近年、腸にいいことなどから発酵食品がブームとなっていますが、いま新たに注目されているのが“自己発酵”食品。空前の熟成肉ブームに加え、予約の取れない熟成鮨のお店なども出てきて、ブレイク中! 食材自体の酵素による分解により、おいしさや健康作用が高まると話題です。
そこで、発酵食品など食物の持つ機能に精通している、農学博士の矢澤一良教授に、自己発酵についてうかがってみました。
微生物を介さず素材の酵素で
発酵させるのが自己発酵
最近注目が集まっている、自己発酵食品。そもそも自己発酵は、“発酵”とは少し違うのです。
「発酵は、微生物の働きで食材の糖質やタンパク質が分解され、有機酸や二酸化炭素、アルコールなどが発生することです。これに対し自己発酵には微生物が介在しません。食材自身のもつ酵素と外的環境(温度や湿度、時間など)の作用でタンパク質が分解されてアミノ酸になることです。“熟成”や“エイジング”とも呼ばれます。最近“熟成肉”が流行っていますが、これも自己発酵食品。自己発酵させた食品は旨味成分のアミノ酸が増えるため、おいしさや柔らかさが増すので、人気が高まっています。体に有用な働きをする成分も増えることもあります」
そこで代表的な自己発酵食品をご紹介します。ぜひそのおいしさや健康パワーを感じてみてくださいね。
【紅茶】
自己発酵により、血糖値の
急上昇を抑える効果アップ
紅茶は緑茶と同じ茶葉を酵素の働きで自己発酵させたもの。発酵によって香りが高くなり、コクと味わいも深くなります。自己発酵の過程で茶葉に含まれるカテキンがテアフラビンという成分に変わります。この成分は抗酸化力が高く、殺菌・消毒作用などもあります。また、自己発酵により糖質消化酵素の活性を抑える作用も高まります。これにより血糖値の上昇が緩やかに。甘いものを紅茶と共にとると太りにくくなるのでおすすめです。
【熟成肉】
熟成により、旨味、風味、
柔らかさが増して芳醇に
自己発酵食品で、いまブームとなっているのが熟成肉。温度や湿度を調整して肉を冷蔵庫で寝かせることで肉の酵素がタンパク質を分解し、アミノ酸を生成。こうしてできるのが熟成肉で、肉の旨味や風味が倍増。筋繊維がもろくなって柔らかくなるうえ、水分が蒸発して味も濃縮されます。最近は“ドライエイジング“という熟成法の肉も登場。風を当て続けて肉の余計な水を飛ばして熟成させるのでジューシーさが損なわれないと評判です。
【熟成魚】
低温で寝かせることで
コクのある濃厚な味わいに
熟成肉とともにじわじわ人気が高まっているのが“エイジングフィッシュ”とも呼ばれる“熟成魚”。熟成に向くのはおもに白身魚で、低温で寝かせると酵素により筋肉を動かすATPやADPなどの物質が分解され、イノシン酸という旨味成分が増加。味と香りが凝縮され、新鮮な刺身とはまた違った深みのある味わいに。寝かせるのに最適な期間は魚の種類により2〜20日以上とさまざまで、熟成のピークを見極めるには経験を要します。
【黒にんにく】
抗酸化力や免疫力を高める
作用が高く、独特の甘みが
にんにくを自己発酵させたものが黒にんにく。発酵により臭みがなくなり、糖度が増してドライフルーツのような味わいに。また、自己発酵により増える成分がポリフェノールとS-アリルシステイン。ポリフェノールはご存知のように抗酸化作用の高い成分で、これが発酵により生にんにくの数倍にも増加。S-アリルシステインは、免疫細胞であるNK細胞を活性化する働きや、にんにくの抗酸化作用をさらに高める働きが。健康維持を目指す人に人気の食品です。
【霊芝】
免疫力を高める作用や、
血圧降下作用がアップ
古くから漢方に用いられ、“幻のキノコ”と呼ばれる生薬が霊芝。免疫力を高める作用や、血糖値改善作用、神経を正常に保つ作用などさまざまな効能があることで知られています。最近この霊芝を自己発酵させた“発酵霊芝“も登場。自己発酵をさせると、たんぱく質を分解してアミノ酸になる過程で、血液低下作用をするACE阻害物質のペプチドができあがるほか、免疫細胞の働きなど、さまざまな作用が通常の霊芝より高まるとされています。
教えてくれたのは。。。
矢澤 一良さん
Kazunaga Yazawa
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門研究院教授。農学博士。湘南予防医科学研究所会長。予防医学やヘルスフード科学などを専門とし、食品のもつ機能に精通。
撮影/鈴木正美 取材・原文/和田美穂