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介護サービスをフル利用するカギは適切な「要介護認定」。 メモや画像を駆使するのがポイント!

いずれやってくるであろう両親の介護に不安を抱えるライター、セトッチ。自身の長年の介護と理学療法士としての経験をもとに、さまざまな介護相談に向き合う、介護者メンタルケア協会代表の橋中今日子さんに、介護についてイチから学びます。今回は、介護プランの内容を左右する「要介護認定」について伺います。

介護環境をしっかり整えることで、負担を少しでも軽く

 

セトッチ:橋中さん、私はまだ介護の経験はないのですが、経験者の話を聞くと不安でいっぱいになります。介護が始まったら自分の時間がなくなり、仕事も趣味も諦めて、介護だけの日々になるのでは? と考えると心配です…。

 

橋中:自分の人生を奪われるのではないかと考えたら、それは怖いですよね。でも、介護の負担は、介護保険でさまざまなサービスを利用することで軽くすることができます。

 

介護のタイムサイクル

 

まずは、介護の全体像をつかむために、「介護のタイムサイクル」をご説明しますね。

 

セトッチ: 介護のタイムサイクル?

 

橋中: 介護は、始まってから看取りまでずっと同じ状態が続くというわけではないんです。大きく分けて4つの時期があり、それぞれの時期において、家族がやるべきことや抱える悩み、その乗り越え方は少しずつ異なります。

 

(1)パニック期

病気やケガなどにより救急車で病院に運ばれると、家族はその対応に追われ、一時的にパニック状態になります。

ですが、3週間~1カ月くらい経つと、この先治療が続くのか、転院してリハビリを受けるのか、といった次の見通しが立つようになります。

 

すると今度は、退院後の介護の準備をする段階に入っていきます。それが(2)の環境調整期です。

 

(2)環境調整期

地域包括支援センターや市区町村の役所に行って、相談や介護保険の申請を行います。そして、要介護(要支援)度が決定した後、ケアマネジャーを決め、ケアプランを作成してもらいます。

 

そして退院し、実質的な介護生活がスタート。(3)の生活期に入ります。

 

(3)生活期

(3)の生活期では、(2)で作成したプランに基づき、介護サービスを利用した生活が始まります。

介護が必要な家族の状態が落ち着き、ほっとできる時期ではありますが、介護する側にとっては、パニック期から対応に追われ続けた疲れが一気に噴き出しやすい時期でもあるため、注意が必要です。

 

こうして自宅で生活するうちに、またケガをしたり、病気になったりして入院すると再度

(1)のパニック期に戻り、(2)環境調整期、(3)生活期、という3つの段階を繰り返しながら介護が続いていきます。

 

そして、最後に看取り期に入ります。

 

このタイムサイクルのなかで、やはり、家族が最もしんどいのは(3)の生活期です。

 

そして、(2)の環境調整期に適切な認定を受けられず、要介護度が実際の状態よりも低い認定になってしまうと、必要なサービスを準備できないまま、(3)の生活期に突入してしまうため、介護の負担がさらに大きくなってしまいます。

 

逆に(2)の環境調整期において、適切な介護認定を受け、必要なサポートが利用できるよう環境を整えておくことができれば、(3)の生活期の負担を減らすことができます。

 

つまり、介護生活において(2)の環境調整期は非常に重要ということになります。

 

 

介護プランを左右するのが要介護の認定

 

セトッチ:環境調整期には、要介護(要支援)度の認定が行われるとのことですが、これは、どのようにして決まるのですか?

 

橋中:市区町村の役所など、住んでいる地域の行政機関に介護保険の申請をすると、要介護(要支援)度の認定が行われます。要介護度とは「生活する際どのくらいサポートが必要か」を判定したもの。この認定はふたつの情報をもとに行われます。

 

ひとつは認定調査員による調査。自宅や入院している病院に認定調査員が来て調査を行います。そしてもうひとつが、主治医意見書。主治医が患者の状態を診断し、意見書を作成します。

 

セトッチ:認定にかかわる情報としてはふたつあるんですね。ではまず、認定調査員による調査について教えてください。認定調査員の方は、どんなことを調査するのですか?

 

橋中:以下のような生活動作や移動動作などについて、自分でできるかを尋ねます。

 

■生活動作
1)食事 2)トイレ 3)着替え 4)入浴 5)洗顔&歯磨き

 

■移動動作
1)起き上がり 2)立ち上がり 3)歩く

 

■金銭の管理

 

■感情面の管理

 

認定は7つのランク(要支援1~2、要介護1~5)で行われます。

そして、要介護度に応じて介護保険の支給限度額が決まり、基本的にはその金額内でサービスを組み合わせ、ケアプラン(介護サービス計画書)を作成します。認定調査から認定までは1~1カ月半ほどかかります。

 

セトッチ:なるほど。では、この要介護度の認定というのは、今後のケアプランの内容を決める、重要なものだということですね。

 

 

現状に合った認定をしてもらうために写真やメモも活用

 

セトッチ:でも…。介護をしている知人から「うちの親は、認定員の方が来たときだけ、すごくはっきりとした口調でなんでも『はい、できます』と答えてしまうし、普段できないこともできてしまう。それで、要介護度が普段の状態よりも低い認定になってしまう…」と嘆いているのをよく聞きます。

 

橋中:そうですね。それは本当によくあるケースです。私の祖母も、心臓が悪くて寝たきりだったのに、認定員の方が来た途端、誰の手も借りずにさっと起き上がったので、家族全員がびっくりしたということがありました。認定員の方が帰られたあとはまた寝込んでしまったのですが…。

 

