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六本木で現代アートの楽しみ方再発見

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。

 

今回は、森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)ほかで開催中(2022年5月29日〈日〉まで)の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」のご紹介です。

 

Chim↑Pom(チンポム)は、2005年に結成された日本でもっともラディカルなアーティストコレクティブ。コレクティブとは複数のアーティストが協働する形態のことで、メンバーは、卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀の6人。独創的なアイディアと卓越した行動力で、現代社会に起きているさまざまな出来事や問題点に対するメッセージ性の高い作品を作り続けています。

 

今回は、そのChim↑Pomの最大の回顧展で、コロナ禍以前に企画されました。その後の社会状況の変化により開催が遅れたものの、その間に起きた出来事をテーマにした新たな作品も生まれ、わたしたちの今の生活により直結した展示となっています。

左から、卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀

 

今回は開催日の前日に行われた報道内覧会に出席したため、作家さんたちのお話もうかがうことができました。彼らの作品は街頭や野外で展示されることが多いようですが、それらを美術館という空間の中に再構築。通常の回顧展のように年代順に作品を並べるのではなく、作家さんたちの発案による独特の展示方法が取られており、まるで自分が作品の中に入り込み、そこに込められたメッセージを体で感じ取るような、あるいは、作品の一部になったかのような、新鮮な体験ができます。

 

これは、写真や文章ではなかなか伝わりにくい感覚なので、ぜひ、ご自身で足を運んでみることをお勧めします。

 

 

ビルバーガー

2018年

にんげんレストランのビルから切り出された全フロアの床、各階の残留物、ミクストメディア

 

この展覧会は10のセクションと共同プロジェクトスペースで構成されています。

上の作品は、最初のセクション「都市と公共性」に展示された作品のひとつである「ビルバーガー」の一部です。ハンバーガーに象徴されるようなファストフード的大量生産、大量消費を思わせます。

 

 

ゴールド・エクスペリエンス

2012年

ターボリン製バルーン、ミックストメディア

 

大きな黒い袋は、道端に放置されたゴミ袋を想起させます。内部の底にはトランポリンのようなものがあり、入って、自分がゴミになったかのような不思議な体験をすることもできます。この写真の右手にあるスロープを登って行くと、二層構造になった展示室の上層部に、アスファルトで舗装した道が現れます。

 

これは、この展覧会のために制作されたサイトスペシフィック・インスタレーションで、この場所でイベントやハプニングも行われる予定です。

 

 

Don’t Follow the Wind

2015年-

 

これは、東京電力福島第一原子力発電所の事故により放射能汚染された福島県の帰還困難区域内で開催されている展覧会の名前で、2015年から現在に至るまで開催中です。Chim↑Pomの発案により、自身を含む国内外の12組の作家による作品が、元住人から提供された会場に設置されています。

 

しかし、現在そこは一般人が足を踏み入れることができない状態なので、これは、〝観に行くことができない展覧会“なのです。今回は、大きな窓のある展示室で、そのプロジェクトが紹介されています。福島に思いをはせると同時に、今見えている巨大都市東京にも同じような災害が起き、誰も住めなくなる可能性もあると感じました。

 

 

ヒロシマの空をピカッとさせる

2009年

ラムダプリント ビデオ

 

広島の原爆ドームの上空に、飛行機雲で「ピカッ」という文字を書いた作品です。現代の日本人が平和漬けになり、過去の戦争についてどんどん無関心になっていることへの注意喚起を促すという意味ではないかと思います。

 

しかし広島には、当然、原爆症に苦しむ人々やその子孫も暮らしているため、誤解を呼び、論争に発展したそうです。Chim↑Pomは、広島市民たちとの対話を重ねてプロジェクトを継続。広島をテーマにした作品を作り続けています。

 

 

LEVEL 7 feat.「明日の神話」

2011年

アクリル絵具、紙、塩化ビニール、ビデオほか

 

Chim↑Pomは2011年の東日本大震災発生直後から、震災と津波、原発事故に関するさまざまなプロジェクトを行っています。繰り返しテーマにすることで、あの未曾有の災害の記憶が人々の心の中で生き続ける助けになると思われます。

 

これは渋谷駅にある岡本太郎の巨大壁画⦅明日への神話⦆の右下余白部分に、福島第一原子力発電所の事故を描いた絵をゲリラ的に設置したもので、現在は岡本太郎記念館の所蔵となっています。

 

 

USAビジターセンター「ジ・アザー・サイド」プロジェクトより

2017年

ジークレープリント

 

「ジ・アザー・サイド」とは、アメリカとの国境沿いに住むメキシコ人たちがアメリカを呼ぶ時の通称。すぐそこにあっても自分たちは行くことのできない憧れの向う側という意味でしょうか。

 

Chim↑Pomは、2016年に、メキシコのティファナにある国境沿いの地域を訪れ、国境の壁のすぐ横に、ツリーハウス「USAビジターセンター」を建てました。この写真はそれを写したものです。

また今回の展覧会では、会場にそのツリーハウスが再現され、内部に入ってメキシコの人々の気持ちを想像してみることもできます。

 

 

May, 2020, Tokyo(へいらっしゃい)―青写真を描く―

2020年

 

まだ記憶に新しい2020年5月、新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言下の東京で、Chim↑Pomは、このようなビルボードを都心部の各所に設置しました。東京オリンピックという明るい未来に向かっていたはずの東京に突然起きた奇妙な出来事を、シンプルに表現しています。

 

わたしがよく行く新宿にもあったようですが、この作品が設置されたころはほとんど出かけた記憶がなく、見ておりません。これもまたひとつの“観に行くことができない展覧会”だったのでしょうか。

 

 

スピーチ(「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」より)

2007年

ビデオ

 

Chim↑Pomのメンバーのエリイさんは、世界に存在する根深い社会問題に新たな視点を与えるために、さまざまな形の行動をしてきました。

こちらはカンボジアで撮影されたビデオで、チャリティとセレブリティ文化をテーマに、地雷爆破と寄付を呼びかけるプロジェクトのためのスピーチです。

 

 

金三昧

 

館内のミュージアムショップで展開されるプロジェクトで、オリジナルデザインのグッズや、実験的な「商品」や「作品」を展示販売しています。

 

 

くらいんぐみゅーじあむ

 

現在、Chim↑Pomのメンバーたちは子育て世代で、子どもを連れて外出する際には、さまざまな社会的、物理的なバリアを経験します。こちらは、そこから着想を得たプロジェクトで、子育て世代の人にも積極的に美術館を利用してもらうための託児所です。近年は、電車の中で赤ちゃんが泣くことさえ容認できない大人が増えています。

 

このプロジェクトは、静かであるべき美術館に子どもの泣き声を響き渡らせることで、そうした社会のあり方への問題提起ともなっているようです。実際にこちらにお子さんを預けたい方は、公式ウェブサイトで詳細を確認してください。

 

 

ミュージアム+アーティスト共同プロジェクトスペース

この展覧会が実現するまでに生じた作家たちと美術館側とのさまざまな見解の相違などをきっかけに生まれたスペースで、美術館とは別の場所にあります。こちらでもいくつかの作品が展示され、多様な専門家によるトークも行われます。

当日予約のみで、森美術館の特設カウンターにて申し込みが必要です。

 

 

Chim↑Pom展:ハッピースプリング

森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)ほか

2022年2月18日(金)~5月29日(日)

詳細は、公式ウェブサイトをごらんください。

 

 

𠮷田さらさ 公式サイト

http://home.c01.itscom.net/sarasa/

個人Facebook

https://www.facebook.com/yoshidasarasa

イベントのお知らせFacebook

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