介護保険で利用できるサービスはいろいろある
セトッチ:私は介護の知識ゼロで、高齢両親の介護がまもなく始まるかもしれないと思って、ただビクビクしていただけでしたが、橋中さんに教えていただいて、少しずつ介護を開始するまでの流れがわかってきました。
介護サービスを受けるにはまず、地域包括支援センターに相談するのですよね。そして介護サービスの申請をする。そうすると、認定調査員の調査や主治医の意見書などをもとに、1~1カ月半後に、必要な介護の度合いを示す要介護認定が行われる、という流れですね。
そして、要介護(要支援)度が決定したら、いよいよ介護保険を利用したサービスが受けられるようになるかと思いますが…。私は仕事も続けたいし、自分の家族との生活もあるので、正直に言うと、できるだけ介護サービスを利用して負担を軽くしたいと思っています。介護保険で利用できるサービスにはどんなものがありますか?
橋中:はい。介護を一人で抱え込むことなく、受けられるサービスはぜひ十分に利用してください。介護保険で利用できるサービスは、全26種類、54のサービスがあります。主なサービスは以下になります。
■自宅で受けるサービス
・訪問介護(ホームヘルプ):身体介護(排泄や入浴)、生活援助(掃除や洗濯、買い物、調理など)
・訪問看護:看護師等による自宅での医療サポートや健康管理
・訪問リハビリテーション:理学療法士等が自宅でリハビリテーションを行う
~そのほか、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など。
■施設で受けるサービス
・デイサービス(通所介護):日中、施設で過ごし、入浴や食事、機能訓練などのサービスを受ける
・デイケア(通所リハビリテーション):日中、施設に行って理学療法士等からリハビリサービスなどを受ける
・ショートステイ(短期入所療養介護):一時的に施設に宿泊し、介護を受ける
■環境を整えるためのサービス
・福祉用具貸与:生活を支援するための車椅子や特殊ベッド、手すりなどのレンタル
・福祉用具販売:購入費用の9割が支給、同一年度で10万円まで
・住宅改修費の支給(限度額あり):安全な生活のための住宅改修の補助
これらのサービスは、要介護度がいちばん軽い「要支援1」から受けることができ、要介護度によって利用回数などが変わります。
セトッチ:こんなにいろいろあるんですね。これらの中から自分が頼みたいサービスを選んで必要なときに依頼するのですか?
橋中:いえいえ、要介護認定(または要支援認定)の通知が届いたら、まずはケアプランを作成し、そのプランに沿ってサービスを受けることになります。
要支援1~2に認定された方や、要支援と認定されてはいないけれど「要支援の状態になることを予防するケアが必要」と判断された方:
地域包括支援センターあるいは地域支援センターから委任されたケアマネジャーが、介護予防や生活支援サービスなどのケアプランの作成を担当します。
要介護1~5に認定された方:
要介護認定の通知に同封されている「居宅介護支援事業所」のリストから、依頼する事業所を選びます。居宅介護支援事業所には「ケアマネジャー」が所属しており、ケアマネジャーがケアプランを作成します。
ケアマネジャーのことは一般に「ケアマネさん」と呼ぶことが多いですね。
セトッチ:そういえば、介護中の友人からは「ケアマネさん」という言葉が頻繁に出てきますね。
橋中:そうですよね。ケアマネさんの存在なくして介護生活は成り立たない、といってもいいくらい、とても重要な役割を担ってくれる方たちです。
ケアマネジャーの正式名称は「介護支援専門員」
介護保険制度に基づき、生活に必要な介護を提供するサービスや、要介護状態の悪化を防ぐためのサポートの管理をしてくれる専門職。介護が必要な人の心身の状態、生活環境、そして本人や家族の希望などから総合的に判断して、適切な介護プランを提案してくれます。
また、介護サービスが始まったら、介護サービス事業者と連絡を取り、利用者に適切なサービスが確実に提供されているか、さらに必要なサービスはないかなどを確認します。
そして、1カ月に1回以上、利用者の自宅などを訪問し、サービスの提供状況やケアプランで設定した目標達成に向けて効果が上がっているか、利用者の状況に変化がないかなどをチェックし、必要であればケアプランの修正・見直しを検討します。
ケアマネジャーになるには、介護支援専門員の資格取得が必要です。この資格を受験するためには「介護・医療・福祉分野の資格を持ち、5年以上の実務経験」が必要ですので、ケアマネさんは介護のプロフェッショナルですね。
セトッチ:と言うと、介護をしてくれるスタッフのチーフのような存在ですか?
橋中:いえ。ケアマネさんは介護スタッフではなく、実際の介護はしません。
「よいケアマネさん」が所属する、よい事業所を選ぶには?
セトッチ:ケアマネさんって、介護利用者とその家族を、必要な介護サービスにつないでくれる重要な存在なんですね。
ぜひ「よいケアマネさん」にお願いしたいです。地域包括支援センターからもらった居宅介護支援事業所のリストから、依頼したい事業所を選ぶと、その事業所に所属しているケアマネさんが担当になるということですから、事業所選びはとても重要ですね…。慎重になります。どうやって事業所を選んだらよいでしょうか?
