【教えていただいた方】
東京都健康長寿医療センター 研究所・福祉と生活ケア研究チーム研究部長。国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院卒業後、米国ジョージア州立大学大学院にて理学修士号、北里大学医学部大学院にて医学博士号を取得。北里大学医療衛生学部助教授などを経て現職。専門は理学療法学、老年学、リハビリテーション医学。著書に『70歳からの筋トレ&ストレッチ』(法研)など多数。
サルコペニアに要注意! 筋肉の衰えは40歳から始まっている
日本人の平均寿命は男性81.41歳、女性が87.45歳で、健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳(2019年厚労省調べ)です。この平均寿命と健康寿命の差は、男性で約9年、女性は約12年あります。
このように最近よく耳にする「健康寿命」とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活でき、継続的な医療や介護に依存しないこと」をいいます。そんな話は親世代のことだと思っているかもしれませんが、それは大きな間違いです。
最近、ペットボトルのふたが開けにくくなった、なんでもないところでつまずくことがある、人よりも歩くのが遅い、階段を上るのがおっくうになったという人は、すでに筋力の衰えが始まっています。将来、寝たきりになる可能性さえあるのです。
「いつまでも自立した生活ができる健康寿命を延ばすためには、生活機能を維持することが重要です。
今までは、膝が痛い、疲れやすい、尿もれといった愁訴は、『老化だからしょうがない』『もう元には戻らない』と考えられていました。ところが最近の研究で、これらは予防ができるし、いったん体の機能が落ちたとしても、トレーニング次第で元に戻ることがわかっています。
骨がスカスカになるのが骨粗しょう症ですが、筋肉量が減少してスカスカになることをサルコペニアといい、特に女性が生活機能を維持するために大切であると考えられています。筋力や筋肉量の低下は40歳頃から始まり、70歳を越えた頃から生活の動作に影響が出るようになります。65歳以上では約15%がサルコペニアに該当すると考えられています」(大渕修一先生)
【サルコペニアチェック】
●握力/男性28kg、女性18kg未満
未開栓のペットボトルのふたが開けられればOK。
●両腕脚筋肉量指標(SMI・BIA※測定)/男性7.0kg/m²、女性5.7kg/m²未満
※BIA法:体に微弱な電気を流し抵抗値で筋肉量を推定する方法。
簡単な目安はふくらはぎの周径が男性34cm、女性33cm未満。さらに簡単な目安として両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎのいちばん太い部分を指で囲んだとき、指で囲める場合は筋肉不足です。
●歩行速度/1秒当たり1m(1分間で60m)未満
横断歩道を青で渡り切れればOK。
●5回椅子立ち上がりテスト
椅子から立って座る動作を5回繰り返します。それを終えるまでに12秒以上かかる場合は身体機能が落ちています。
これのどれかに該当するようなら注意が必要です。今から筋トレをしっかり行うことをおすすめします。
歩く速度が遅い人は、足指や足裏の筋肉が弱っている!?
「サルコペニアチェックでもわかるように、体の筋肉量の低下は握力や歩く速度などに表れてきます。
握力と体全体の筋力はよく相関しているので、握力の低下は体全体の筋力の低下と言ってもいいでしょう。未開栓のペットボトルのふたを開けられない人は、全身の筋力も低下していると考えられます。
また、歩く速度が遅い人は、足部や下肢の筋力とその協調性(バランス)が低下している可能性があります。
歩くために必要な筋肉というと、太ももやふくらはぎなど大きな筋肉を思い浮かべますが、それだけでなく、足部の筋肉も使っています。また、筋肉にある感覚センサーなども総動員して巧みに使っています。
歩く速度が遅い人は、大きな筋肉を鍛えるだけでなく、足部の筋肉や感覚センサーを鍛える必要があります。また関節、特に足部の柔軟性も大切です。こうした下肢を構成するさまざまな部品が機能低下すると、それを制御する脳神経との連携も弱まり、さらに機能低下が加速する能性があります。
今回はこうした手や足裏、足指といった、体の末端に注目して、生活機能を高める方法を紹介していきます」
イラスト/green K 取材・文/山村浩子