一般社団法人発酵ライフ推進協会代表理事。 大学時代に日本食文化の研究に勤しみ、卒業後、「銀座すしもと」にて修業。日本料理と魚料理の基礎を学ぶ。2005年より魚専門料理教室「Ristorante我が家」を主宰し、生徒数3000人を超える予約の取れない料理教室として多数メディアに出演。「Cheeza」(江崎グリコ)や「まる」(白鶴酒造)のCM料理について開発にかかわる。'17年5月、東京丸の内にて、発酵食と魚の飲食店「にっぽんのひとさら」をオープンするが、コロナ禍の影響により'20年惜しまれながら閉店。現在、日本各地の地域特産品開発アドバイザーとして新商品・レシピの開発支援に力を注ぎ、全国で講演会やセミナーを多数開催。そのほか、「発酵のチカラで日本を元気に!」を合言葉に、ホテルや飲食店のアドバイザーとしても活躍中。
「時短」と「おいしい」が同時にかなうのが発酵食の魅力
発酵食文化研究家として、発酵食の魅力を伝えるべく、日本全国を飛び回る日々を過ごしている是友麻希さん。そんな是友さんの活動を支えているのは、発酵食への深い愛情です。
「大学時代、日本の食文化を研究する中で発酵食に出会い、長い時間をかけて微生物によって生み出される旨味やコク、そしてさまざまな栄養が、私たちの暮らしに役立つことに魅了されました」と是友さん。
また、発酵食の最大の魅力は、「仕事や家事で忙しい人たちの毎日の料理を、短い時間で、簡単に、おいしく、栄養価の高いものにしてくれること」だと言います。
「発酵食には、微生物が長い時間をかけて生み出した旨味やコク、深い味わいがあります。それが私たちの時間と手間という、調理の負担を軽くしてくれるのです」
そこで今回は、和食の基本中の基本となる調味料、発酵調味料の中でも、家庭で使用されることが最も多いと思われるしょうゆの、是友さんおすすめの品を教えていただきました。
刺身との相性抜群! 火入れ・濾過なしの香り高い「生しょうゆ」
まず、紹介していただいたのは、「弓削多醤油(ゆげたしょうゆ)」の「吟醸純生しょうゆ」。
伝統的な製法を用いて、丁寧に造られたもの。
日本各地のしょうゆを知る是友さんが、心底惚れ込んだ、豊かな香りとふくよかな旨味が堪能できる逸品です。
「弓削多醤油は、日本で初めて『火入れなし』『濾過なし』の『生しょうゆ』を製造・販売した醤油蔵。
『吟醸純生しょうゆ』は木桶で仕込んだ、酵母の生きているしょうゆです。
刺身につけるとそのおいしさはまさに革命的! 家庭で食べるごく普通のお刺身がぐんとランクアップします」
一般に「生しょうゆ」と呼ばれているものは、加熱殺菌は行わないものの、精密濾過により酵母菌・乳酸菌を取り除き、常温流通できるようにしてあります。
一方、「弓削多醤油」の「吟醸純生しょうゆ」は、まさに「搾ったままの」生しょうゆ。常温では日もちがしないため、通常のしょうゆ棚に並べて販売することは不可。冷蔵ケースでの販売となります。
成分調整していないので、木桶ごとに微妙に風味が異なっている場合もあるそう。
これは、仕込んだ木桶の状態、仕込み時期、あるいは、原料による違い。まさに、天然醸造品ならではの醍醐味です。
吟醸純生しょうゆ
弓削多醤油
香ばしい香りと軽い食感を楽しむ新感覚のしょうゆ
次は、「キッコーマンこころダイニング」の「サクサクしょうゆアーモンド」。
しょうゆもろみを配合したフリーズドライしょうゆに、ローストアーモンド、フライドオニオン、フライドガーリックといった具材を加えたトッピング調味料です。
「サクサク食感が楽しいドライしょうゆ。
発酵食というと、茶色くてドロドロしたものというイメージが強く、あまり今っぽいというか、おしゃれな感じがしないですよね。でも、そのイメージを最初に払拭してくれたのが、この商品だと思います。
