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未来は、更年期症状を医療でカバーできるのでしょうか?

医療という難しいジャンルについて、一般の人にもわかりやすく「今ココ」を教えてくれるのは、医療未来学の専門家・奥真也先生(医療未来学とは、未来に登場する医療技術を先読みして評価する学問)。今回のテーマは、OurAge世代には切実な更年期やつらい症状の問題について。医療未来学の視点では、どこまで解決可能になるのでしょうか?

 

更年期そのものは自然の摂理。
でも、症状について打つ手はあります

 

――更年期は、卵巣機能などの低下によって女性ホルモンが急激に減る時期を指します。そこで質問ですが、女性の卵巣機能が低下するということ自体、医療でカバーできたりする未来は来るのでしょうか?

 

お答えするにはまず、人間の老化という根本問題を、見つめる必要があるでしょうね。女性の体は、今現在においては、生殖機能を1世代あるいは1.5世代(30歳から45歳くらい)までしか持たないようにできていて、それはある意味、自然の摂理ですよね。そういう体の仕組みをもってして、人類は子どもを産む世代の代替わりを促してきたわけですよね。

 

――ですよね…。おっしゃるとおりで、卵巣機能が衰えなければ、何歳になっても自然出産ができるという、それこそSFのような世界になってしまいますね。

 

ええ。生殖機能が役目を終えるという点については、ここでは受け入れていただくとして、更年期の症状をなくせるのかどうか、ということですよね。

 

――はい。更年期のつらい症状が出る女性は、約半数の人といわれていますが、症状がある人、ない人と差があることは、どうにかならないのでしょうか。

 

閉経を迎えた時、女性ホルモンのエストロゲンの量をはじめ、ストレスとか循環器の心拍数とか、さまざまな数値を測ってみると、そこでガクッと変化している人と、そう変わっていない人に分かれるはずなんです。この「ガクッと変化している人」が、症状を引き起こす、というとわかりやすいでしょうか。

 

でも、この避けられない更年期というものがやってくるのはなぜなのか? どういう症状が起こる可能性があるのか? 今はすべての女性がそれを認識、理解できている状況ではないですよね。更年期に当たる年齢になったら、婦人科のクリニックなどで自身のホルモン量を測定し、「今までとはこのくらい、ホルモンの値が減ってきているんですよ」ということが可視化できれば、更年期症状に関しては予防や対策をとることはできるんです。

 

――そのつど対処ができれば、ソフトランディングしていけるということですね。

必要な人に、必要な情報が届かないという現状

 

――今は、正しい知識を持って予防や自衛をしている女性は、一部の意識の高い人に限られているようにも感じます。

 

そうですよね。で、先ほどお話をした「ホルモンなどの数値がガクッと変わっている」という人であれば、当然ながら放置するのはあまりよろしくないですよね。極端な言い方をすると、(数値が)ガクッと変わってはいないのに情報だけ持っている人が、「HRT(ホルモン補充療法)をやってみたいです!」となったところで意味はありません。

 

だから本来は、医学的に必要な人にこそ正しい知識、情報が届くべきなのですが、フェムケアというと、一部の意識が高い人、経済的に余裕のある人がやるものという、ちょっと別の話に置き換えられてしまっているように感じます。

 

――確かに、「関係ないな」と思うことに対しては積極的に情報を得ようとはならないでしょうし。仮にメディアで見かけたとしても、「自分には必要ない」で終わってしまいますよね。

 

そこでぜひ知っておいていただきたいのは、実際に症状が出て困っている人は、医療機関にさえ行けば保険診療で受診ができる、ということです。そもそも本人が病院に行かなければ、更年期症状であれ他の症状であれ、“病気”と認定してもらえないのが病気というモノなんですよ。

 

例えばギャンブル依存症だって、本人が自覚するか家族が無理やりにでも連れて行って受診しない限りは、病気とはみなされない。病気はつねに、自己申告した人、病院に来た人だけが、病気と定義されるものなのです。だから更年期の話も、ホルモンの激減によってうつの症状が出ていたり、頭痛やめまいが出ていたりするときに、こういったメディアの情報を得て、「更年期症状かも?」と思ったならば、必ず病院に行ってほしいです。そうじゃないと、そこから先にはなかなか進まないですから。

 

――最低限そういった医療の制度、仕組みさえ知っていれば、経済的には平等に、更年期症状も治療の道はあるということですね。

 

はい。これは、だいぶ先の未来の話になってはしまいますが…。ホルモン測定にしても数値がガクッと下がっている人の場合は、症状はまだ出ていなくても、ソフトランディングできるような薬が処方されるようになるとか、そういう医療制度が全女性に対して実施できる未来が訪れる可能性であれば、あると言えるかもしれません。

性教育のアップデートから考える

 

――そうなる未来を願います。更年期について、知識の裾野がなかなか広がっていかない現状についてはどう思われますか?メディアの役割もありますが、教育の問題も大きいように思います。

 

教育は、まさに大きな課題です。日本という国には、圧倒的に教育が足りていない。だって、ほとんどの人は脾臓(ひぞう)がどこにあるのか、自分の臓器にもかかわらず、その場所を知りませんよね? 例えばOurAge世代の読者の方は、「扁桃腺」という言葉はもうなくなって、今は「扁桃」と呼ばれていることはご存じですか? あれは「腺組織ではない」ということがわかったので名称が変わったのです。なので若い世代の人は、もう最初から「扁桃」と呼んでいます。

 

――全然、知りませんでした〜!

 

だから医療のいろいろなことについても、教育のアップデートは相当期間、なされていないと言えるんですよね。今40代50代の人は、小中学校を卒業してから30年以上たっていますよね? でも教育がアップデートされていないから、新しい知識もなかなか広まらない。「新しいNISAの制度ができました!」ということと同じくらいは、数年に一度のタイミングで教育内容も見直してほしいと思うのですが。

 

――本当ですね(笑)。それこそ更年期については、例えば高校生になったら女子は学校の授業で教わるとかどうでしょう。「女性の体はこんなふうに変わっていくことを覚えておきましょう」など、そういうふうに教われば、リテラシーもずいぶん変わっていくように思います。

医療未来学_性教育

 

それでいうと、以前、小学校の指導要領を見て驚いたことがありました。妊娠の仕組みについて、着床から受精後のプロセスは教えてもいいけれど、その前、いわゆる男女がセックスをして妊娠が成立することについては教えない、というようなことになっていたんですよね。でもそこを教えずして、女性の体のこと、ましてや未来の更年期のことを、子どもが自分ごととして捉えられるのか、はなはだ疑問に感じました。

 

――「いつの時代の話なの?」という感じですね。欧米や北欧の性教育はもっと成熟していると聞きます。

 

日本ではなかなか情報リテラシーが高まっていかないという背景には、時代の変化と教育とのズレが大きいことにも原因があると思っています。これも医療未来学の中では根深いテーマのひとつで、国も国民も、共通の問題意識を持つことが必要なんですよね。

 

――更年期ひとつとっても、症状をラクにするために、広い視野で考えさせられることがまだまだたくさんある、ということなんですね〜。

 

奥 真也
奥 真也さん
医師、医学博士
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経営学修士(MBA)。 専門は、医療未来学、放射線医学、核医学、医療情報学。 東京大学医学部22 世紀医療センター准教授、会津大学教授を経てビジネスに転じ、製薬会社、医療機器メーカー、コンサルティング会社等を経験。創薬、医療機器、新規医療ビジネスに造詣が深い

 

イラスト/内藤しなこ  取材・文/井尾淳子

 

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