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将来の自分のために「逆算」する。行正り香さんが「終の棲家」に求めた条件とは?

料理家、インテリアデザイナー、さらに子どもの英語教育など、さまざまな分野で長年活躍している行正り香(ゆきまさりか)さんは、いつも少し先の自分を思い描きながら行動してきたそう。20年以上前に未来の理想から「逆算」して選び抜いた家に、50代の今も愛着を持って暮らしています。

「生涯現役」という夢をかなえたい

私も50代後半になりました。「生涯現役」をモットーに生きてきて、おかげさまで今も好きなこと、興味があることを仕事につなげつつ、日々楽しく、忙しくしています。

行正り香さんポートレート スタジオにて

ずっと心がけてきたのは、常に「逆算」しながら物事を決めるというスタンスです。人生のような大きな時間軸であれ、我が家のインテリアであれ、料理であれ、大枠の目標や理想を決めたうえで、まず何から手をつけたらいいのかを考えてから、行動に移すようにしています。

 

もちろん、人それぞれ、さまざまな生き方や考え方があると思いますから、あくまでも参考までにということで、具体的な私の「逆算」方法の一例をお話ししますね。

 

この連載の第1回~第5回では、自宅をご紹介しました。

今回、撮影チームの皆さまにお越しいただいたのは、私がスタジオと呼んでいる仕事場です。といっても、自宅と同じマンション内にあり、友人を招いて気軽な食事会をしたり、時には泊まっていただいたりもする別宅です。

行正り香さん スタジオのキッチン

自然光を入れて空間を広く見せるためにも、友人とおしゃべりしながら料理をするためにも、自宅同様、オープンキッチンにしています。

 

基本的にノートパソコンさえあれば、いつでもどこでもそこが「仕事場」になる私ですが、この別宅では仕事について考えたり、試したりする時間が長いので、自分のなかで一応スタジオと位置づけています。

 

後から変えられないものを熟考して決める

なぜ自宅と同じマンションに別宅を持ったかといえば、自宅を購入する際、「この家を終の棲家(ついのすみか)にする」という強い思いのもとに、将来設計を描き、さまざまな条件と照らし合わせて選び抜いたからです。

 

そして、購入してからもうずいぶん長い時間がたちますが、今も、とても気に入っています。

 

終の棲家を選ぶ際に重要なのは、後から絶対に変えることができない希望条件を、まず決めること。その中で、私が最も重要と考えるのは立地です。

内装はいざとなれば、後からでも変えられます。でも、立地は変えられません。

行正り香さんスタジオのリビング 

私は東京の湾岸地域で暮らしています。

窓から見える視界は、広々と開けていて、窓の外を眺めると、とっても気持ちがいい。自宅の窓から見える借景を愛せるかどうかは、私にとって大きなポイントでした。

 

学生時代にホームステイしたアメリカのステイ先が川辺にある家で、素敵な風景の中で、自分らしい生活を楽しんでいたのが印象的でした。自分もそんなふうに暮らしていきたいと、憧れていたんです。この場所ならそれができる、と思いました。

 

また、私は出張が多く、無類の旅好きでもあります。空港に行きやすく、新幹線にも乗りやすい場所がよいなど、ほかにも希望の立地条件がありました。

 

なぜ、それが希望条件だったかというと、年齢を重ね、車の免許を返上したり、体に無理がきかなくなったりしても、飛行機や新幹線に気軽に乗れる場所に住んでいたら、旅に出かけるのがおっくうにならないでしょう?

 

「生涯現役」でできる限り長く、仕事も旅もしたいなら、気負わずに出かけられる、車以外の移動手段を確保しておきたい。この場所はその条件にもぴったり当てはまりました。

 

さらに、小さな子どもがいて、家で仕事をする時間も長いので、ある程度の広さも欲しかった。そうなると、当時の都心人気エリアに理想の家を買うのは、我が家の予算では難しくて…。

 

徒歩圏内にお気に入りのスーパーマーケットや水泳が気軽にできるプールがあるといった、細かい条件もクリアしたかったですし、譲れない条件と妥協できる条件をひとつひとつピックアップして、我が家の譲れない希望条件を満たした今の自宅に決めました。

 

最近の近辺の物件価格は決して安くありませんが、我が家を購入した頃は今ほど開発されていなかったので、手に入れやすい価格帯で、なんとか予算内に収まったんですよ。

 

 

将来なりたい自分のために、できることをやっておく

借景として、毎日眺めている東京の景色…。湾岸にも、海の向こうに見える都心にも、高層ビルがどんどん建って、変わり続ける東京を実感できるのも得がたい経験ですね。

 

おかげさまで、まったく後悔することなく暮らしています。今のところ、「逆算」して考えた通り、終の棲家にする予定です。

 

年齢や経験を重ねるなかで、ライフスタイルや考え方が変わることもあるでしょう。そうしたらまた、その時の自分から見た「将来なりたい自分」の姿から「逆算」して準備すればいいのではないでしょうか。もちろん、私も微調整しながら生きています。

 

いずれにしても、将来を想像し、そこに向けて「逆算」して十分に準備をすることは、理想の自分に近づくためにできる着実な方法だと思います。

 

まだ終活には早すぎるでしょう。今の自分を犠牲にし、無理して準備するのも本末転倒です。ただ、早め早めに考えておくに越したことはありません。気力や体力がいつ衰えるとも限りませんから。

行正り香さん スタジオの一角

部屋の隅に設けた小さなスペースで、一人のんびりと考えごとをする時間も好きです。

 

私は何か思いついたり、よい物やコトを見つけたりすると、誰かに伝えたくなる性分。年齢を重ねた女性が生き生きと暮らせるヒントを見つけたら、そのつど、これからも皆さまと共有していきたいですね。

 

行正り香
行正り香さん
料理家、インテリアデザイナー
公式サイトを見る
Instagram

福岡県生まれ。高校3年生からカリフォルニアに留学。大学卒業後は広告代理店でCMプロデューサーとして活躍後、料理研究家となる。またデンマーク親善大使に選ばれるなど北欧インテリアに造詣が深く、インテリアコーディネーターやリフォームプランナーとして、多数の家づくりに携わる。料理レシピ本のほか、インテリア本、英語スピーキング教材など著書は50冊以上。2023年、東京国立博物館のアンバサダーに就任。館内のレストラン・カフェ「ゆりの木」の照明ディレクションのサポートを務める。最新刊は『人生を変えるリノベーション』(講談社)。

 

撮影/藤澤由加 取材・文/中沢明子

 

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