何にのせてもおしゃれな雰囲気になります。もちろん、味も絶品です」
サラダにかける、豆腐やゆでた野菜にのせる、パスタにあえる、フランスパンやチーズにつけるなどなど。
さまざまな料理に使えて見た目もよく、食感もグレードアップします。
サクサクしょうゆアーモンド
キッコーマンこころダイニング
濃厚な旨味を保ちつつ、淡い色の食材をクリアな色に仕上げる
最後に紹介していただいたのは、「日東醸造」の「足助仕込三河(あすけじこみみかわ)しろたまり」。
「これは、私がいちばん好きな『しょうゆ』です」と是友さん。
ただし、厳密に言うと、実はこれは「しょうゆ」には分類されないものなのだそう。
というのも、しょうゆと表示するには、「原料に大豆を使用している」ことが必須ですが、「しろたまり」は大豆を使用しておらず、小麦と塩だけで作った「究極の小麦の発酵調味料」。
製品には、小麦醸造調味料と表記されています。とはいえ、大豆を使用しないことと小麦麹を2倍使用すること以外、製造方法は白しょうゆとまったく同じ。是友さんはしょうゆと同様に使用しているそうです。
日東醸造は、創業以来ずっと愛知県碧南市で白しょうゆを作り続けている醸造メーカー。
究極の白しょうゆを作ってみたいという先代会長の思いから、平成5年、国産小麦で作った小麦麹を通常の2倍量使用して、食塩と活水器を通した水を加えて仕込む「三河しろたまり」が誕生しました。
「私は、茶碗蒸しに合うしょうゆを探していたときに『しろたまり』に出会いました。あまりのおいしさに、会社に連絡して、愛知県の蔵まで社長に会いに行ったくらいの感動のおいしさでした。
素材の色を損なわない優しい色味と芳醇な香りは、ほかにはないおいしさです」
足助仕込三河しろたまり
小麦の香ばしさと優しい甘味のしろたまりは白身魚や卵に
「しろたまりは、色からもわかるように、白っぽい食材とよく合います。
刺身ならイカ、白身魚、ホタテなど。卵系との相性もいいので、イクラを漬け込むときには濃口しょうゆではなく、しろたまりで漬けます。
また、ウニに、卵かけご飯に、だし巻き卵に。茶碗蒸しにもしろたまりが活躍します。
小麦の香ばしさと優しい甘味が特徴なので、色も味も穏やかなものには、どれでも合うのです」
【レシピ】
白身魚のカルパッチョ
材料(作りやすい分量)
ヒラメやマダイ、ホタテ、タコなど 適量
好みのハーブ 適量
柑橘類 適量
<ソース>
しろたまり 大さじ2
オリーブオイル 大さじ4
レモン汁 大さじ1
こしょう 少々
作り方
①白身魚は、薄切りにして、ハーブや柑橘類と一緒に皿に並べる。
②ソースをよく混ぜ合わせ、①の上からかける。
タコのカルパッチョも白身魚と同じソースでOKです。
【レシピ】
茶わん蒸し
材料( 2 個分)
卵 1個
だし汁 200ml
白しょうゆ :小さじ2
好みの具材(鶏肉、三つ葉、銀杏など)
<カニ風味あん>
カニ缶 1缶(60g程度)
しょうが 1切れ(約2g)
しろたまり 小さじ1
水 100ml
水溶き片栗粉(片栗粉小さじ:1、水:大さじ1)
白ごま 適量
作り方
①卵はよく溶きほぐす。
②1の中にだし汁と白しょうゆを入れ、一度、ザルでこす。
③耐熱容器に②と具を入れ、アルミホイルでふたをする。
④フライパンに厚手のふきんを敷き、③をのせて、容器の高さの 1/3 くらいまで水を入れる。ふたをして(ふたから水滴が落ちる場合は、ふきんか新聞紙をかぶせる)、中火にかける。
⑤沸騰したら2分加熱し、その後、弱火で 10 分、火を止めて10分、そのまま蒸らす。
⑥別の鍋に、水溶き片栗粉以外のカニ風味あんの材料を入れて温め、最後に水溶き片栗粉でとろみをつけ、出来上がった茶碗蒸しの上にかける。白ごまをふる。
ぜひトライしてみてくださいね。
料理写真/是友麻希 取材・文/瀬戸由美子