セトッチ:認定員の方が来たときだけ元気になるというのは、なぜなのでしょう。

 

橋中:認知症の人に多いといわれますが、認知症の人に限らず、他人が家に来るということは、すごく脳に対する刺激になります。そして緊張感から普段できないこともできてしまうということがあるようです。

 

また、認定が行われる時間帯という問題あります。というのは、認定調査が行われる日中は比較的落ち着いている、よい状態のときが多いので、夜間などの悪い状態の様子が伝わらないことがあります。また、認定調査の時間は限られていますので、普段の状況を把握してもらうことはとても難しいのです。

 

それで、私は適切な認定をしてもらうために、家族の方に伝え方のアドバイスをしています。

 

具体的な伝え方

 

例えば、排泄について。トイレでうまくできずに、部屋を汚してしまうことが日常的にあっても、時には問題なくできるときもあると、本人は「大丈夫です。一人でできます」と答えるかもしれません。こうした場合には、なかなか大変だと思いますが、部屋を汚してしまった状態を写真に撮っておくといいと思います。

 

それから、着替え。これも、「一人で着替えられます」と答える方でも、確かに着替えはできているけれど、夏なのにセーターを着てしまうとか。上半身はブラウスを着ているけれど、下はズボンもスカートもはいていないとか。そういうこともあります。これは、着替えはしているけれども適切にはできていないということですから、正確には「できていない」わけです。

着替えたけど真冬に夏の衣装の認知症気味の母

こうしたことは、メモ書きにして、本人がいないところで認定員さんに渡すとよいと思います。

 

メモ書き作りのポイントは文章にしないで箇条書きにすること。文章にするとどの部分が重要な部分なのかがわからず、伝わらないことがあります。

 

それから、認定員の方が来る前に大掃除をしないようにということは皆さんにお伝えしています。

 

やはり、他人が見ると思うと、汚い状態をそのままにしておくのは抵抗があるので、つい掃除をしたくなりますが、部屋は片づけずにありのままの様子を見てもらってください。

 

認定調査員に渡したメモは、コピーして主治医にも渡す

 

橋中:普段の排泄や着替え、食事の状況などを書いたメモはコピーをとって、少なくとも3部は作っておきましょう。認定調査員に1部。ケアマネジャーに1部。そして、主治医にも1部、渡してください。

 

セトッチ:あ、そうでしたね。主治医も要介護度の認定にかかわる書類を提出するのでしたよね。

 

橋中:はい。主治医が意見書を書いてくれます。これは、非常に大事で、介護認定のレベルはここに重きを置いて決定されます。

 

認定調査員の方に渡したのと同じ、普段の排泄や着替えについて家族がメモしたものを渡すと、医師はメモをカルテに挟んで、記録として残してくれます。そして、そのメモを見ながら認定に関する書類を書きます。医師はたくさんの患者を診ている多忙な中、こうした書類を書きますので、そのメモがあると書きやすいと思います。ですから、メモを渡すことは医師にも喜ばれます。嫌がられたという話は聞いたことがないですね。

 

家族は苦しい状況を伝えようと一生懸命話をすると思いますが、医師も短い時間の中で、すべて聞き取るというのはとても難しいもの。聞き漏れが生じてしまうかもしれません。家族も、言い忘れてしまうことが多々あると思います。

 

また、認定調査員にも主治医にも同じメモを渡して、それをもとに書類を書いてもらえば、双方のずれが少なくなります。

 

私は祖母を介護していたときに、こうしたメモを主治医に渡しました。祖母もずっと要支援1だったのですが、このメモを渡したことでその後、「要介護2」になりました。

 

セトッチ:そんなに変わるものなのですね。

 

橋中:あるケースでは要支援1から要介護4まで上がった人もいたそうです。できるだけ正確に状況が伝わるように工夫することは、大事だと思います。

 

本人のプライドを傷つけない配慮も大切

 

橋中:それから、これは認定を適切にしてもらうためにということではないですが、認定調査員の調査の際、ご本人のプライドを傷つけないよう気を配ることもとても大切です。

 

本人が「できます」と言っている横で、「何、言ってんの! できてないじゃない、この前だって失敗して…」とか「気づいていないかもしれないけど、私が全部やっているんだからね!」というような言葉がつい出てきてそうになることもあるかと思います。それは、一生懸命介護していらっしゃるからこそ出てきてしまう言葉だと思いますが、ご本人がいる前では、認定員や医師に言うのは控えたほうがいいかなと思います。

 

本人にとっては恥ずかしいことですから、プライドが傷つきます。その場ではちょっと我慢して、本人がいないところで、事実として冷静に伝えるといいですね。事前に認定調査員の方に「本人の前では言えないことがあるので、後で時間をとってください」とお願いしてもいいと思います。

 

それから、認定もトライ&エラーだと思って1回で諦めず、必要があると思ったら根気よく、再度認定をお願いしてみましょう。

 

 

【お話を伺った人】

橋中今日子
橋中今日子さん
理学療法士・公認心理師  介護者メンタルケア協会代表
公式サイトを見る

リハビリの専門家として病院に勤務するかたわら、家族3人(認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟)の介護を20年以上にわたって一人で行う。自分の介護体験と、病院勤務の経験、心理学やコーチングの学びを生かし、これまで2000件以上の介護相談に乗る。介護者のケア、介護と仕事の両立、ヤングケアラー問題、グリーフケアに取り組むほか、医療/介護/福祉従事者自身のケアや職場環境づくりにも注力。自身も元ヤングケアラー。

 

 

イラスト/小迎裕美子 取材・文/瀬戸由美子

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