました。
世界ではナイアガラの滝や、ビクトリアの滝などが瀑布として知られています。
そのナイアガラの滝にも行ったことはあるのですが(行かれた方も多いと思いますが)、どうだ! すごいだろう的なあの破壊力とはまた違って、袋田の滝には神秘さがあり、怪しさがあり、野卑さもあり。
あちらがフルオーケストラの交響曲なら、こちらは低音の尺八が聞こえてきそうな。マーベルコミックス(marvel)に対する鬼滅の刃、みたいな。
場所は、茨城県大子町(だいごまち)。水戸から水郡線で袋田駅へ出てバスで10分ほど。私たちは水戸からレンタカーで1時間15分ほどで着きました。
ちなみに、東京都内からだと2時間半から3時間のドライブです。
この滝、人がわけ入れないところにあるのですが、それを真正面の特等席から間近に見られる観瀑台がつくられています。作った人、相当大変だったはず、ほんとにありがとう。
しかも、10月から1月末までは「大子来人~ダイゴライト」と称した夜間ライトアップもあると聞いて、まずは夜、行ってみました。
入場チケット300円を購入して、きれいに整備されたトンネルを抜け、ずんずん行き、エレベーターで観瀑台にのぼると、ボババババー―っという飛沫の爆音が聞こえてきます。見ればそこに、すんごい滝が。
高さ120メートルから、4段の巨岩を経て、だんだんだんだん、ざーざーざーざーっと落下する様から“四度の滝”とも呼ばれているそう。
見ていると、惹かれながら、引く、という矛盾した感情が混在する不思議な感覚に。
この場から逃げたい恐れも感じつつ、離れがたく吸い込まれそうにもなる。きっとなにものかが棲んでいる! そんな魔力を感じる滝を私は初めて見ました。
滝の圧倒的な水量に、滝行なんてしたら死ぬな、と勝手に確信していると、「冬に完全に凍って氷瀑(ひょうばく)になったら、ロッククライマーが登りに来るんだって」と相方。
いやはや、どんなアドレナリンが出るのか興味深いけど、恐れおののきますね、命知らずがいるのだ、世の中には(100%凍ればトレーニングしている方なら大丈夫なんですって)。
朝も見なければならない、錦織り出す滝
かの吟遊歌人、西行は「花もみち 経緯(よこたて)にして 山姫の錦織出す 袋田の瀧」と詠んでいます。
確かに、滝の水の流れは、細い糸のよう。それは機織りに張られた白い糸の集まりのようでもあります。
流れる水=糸の集まりは、1枚の布を紡ぎだしているようだから、山の姫が錦を織出している、と。
さすが西行、との思いを強くしたのは、翌朝でした。
次の日朝早く、再び滝へ。朝はまた表情が違うと聞いていた通り、“昨夜とは別人のようじゃ”となぜか時代劇調になって目を瞠りました。
それぞれの水=糸の流れがはっきりと見え、それはそれは美しい、眼福。
1本1本が際立ち、意思をもって流れていくよう。背後に朝陽が輝くさまは、荘厳で、大聖堂のパイプオルガンが聴こえる気がしました。
ダンテは“ナポリを見て死ね”と言ったらしいけど、“袋田の滝を見てから……”と。
つまり泊まって、夜、朝、両方の袋田の滝を見るのがおすすめなのです。しかも、ここは温泉街(え、先に言ってよ? ですね)。
到着したら滝を見て、地元の料理、地酒、温泉、朝ふたたび滝!
