糖質量が多ければ多いほど、血糖値が上がるのが原則ですが…
血糖値スパイクや乱高下は防ぎたい。でも、人づき合いにお酒は欠かせないし、飲むのを我慢するなんて無理! お酒好きな人にとって、飲んだときの血糖値の推移は気になるところです。
「お酒は、発酵したものをそのまま飲む『醸造酒(日本酒、ワイン、ビール)』と、それらを蒸留して造る『蒸留酒(ウイスキー、焼酎、ジン、ウォッカなど)』に分かれます。血糖値を上げる唯一の栄養素は糖質ですが、醸造酒のほうが糖質が高い。例えば、日本酒は糖質が高め。ただ同じ醸造酒でも、赤ワインは糖質が低いものが多いし、白ワインはものによっては糖質が高いものも。スパークリングワインは、辛口でも他のワインよりは糖質が高めなので注意が必要ですよ。
一方、蒸留酒は糖質ゼロ。お酒を割る飲み物に糖質が入っていなければ基本的に糖質はゼロのままです。ウイスキーを無糖のソーダで割っただけのハイボールなどで、血糖値が上がることはないということになります」
おもなお酒の炭水化物(糖質+食物繊維)量
そう教えてくれたのは、糖尿病の専門家、「やさしい内科医」こと山村聡先生です。YouTubeでの体を張った血糖値実験が人気で、お酒に関しても、自ら飲みながら血糖値の変動をレポートして評判になっています。
意外!? お酒を飲みながらの食事は、血糖値が上がりにくい!
さて、今回の企画ではOurAge世代の6名が2週間、血糖値をモニタリング(*1)。点ではなく線で血糖値の変動をチェックしました。
*1:自動的に血糖値(正確には間質液中のグルコース値)を測ってくれる「FreeStyleリブレ2」を装着。
モニターのうち、お酒を日常的によく飲む人の血糖値の変動を見てみましょう。
まず、モニターTさんのある日。
19時頃に夕食です。お酒は白ワイン2杯とともにポークグリル、大根サラダ、豆乳スープを食べましたが、血糖値はあまり変動がありません(グラフ[A])。
モニターTさんの血糖値の推移
さらに夕食後に赤ワイン1杯を飲みつつチョコエクレアを食べたのに、血糖値はしばらくしてガクッと降下。糖質高めのエクレアを食べても上がらなかったのです。
さらに、Tさんの別の日です。
別の日、モニターTさんの血糖値の推移
16時頃にカフェでビールを2杯。つまみにうずらのピクルス、その後デザートにフルーツサンドを1切れ食べましたが、血糖値は上がるどころか徐々に下がりぎみ。
もしかしたら、お酒を飲みながら食事をすると血糖値は上がらないということでしょうか?
「実は、アルコール自体は血糖値をあまり上げないんです。逆に、下げることもあるほどです。Tさんが飲んだビールやワインにはある程度の糖質はありますが、それでも血糖値は上がらなかった。むしろ、糖質の高いお米やパンを食べても、お酒と一緒なら血糖値の上昇を抑えるんです。
これには肝臓の働きが関係しています。肝臓はとても働き者で、糖をため込みつつも体内に出すという機能があります。その一方で、有害な物質を無害なものにする解毒作用も持っています。
人がアルコール類を飲むと、肝臓は毒であるアルコールを優先的に解毒する。その間、糖を出さなくなるんですね。血液中に、肝臓からの糖の排出がプラスされなくなるので、その分、血糖値の上昇が抑えられるんです」
なるほど、お酒は血糖値を上げなかった。 しかも、お酒を飲みながら食事をすると、いつもより血糖値のピークが低くなる! 血糖値という観点からは、決して悪者ではなかったのですね。
お酒は血糖値を上げない。けれど健康への影響はとても複雑…
「ただし、糖質をとらないままアルコールを飲み続けていると、血糖値は下がり続けます。基準値よりも低い『低血糖』の状態になるんです。特に夜間の低血糖は睡眠障害や慢性疲労などの原因になることもあり、体には決してよくない状態です。血糖値が下がりやすいという自覚がある人は、お酒を飲むときに少しずつ糖質をとったほうがいいですね」
アルコールによって血糖値は下がっていってしまう!
モニターのHさんの例ではそれが顕著でした。
ある日のHさん。17:00以降の血糖値を見てみましょう。
モニターHさんの血糖値の推移
17:00から食事会があり、ハイボールを皮切りに赤ワインも飲みながら、オリーブ漬け、ウフマヨ、パテドカンパーニュ、ホワイトアスパラのバターソース、オリーブ牛のグリル、カリフラワーのグリル、おまけに小さなバゲットも食べています。
それでも血糖値のピークは125mg/dL程度。
その後、21:00頃までにバーでハイボールを3杯飲みました。このあたりから(つまり飲むのをやめてから)血糖値はぐんぐん下がり…。23:00には就寝したはずが、午前1時半頃に低血糖が起きているのがわかります(グラフ[C])。
また、Hさんの場合はこんな日も!
別の日、モニターHさんの血糖値の推移
18:00頃に、料理をしながら赤ワインを飲み始めると血糖値が下がり始めます。
19:00過ぎにローストビーフ、サラダ、トマトマリネ&モッツァレラ、焼きそら豆などを食べて少し上昇。
20:20頃、赤ワインを飲みながら大きめのケーキを食べたのに、血糖値は思ったほど上がっていません。
この後、午前0:00には就寝。
すると午前1:00頃に血糖値がぐーんと上がり、血糖値スパイクが起きていました。朝方まで血糖値が下がり切りません(グラフ[D])。
お酒と血糖値の関係は奥深い。飲みすぎには注意を
飲んだり食べたりをやめて4時間もたってから、血糖値が急上昇することもあるとは驚きです! これについて山村先生の解説は…
「アルコールによって血糖値は抑えられていましたが、スイーツを食べたことで体に一気に糖質、しかも多めの糖質が入った。アルコールが覚めてからその反動で急に上がったと思われます。
血糖値というのは、インスリンなどホルモンの働きによって『下がったら上げようとする、上がったら下げざるを得ない』ということが起こっています。
よく、お酒を長時間飲んだあとにラーメンでしめたくなると言いますが、飲んで血糖値が下がっているときに糖質が高いものをとると、その後血糖値が急に上がります。そして、急上昇の反動で、今度は急に血糖値が下がって低血糖状態になる。つまり、眠っている間に血糖値が上がったり下がったりと乱高下することがあるんです。これは体にとってはよくない状態です。飲みすぎは健康にはよくないってことですね」
血糖値を上げない! と喜んでいたのもつかの間、一概に「お酒は血糖値的に〇」とはいえないようです。お酒が血糖値に与える影響、なかなか奥深いものがありました。
【教えていただいた方】
九州大学医学部卒業。東京ミッドタウンクリニックで診療するかたわら、糖尿病啓発・予防のため血糖値に関するSNS発信を行っている。豊富な診療経験をもとに、一人一人のライフスタイルに合わせた血糖値改善、ダイエットプログラムの開発にかかわるなど予防と医療の架け橋として活動中。 自らの体を実験台にしてさまざまな食材の血糖値を測定するYouTubeチャンネル「やさしい内科医のY's TV」が人気。登録者数は7万人超。
取材・文/蓮見則子