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行正り香さんが思う「住まいづくりで、最初に考えておくべきこと」

料理家、インテリアデザイナーの行正り香(ゆきまさりか)さんが、今の場所で暮らし始めてから、20年近くがたちました。先の自分自身や家族の状況を思い描きながら選んだ立地はもちろん、インテリアも「逆算」して整えたため、今もとても気に入っているそう。長く愛せる部屋をつくるコツを教えていただきました。

後から変えられない部分を先に考える

自分や家族が心地よく暮らせる居住空間を整えたいなら、事前準備が大切です。つまり、部屋づくりも「逆算」して考えてから始めるとよいと思います。

行正り香さん、ピアノのあるスタジオにて

家づくりで絶対に変えられないのは立地面積ですが、間取りを後から変えるのも大変です。壁や柱をぶち抜けば、変えられる場合はありますが、構造上、それができないケースも多々あります。

希望の間取りが可能かどうかを確認し、できること/できないことを初めに把握しておきたいですね。

 

次に決めておくべきなのはです。なぜなら、部屋の中でいちばん面積が大きいからです。インテリアを考える際、キッチンなどの設備を先に選ぼうとする方が多いですが、壁は部屋全体に影響を及ぼしますし、後から変えるには面倒な部分でもあります。

 

といっても、どんな壁にすればよいのか、悩みますよね。先ほどお話ししたように、住まいで絶対に変えられないのは立地です。ですから、部屋から見える景色や日当たりなどの条件に合わせて、自分が好きなテイストを決めるとよいと思います。

 

例えば我が家は、東京の湾岸エリアにあります。窓からは、海の向こうに成長し続ける都心が見えます。

そんな変わりゆく東京に合う「モダン」をベースにしながら、普遍的な魅力がある「クラシック」を掛け合わせたインテリアにしたい、と考えました。

行正り香さんのスタジオ、リビングの写真

つまり、「モダン×クラシック」が我が家のインテリアコンセプトです。

モダンとクラシックは一見正反対のテイストですが、そのどちらもしっくりなじみ、包み込んでくれる色や質感の壁にこだわって、とにかく探しに探しました。

 

スイッチの場所だって変えられます!

理想としたのは、ヴェネツィアにあるサン・マルコ寺院の美しい壁。少しザラザラとした質感が素敵で「これだ!」とひと目惚れしたんです。

職人さんにお聞きすると「スタッコ仕上げ」という塗装で、イタリアのいろいろな建物に採用されているものでした。このスタッコ塗装ができる日本の業者さんをなんとか探し出し、白ともクリーム色とも違う、なんともいえない温かみのある色と質感を実現しました。大好きな絵画との相性も抜群でお気に入りです。

 

また、電気系統のスイッチやコードの配線も、気になる方は初めに考えたほうがよいでしょう。私は部屋のあちらこちらにスイッチがあるのが嫌だったので、インターホンとともに目立たない位置で1カ所にまとめてしまいました。

行正り香さんのスタジオ。スイッチ類は一か所にまとめる。

スイッチは使う場所に近いほうが暮らしやすいという方もいらっしゃると思います。ただ、私の場合は、スイッチの壁が見える場所は限られているほうが居心地よく過ごせます。

後から変えるのが難しい部分なので、私のように気になる方は、ぜひ初めにシミュレーションして考えてみてください。

 

とはいえ、十分に逆算して準備したつもりでも、うまくいかないことが私にもあります。

間接照明などの電気器具を置きたい場所に置けるように、コンセントの配置をよく考えたつもりでしたが、結局ほとんど使わないコンセントがあって…。

行正り香さんのスタジオ。コンセントを隠すインテリア。

使わないコンセントが見えるのがどうしても気になってしまい、実はサイドテーブルを置いてごまかしている場所があったりします。ごまかしきれているか、微妙なんですが(笑)。

 

お気に入りのCDはキッチンの棚にしまっています。

行正り香さんのスタジオ。CDはキッチンの引き出しに収納。

一人でいるときも、家族や友人と過ごすときも、その場に合う音楽が流れていると居心地のよさがアップする気がします。

 

部屋づくりにコスト管理は欠かせません

こうした、後から絶対に変えられない部分を決めたら、次に考えたいのは照明や絨毯。どちらも部屋の雰囲気を左右する大事な家具です。

 

我が家の照明はルイスポールセンのペンダントライトなどを採用しています。シャンデリアも素敵ですが、借景である東京の風景にはモダンな照明が合うと考えたからです。

 

フローリングの床も人気ですが、私はカーペットの優しい足あたりが好きです。

それから、色、柄、大きさのバリエーションが豊富なペルシャ絨毯も大好き。カーペットもペルシャ絨毯も面積が大きいので、じっくりと選びました。

行正り香さんのスタジオ。広いリビングのエリア分けに絨毯を敷く。

カーペットは壁と同じように、部屋全体の土台として選び、ペルシャ絨毯はコーナーを分けるイメージで、それぞれ敷いています。

 

リフォームなどの部屋づくりは、正直言って物件価値にはあまり関係ないので、コスト管理は欠かせません。

でも、終の棲家(ついのすみか)にしたいとか、これからの自分にもっとふさわしい部屋にしたいといった思いをかなえることも大切ですよね。

 

年齢を重ねた今、住まいを改めて整える前に、後から変えると大きなコストがかかってしまう部分を初めにしっかり考えてから、取りかかっていただきたいと思います。

 

 

行正り香
行正り香さん
料理家、インテリアデザイナー
公式サイトを見る
Instagram

福岡県生まれ。高校3年生からカリフォルニアに留学。大学卒業後は広告代理店でCMプロデューサーとして活躍後、料理研究家となる。またデンマーク親善大使に選ばれるなど北欧インテリアに造詣が深く、インテリアコーディネーターやリフォームプランナーとして、多数の家づくりに携わる。料理レシピ本のほか、インテリア本、英語スピーキング教材など著書は50冊以上。2023年、東京国立博物館のアンバサダーに就任。館内のレストラン・カフェ「ゆりの木」の照明ディレクションのサポートを務める。最新刊は『人生を変えるリノベーション』(講談社)。

撮影/藤澤由加 取材・文/中沢明子

 

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