理想の食べ方は「ベジ・ファースト」だけではなかった!?
「食べる順番を変えるだけで、血糖値が抑えられたりダイエットに効果があるということは、皆さん聞いたことがあると思います。特に『ベジ・ファースト(ベジタブル・ファースト)』などは、以前からさかんに紹介されてきましたよね。最初に野菜や海藻から食べるようになった人も増えた半面、半信半疑な人もいるのではないでしょうか? 」
そんなふうに質問を投げかけるのは、「やさしい内科医」こと山村聡先生。YouTubeチャンネルで、体を張った血糖値実験が注目を浴びている糖尿病の専門家です。
「野菜だけが血糖値を上げにくくするということではないんです。確かに野菜や海藻は食物繊維が豊富で、それが糖質の消化吸収を遅らせ、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。
でも、糖質が多い食材でなければ野菜じゃなくてもOKなんですよ。お肉でもお魚が先でも、血糖値の急上昇を抑えてくれるんです。つまり、糖質そのものであるお米や小麦粉の主食を最後に食べるようにすればいいということ。言ってみれば、『カーボ・ラスト』ですね。
でも、野菜の中でも糖質が高いいも類には気をつけてください。野菜サラダだと思ってポテトサラダを先に食べたら、最初に糖質をたくさん体に入れることに。血糖値がドーンと上がってしまうかもしれませんよ!」
「カーボ・ラスト」は、はたしてどれくらい効果がある?
今回はOurAge世代の6名が、血糖値のモニタリング(*)にチャレンジ。2週間にわたり血糖値の変動をチェックしました。
*:自動的に血糖値(正確には間質液中のグルコース値)を測ってくれる「FreeStyleリブレ2」を装着。
食べ順を変えると血糖値がどうなるのか、さっそくカーボ・ラストを実践してみました。
まずはモニターMさん。
ランチによく行くお店で、2日続けて同じ時間に「アジフライ」定食をオーダー。
【1日目】いつも通りおかずと一緒にライス(白米)を食べた日です(グラフ[A])。
メニュー:アジフライ定食(アジフライとおかずのプレート、野菜入りコンソメスープ、キャベツサラダ、ご飯)
【2日目】翌日、再びアジフライ定食を注文。おかずやスープを先に食べ、ライスを最後まで残しておき、ちょっぴりのおかずとともに食べました(グラフ[B])。
アジフライ定食(アジフライとおかずのプレート、野菜入りコンソメスープ、キャベツサラダ、ご飯)
[A]ご飯とおかず同時 [B]ご飯は最後
結果、ご飯を最後に食べた2日目のほうが、血糖値のピークが前日よりかなり低くなりました! しかも初日にあったグラフのトンガリが2日目にはなく、血糖値スパイクを起こさなかったことがわかります。
ご飯を最後にしただけで、血糖値はこんなに変化した!
次は、モニターWさん。
自宅にいる日のお昼に、自炊で実験してくれました。
【1日目】ご飯1膳とおかずを、いわゆる“バランスよく”食べてみました(グラフ[C])。
メニュー:目玉焼き、納豆、ぬか漬け(かぶ・きゅうり)、味噌汁(なす)、ご飯
【2日目】おかずからゆっくり食べて、ご飯は最後のほうに食べました(グラフ[D])。
メニュー:焼き鮭、納豆、五目煮、磯海苔、ご飯、麦茶
[C]ご飯とおかず同時 [D]ご飯は最後
今回のモニタリングでわかったことですが、Wさんは昼食の後にいつも血糖値が急激に上がっていました。1日目も昼食の後、自転車で20分移動し、その後フィットネスクラブで運動していたにもかかわらず(運動をすると血糖値は下がりやすいといわれています)、血糖値スパイクを起こしていました。
けれど、ご飯を最後に食べた2日目は、血糖値の上がり方が断然緩やかに。この日はランチ後に運動もしていなかったので、なおさら驚きました!