絶景、温泉、絶景! 嗚呼。
夏は鮎ざんまい、冬は軍鶏鍋か
私たちが今回泊まったのは「滝味の宿 豊年万作」さん。
滝の入り口まで歩いて5、6分。滝から流れてきた水が、おちついてゆったりまどろみ流れる久慈川沿いの温泉宿です。
大子町は福島との県境に近い奥久慈にあり。奥久慈とは川釣り(鮎も!)で有名な久慈川の上流域を指します。夏は鮎もおいしいらしいけど、時は晩秋。さて? と思っていたら、奥久慈と言えば軍鶏(しゃも)、と耳にして、迷わず夕食に軍鶏すきやきをリクエストしました。
軍鶏は、身が固めで野趣ある味わい。から揚げもおいしいらしい。
ゆったり温泉につかり、大子ビール『やみぞもりのビール』でまったり。このビールがうんまい。大子町の「大子ブルワリー」で製造されているクラフトビールだそう。
醸造所も行ってみたいねー、なんて話しながら、静かな静かな夜が更けていきました。
ところで、ここでは朝ランもおすすめしたい。川沿いの道を、ザ・ニッポンな山景色、川景色を見ながら走れます。
ひなびた(ほめてます)温泉街、まだ店が開く前の通りを走るのもまたよし。
夜は早く休み、朝は早めに起きて走って、朝の滝を見て、もどったら名残おしく湯につかり、のんびり朝ごはん、サイコーじゃないか。
しかも、こちらの朝ごはんが、奇をてらうことなくとーってもおいしかったです。
特に、“谷田部さんの奥久慈米”がよかった。久しぶりにおかわりしました。こだわりの低農薬有機米だそう。それを都度精米して届けられるのだとか。
女性のお客さんが多いのにも納得です。
さあ、今日は帰る前にりんご狩りへ。大子町は日本のりんごの南限とか。熟すまで枝につけたままにしておいて収穫するという、真っ赤なりんごを求めて。
藤田りんご農園へ
宿から車で30分ほど。迎えてくださったのは、藤田りんご農園の藤田さんご夫妻。
おふたりのなんとおしゃれなことか、レギンスから覗くソックスも真似したいかわいさ。センスいいなー、すてきだなーと思っていたら、やっぱり、りんご園全体がとっても洒落ていました。
赤をアクセントにしたデッキスペースでは、りんごの試食ができます。ナイフとカッティングボードを貸してもらい、自分でりんごをむいて食べるスタイル。
“味見して納得して買ってね”という思いから、大子町のりんご園さんは多くが試食をさせてくれるのだそう。
「おいしー、ものすごいジューシーさですね、真ん中の蜜もさわやか」と言うと「とにかくりんごは鮮度だから」と藤田(妻)さん。
ここで食べさせてもらうりんごはもぎたて。香り高く、しゃきっと、果汁がじゅわーっとあふれ、あらためてりんごっておいしいなーと。
「もぎたてが絶対的においしいと思うんです。あとはどんどん水分が抜けていくから、冷蔵庫にも入れないほうがいい。いっそ食べきれない分はすぐに煮たりしたらいいのよ。
少しおく場合は、家の暗くてすずしいところに。できたら1個ずつ包んで」とアドバイスをいただきました。
こちらでは自分でりんご狩りをして持ち帰ることも、購入だけすることもできます。発送もやってくださるので1箱買うのもおすすめ。この日も、りんごを求めていく地元の方が次々と訪れていました。
またもぎたてを加工したアップルパイも大人気。水戸で開かれたG7サミットのとある会議でデザートに採用されたアップルパイなのです。もちろんお土産に購入しました。
これがりんごたっぷり。しかも煮崩れすぎず、りんご感がしっかりごろっとある、さすがの仕上がりでした。パッケージ、紙袋までかわゆし。
ところで、藤田さんは、代々りんご園を営んでいた夫(藤田さん)と恋愛結婚で、農業の経験はゼロ。
不安じゃなかったですか? と聞くと、「はじめてのことがいっぱいだったけど、もともとりんごが大好きだったからうれしかったかな。アップルパイを試行錯誤して作ったり、ドライりんごを開発したり、このおいしさを伝えたくていろいろやっています。毎日楽しいですよ」と最高の笑顔で話してくれました。
りんごを1箱、実家へ送り、アップルパイとべっこう飴色のドライりんごを自分たちのお土産に、帰路につきました。
ちなみに、アップルパイはネットでもお取り寄せできます。
【DATA】
袋田の滝