橋中:各事業所は民間の運営。地域包括支援センターは中立な立場の公的機関。地域包括支援センターが特定の事業所を推薦することはできないのです。ですから、どの事業所が人気かとか、評判のよいケアマネさんがいる事業所はどこかといった質問には、残念ながら答えてはもらえません。ただし、認知症に詳しいケアマネさんのいる事業所、経験豊富なスタッフが多い事業所といった聞き方をすることは可能です。
私が事業所を選ぶ基準をひとつあげるとするなら「なるべく近所にある事業所」がよいと思います。自宅に来てもらうのも、こちらから相談に出向くのも気軽だからです。
加えて、私の経験から言うと、病院系列の事業所やデイサービスなどの介護施設を運営している事業所はメリットが多いと思います。普段の体調管理に加え、病状が急変したときに入院や入所の相談がしやすいです。地域包括支援センターに病院付属の事業所、病院施設を持った事業所を聞いてみるのもよいでしょう。
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ケアマネさんにはストレートに自分の希望を伝えて
セトッチ:ケアマネさんはとてもありがたい存在だと思いますが、その一方で、「うちのケアマネさん、何もしてくれない」とか「全然、親身になってくれない」といった不平不満もよく耳にします。
橋中:私のところにもそういう相談が来ることがありますよ。
セトッチ:そうですか…。よいケアマネさんに担当してもらえるかどうかは、もう運次第で、「当たり」を引いたらラッキーという感じなのでしょうか?
橋中:いえ、ちょっと待ってください。そもそも「よいケアマネさん」ってどういう人だと思いますか?
セトッチ:私の介護の悩みを解決してくれる人、でしょうか。そのためには、まずは話をちゃんと聞いてくれる人がいいなと思います。
橋中:なるほど。そうですよね。よくケアマネさんへの不満で「心に寄り添ってくれない」「誠意が見られない」といった内容を耳にします。でも、ケアマネさんの仕事は本来、介護がよりスムーズに的確に行われるよう、介護環境を整え、介護サービスとの間を取り持って調整することです。
聞く力が高く、介護サービス利用者や利用者家族の言葉にならない思いをくみ取り、必要なサービスを提案してくれるケアマネさんはたくさんいます。ただ、これは私の個人的な考えですが、ケアマネジャーの本来の役割を超えたような期待、例えば、心理カウンセラーレベルの寄り添いや心のケアばかりを求めるのは、ちょっと違うかなぁと思います。ケアマネジャーはなんでも屋さんではないのでね…。
セトッチ:そうか。介護の悩みをなんでも相談できる人ということで、ちょっと混同していたかもしれません。
橋中:ただし! ここがとても難しいところなのですが、そうは言うものの、ケアマネさんを動かす最も大きな力になるのは介護する人の「つらい、苦しい、もう限界」といった、ストレートな気持ちだったりもするんです。
人によっては、介護に直面した際「こうした自分の苦しいという感情は我慢しなければいけない」とか「こんなことくらいで弱音を吐いたら恥ずかしい」と思ってしまい、誰にも言えず、自分だけでなんとかしようと、どんどん苦しい方向に進んでしまう人がいるんです。こうした人には、「遠慮せず、率直なその気持ちをケアマネさんに伝えてくださいね」と言いたいです。
一方、「なんでこんなに大変なのに、ケアマネさんは理解してくれないんだろう」という不満を抱えている人には「具体的にどうしてほしいかを伝えるようにしてみてはどうでしょうか」とアドバイスをしています。
もしかすると、現状認識にズレがあるのかもしれません。一生懸命、状況説明はしたとは思いますが、どうしたいかという希望が伝わっていないのかもしれません。「今、何に困っているのか」「必要なサポートは何か」など、より具体的なリクエストを再度、伝えてみてください。
「よいケアマネさん」と「悪いケアマネさん」がいて、どの人が担当になるかは運次第、ではないんです。ケアマネジャーさんも話を聞くのが上手な人、解決に向けての行動が早い人など、強みがそれぞれ違います。相性の問題もあります。また、これも人間関係のひとつですので、ケアマネさんに自分自身の介護のことを理解してもらって、自分の希望をきちんと伝えることで、作り上げていく信頼関係で成り立っているのかなと思います。
いずれにしてもケアマネさんは、介護のプロフェッショナルです。近隣の施設の特徴や具体的なサービス内容にも詳しく、幅広い情報を持っていますから、まずは相談してみましょう。
【お話を伺った人】

リハビリの専門家として病院に勤務するかたわら、家族3人(認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟)の介護を20年以上にわたって一人で行う。自分の介護体験と、病院勤務の経験、心理学やコーチングの学びを生かし、これまで2000件以上の介護相談に乗る。介護者のケア、介護と仕事の両立、ヤングケアラー問題、グリーフケアに取り組むほか、医療/介護/福祉従事者自身のケアや職場環境づくりにも注力。自身も元ヤングケアラー。
イラスト/小迎裕美子 取材・文/瀬戸由美子