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ベルギーのテロで亡くなった監督が残した福島。映画『残されし大地』について

山本圭子

山本圭子

出版社勤務を経て、ライターに。『MORE』『COSMOPOLITAN』『MAQUIA』でブックスコラムを担当したのち、現在『eclat』『青春と読書』などで書評や著者インタビューを手がける。

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春の足音が遠くから聞こえ始めたある日、OurAgeのふみっちーから「映画の試写会に行きませんか」とお誘いがありました。

 

 

『残された大地』というタイトルのその作品は、福島原子力発電所の事故のあとも土地に寄り添って生きる3組の家族を描いたドキュメンタリー。

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監督のジル・ローランさんは映画の編集作業がほぼ終わった昨年3月、祖国のベルギー・ブリュッセルで地下鉄テロに遭い、命を落とされた方だそうです。

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ジル・ローラン監督

 

 

奥様が日本人で、彼女の母国の“福島”とそこで生きる人々に興味を持ち、いろいろなことを調べ、メガホンを取る決意をしたローランさん。
彼の声高ではないメッセージがまっすぐ伝わってくる映画だっただけに、遺作と知って残念でならなかったし、原発事故とテロを同列に語れないとわかりながらも、「なぜこんなことが起きるの?」という思いがこみ上げてきました。

 

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映画出演者とスタッフ

 

初めに「土地に寄り添って生きる3組の家族」と書きましたが、事情やスタイルはさまざまです。

 

 

自宅や地域で飼っていた動物の保護のためにその地に残った人。

事故前と同じように農業を続ける人。

雇用促進住宅からの帰還を見据えて、放射能測定器を携えながら自宅の手入れをする人。

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これからも美しい自然の中で生きようとする彼らの姿が、観る人の感情をことさらBGMでかき立てることもなく、最初から最後まで淡々と、時には自然なユーモアを醸し出しながら映し出されていきました。

 

 

ひとことで言えば、静かな印象の映画です。3家族の誰も声を荒げることはなく、耳に届くのは風が木を揺らす音、茶の間や畑での会話、どこからか響いてくる自治体の広報車の音声……。

 

 

ただ、あの日を境にすべてが大きく変わってしまっています。その原因と目には見えない影響を、私たちはみんな知っています。

 


観終わったあと、ふみっちーとカフェに入りましたが、「熱く語り合う」という感じにはなりませんでした。(もちろん楽しくおしゃべりしましたけど)

 

 

その理由は多分、ふみっちーも私も、彼らの日常から切実な思いや複雑な思い、あっけらかんとした強さなどたくさんのものを感じ取って、自分の気持ちに一番ふさわしい言葉がすぐには見つからなかったからだと思います。

 

 

そんな中で私がひとつだけ「きっとそう」と感じたのは、「彼らにとって故郷に残るのは、言語の中で日本語を選択して話すのと同じくらい当たり前だったのでは。そこから離れれば、自分が本来やるべきことができないという危機感があったのでは」ということでした。

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映画を観てから数日経った今も、感想にふさわしい言葉がはっきりと見つかったわけではありません。
でも一方で「もしかしたらそれでいいのかも」という気もしています。

 

 

なぜなら感想をきちんとまとめるより、日常のいろんな瞬間にあの映画のことを思い出し、考え、自分に問い返すことのほうが大事だと思えるから。それは流動的なものでもいい、と感じ始めたからです。

 

 

映画の終わり近くで、帰還を見据えて手入れされた家――佐藤さん宅に、友人たちが集まります。
彼女たちはそこでの久しぶりの語らいに感慨を漏らしますが、仲のいい間柄でもこれからの生活については微妙に考えが違うことが伝わってきます。

 

 

どれが正解というわけでもないのもわかります。
それでも彼女たちは佐藤家の庭で実った生命力の象徴と言われるイチジクを食べ、「おいしい!」と感動しあい、オカリナと歌で音楽を奏でる……。
その表情を見て、決して誰も奪うことのできない生きる喜びがここにある、と思いました。

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ラストシーンで映し出されるのは、今は人気のないかつての町並みです。
そこから私が感じ取ったのは、関わらずにいたら大切なものも必要なものもすべて風化してしまうという残酷な現実。
無音で流れる風景だけに余計にそれは雄弁で、どこにでもあるような町並みは「福島以外でもありえたこと」と訴えているようでした。

 

 

もしかしたら観る方によって、この映画から受け取るものや心に響く部分はかなり違うかもしれません。

 

 

でも、逆に言えばそれは映画に自由度があるということ。

 

自然と人の営みについての意見はさまざまでも、間違いなく誰もが自分に置き換えて考えてみたくなる映画だと思いました。

 

 

〈編集マドレーヌからも、ひと言〉

実は、「残されし大地」を見た後、ジル・ローラン監督の奥様と話す機会がありました。私の心に残った場面を正直にいくつかお伝えしたところ、「あ、(上の)娘と同じ」というお返事。ご夫妻には6歳と4歳のふたりのお嬢さんがいらして、ベルギーでの試写で、お父上が遺した映画をぐずらずきちんと見たそう。奥様が「どこがよかった?」とたずねたら、上のお嬢さんが答えたのが、動物の世話をするために残った男性とダチョウの仲むつまじいシーンだったのだとか。すぐ隣で除染作業が行われる中で、人とダチョウがお互いに信頼しあっていることが伝わる、ちょっと現実離れしたユーモラスで物悲しい場面です。6歳のお嬢さんと50代編集者、人間が惹きつけられる光景は本質的にいっしょなのだなあ、と思いました。

 

また、映画がはじまってすぐの、男性がたったひとりで、牛に与える巨大な藁の固まりを運ぶ、静かで力強い息づかいや雨の音。ラストシーンで、オカリナを伴奏に歌われる「ローレライ」。その調べが途切れたところに、まったくの無音の中で流される無人の幹線道路の映像。
映画を見終わった後、ジル・ローラン監督が、元々映画の音響の専門家であったという事実を知りました。BGMを排除したこの映画を見ている間中、胸をざわざわとさせたリアルな音の演出に、深く感じ入ったのでした。

 

 

『残されし大地』
2017年3月11日シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

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