続いて、モニターHさんの場合。
普段から低糖質を心がけていましたが、今回の血糖値モニタリングによって、特に朝、血糖値が上がりやすいことを知ります。朝食で食べ順実験をしてみました。
【1日目】毎朝、雑穀米(60gが定番)を、おかずと一緒に食べていました(グラフ[E])。
メニュー:ベーコンエッグ&サラダ、納豆、ほうれん草のおひたし、ぬか漬け、味噌汁(キャベツ・油揚げ・みょうが・えのきなど)、雑穀米(グルテンフリー雑穀+黒米)
【2日目】同じ量の雑穀米を最後に食べることにしました(グラフ[F])。
メニュー:ベーコンエッグ&サラダ+しめじとアスパラのグリル、ほうれん草のおひたし、オクラのっけ納豆、ぬか漬け、レバーとしょうがのさっと煮、雑穀米(前日と同じ)、味噌汁(葉物いろいろ・豆腐・油揚げ)
[E]ご飯とおかず同時 [F]ご飯は最後
自称「おかず食い」なHさんは、雑穀米はかなり少なめにしています。それでも、今回のモニタリングで、ほぼ毎朝、血糖値スパイクが起きていることがわかりました。1日目も急上昇しています。
2日目は、レバーの煮つけが加わったりして前日より全体量が多め。
それにもかかわらず、血糖値のピークはかなり低めに抑えられました!
血糖値スパイク防止のために、「カーボ・ラスト」「ほぼ糖質のメニューは避ける」「よく嚙んで食べる」
「食べる順番の研究は世界各国、もちろん国内でもされていて、効果が高いことがわかっています。唯一、血糖値を上げる糖質、いわゆる炭水化物を食事の最初や前半に食べてしまうと、血糖値は急上昇し、血糖値を下げるインスリンの分泌が間に合わないため、高血糖になりやすいんです。
糖質(カーボ)とは、米類(ご飯)、小麦粉(パン・パスタ・うどん・そば・ラーメン)、いも類、砂糖や砂糖の入った食品(菓子類)など。先に何を食べてもいいので、これらの糖質を最後に食べることに意味があります。
まったく同じ食事でも、糖質以外を先に食べ、15〜30分後に(効果が出る時間には個人差があります)糖質を食べるようにすれば、血糖値の上昇が緩やかになるわけです。3人の例は、ずばりそれに当てはまっていましたね!」
ところで、先生、ひとつ質問があります! おかずを食べた後にごはんやパンという順番だと、食べづらくないですか?
「おかずを少しだけ残しておく、ふりかけを用意するなど、工夫するしかないですね。または、ご飯だけだと食べづらいということは、それまで食べていたご飯やパンの量が多すぎたのかもしれませんよ。50代ともなると、すい臓の反応が悪くなって、若い頃のように素早くインスリンを出せなくなっています。以前と同じだけ主食を食べるという食生活を見直してもいいでしょう。
『丼物だったらどうするの?』『うどんやそばは?』『パスタだったら?』と聞かれることもありますが、空腹時に“ほぼ糖質”のメニューをいきなり食べたら、血糖値は面白いほど急上昇します。血糖値が高めの人や血糖値スパイクが気になる人は、なるべく避けたほうがいいですね」
ほかに食べ方の注意点はありますか?
「“早食い”は血糖値を上げます! これは覚えておいてください。よく嚙んで食べましょう、と言われますが、本当に正しいんです。慌ただしい朝食だって、嚙んで嚙んで味わって時間をかけて食べる。そうすると、同じメニューでも、急いで食べた時より血糖値の上昇がゆるやかになりますよ」
【教えていただいた方】
九州大学医学部卒業。東京ミッドタウンクリニックで診療するかたわら、糖尿病啓発・予防のため血糖値に関するSNS発信を行っている。豊富な診療経験をもとに、一人一人のライフスタイルに合わせた血糖値改善、ダイエットプログラムの開発にかかわるなど予防と医療の架け橋として活動中。 自らの体を実験台にしてさまざまな食材の血糖値を測定するYouTubeチャンネル「やさしい内科医のY's TV」が人気。登録者数は7万人超。
※血糖値の変動には個人差があり、モニターの結果はあくまで一例です。同じ食材をとっても人によって、また食べるタイミングなどによって変化します。
取材・文/蓮見則子