野菜の抗酸化成分をとれば病気予防につながるなら、生野菜サラダでもいいのでは? でも実は、サラダよりスープで野菜をとるほうが効果が絶大なのだそう。その理由を熊本大学名誉教授の前田 浩先生に伺いました。
前田 浩さん
Hiroshi Maeda
熊本大学名誉教授。バイオダイナミックス研究所理事長。がんの治療や予防、フリーラジカル(特に活性酸素と一酸化窒素)、ドラッグデリバリーシステムなどを研究。著書に『抗がん剤の世界的権威が直伝! 最強の野菜スープ』(マキノ出版)など
生野菜を食べても栄養素は体に吸収されにくい!
野菜に含まれる強力な抗酸化成分が、トマトのリコピンや、ほうれん草のルテインに代表されるファイトケミカル。
「ファイトケミカルの多くは野菜の細胞内にあり、細胞はセルロースでできた頑丈な細胞壁に囲まれています。ファイトケミカルを取り出すなら、この細胞壁を壊さねばなりませんが、人間の体内ではセルロースは消化できません。
また、野菜をよく嚙んだり、細かく刻んだりした程度では大半の細胞壁は壊れず、細胞内の成分を吸収することができません。
実際に、生野菜を食べたあとの便を調べると、野菜の細胞は未消化のまま便に排泄されています。生野菜を食べても、ファイトケミカルはわずかしか吸収されないのです」
野菜をゆでると細胞壁が壊れ、栄養が溶け出す
これに対して、野菜スープは成分の吸収力が高いのが特徴です。
「野菜をゆでることで、頑丈な細胞壁があっけなく壊れ、ファイトケミカルはスープに溶け出します。私たちの行なった実験では、野菜の活性酸素を消去する働き、つまり抗酸化作用は、生野菜をつぶしたものより、野菜を煮出したゆで汁のほうが10〜100倍も高いことが明らかになりました。
また、抗酸化作用が高いビタミンCなどのビタミン類や、ミネラル類もスープに溶け出しています。これらの有効成分は熱にも強く、加熱しても壊れにくい。野菜スープなら、サラダと比較にならないほどの強力な抗酸化パワーが得られるのです」
野菜スープはここがスゴイ!
野菜は、スープにしてとるほうが抗酸化成分などの栄養素がしっかりとれます。その理由をまとめると、以下の3つ。煮ることでかさが減るので、生で食べるより量をたくさんとれるのもメリットです。
加熱によって野菜の細胞壁が壊れ、体への吸収率UP!
野菜の細胞は硬い細胞壁に囲まれていて、よく嚙む程度では壊れません。
「でも、95〜100℃のお湯で5分ほど煮ることによって、細胞壁が壊れ、細胞内の成分の80%以上がスープに溶け出します。つまり、野菜は加熱してスープにしたほうが、栄養素の体への吸収が格段に高くなるのです」
野菜は煮出すことで抗酸化力が10〜100倍に
生野菜をすりつぶしたものより野菜スープのほうが、野菜の抗酸化力は10〜100倍もアップ。
「例えば春菊の抗酸化力は、生をすりつぶしたものを10程度とすると、5分煮出したゆで汁は100近くに。ほかの野菜についても、スープにしたほうが抗酸化力が大幅に上がることがわかっています」
野菜スープならビタミンCも、加熱しても壊れにくい
ビタミンCは加熱すると壊れるといわれていますが、野菜スープの場合は当てはまらないそう。
「ビタミンCは単体では加熱に弱いのですが、野菜のビタミンCは、ビタミンEやファイトケミカルなどほかの抗酸化物質と共存しているので酸化から守られ、加熱しても分解されず大半が残ります」
撮影/三木麻奈 料理/美才治真澄 スタイリスト/西崎弥沙 取材・原文/和田美穂