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更年期のつらい症状も漢方で緩和できる!【西洋医学×漢方医学のスペシャリスト、今津嘉宏先生が教えます】

40代、50代になると増える更年期特有の不調。自分ではどう解決していいかわからないときの選択肢のひとつに漢方があります。どんな漢方薬があって、どんな不調に効くのでしょう? 漢方に精通し、多くの患者さんを西洋医学と漢方で救ってきた医師、「芝大門 いまづ クリニック」院長の今津嘉宏先生に教えていただきました。

「更年期の不調」に効く漢方薬にはどんなものがある? どんな不調に効くの?

更年期の不調のイメージ 漢方3-1

 

漢方医学では、女性の年齢による変化=「血の道」を生活習慣や漢方薬で改善

更年期になると、女性ホルモン、エストロゲンの減少によって自律神経も乱れることから、さまざまな不調が起きやすくなります。そんな更年期症状については漢方薬での治療も一般的です。

 

漢方薬はどのような場合に用いられることが多いのかを、今津嘉宏先生に伺いました。

 

「西洋医学では、更年期の不調に対して、不足したホルモンを補う治療を行います。これがホルモン補充療法です。しかしながら、日本では、ホルモン補充療法に対して、まだまだ抵抗感を感じる人が多いようです。そのような人に用いるのが漢方薬です。

 

漢方医学では、女性の年齢による変化を“血の道”と呼びます。ちょっと怖い表現ですが、漢方医学では、昔から女性の人生を“7年周期”で考えます。

 

7歳で歯が生え変わり、髪が長くなって、14歳で初潮が始まる。21歳で体が出来上がり、28歳で充実した状態となる。35歳で白髪が増え始めて、42歳で体力が衰え始め、49歳で閉経を迎えると考えられています。

 

現代女性とはちょっとずれてはいますが、女性ホルモンが年齢とともに変化していくことをとらえています。

 

漢方医学では、この“血の道”によって起こる不調を“血の道症”と呼び、更年期症状もそのひとつです。そして、この血の道症を、病気になる手前の“未病”ととらえて生活習慣を整える場合と、やまい(病気)とみなして治療をする場合があります。

 

未病は、“いまだやまいならず”なので、なるべく心穏やかに過ごすようにしたり、食事の改善などといった方法で生活習慣を整えます。しかし、働いている人は忙しくて余裕がなく、聖人君子のような生活を心がけることは難しいと思います。そんな場合の選択肢が漢方治療で、生活習慣の改善方法を提案しつつ、漢方薬での治療を行います」(今津嘉宏先生)

 

漢方薬は、更年期症状の中でもどんな不調に強いのでしょうか?

「更年期に起きやすい不調には、下記のような症状があります。漢方薬は、これらのほとんどの症状に効果を発揮します」

 

1)血管の拡張と放熱に関係する症状……ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、発汗など。

 

2)上記以外のさまざまな身体症状……めまい、動悸、胸が締めつけられるような感じ、頭痛、肩こり、腰や背中の痛み、関節の痛み、冷え、しびれ、疲れやすさなど。

 

3)精神症状……気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠など。

更年期の不調のイメージ 漢方3-2

更年期症状によく用いられるのは、「婦人科3大処方」と呼ばれる3つの漢方薬が代表的です

では、具体的にはどんな漢方薬が用いられるのでしょうか? また、市販の漢方薬を自分で選ぶ場合のポイントとは?

 

「漢方薬は、いくつかの生薬が組み合わさって作られています。ひとつの生薬に、少なくともひとつは薬理作用があるので、複数の生薬を組み合わせる漢方薬には、いくつもの症状を改善する作用があります。

 

そのため、自分で市販の漢方薬を選ぶときは、どれもこれも自分の症状に当てはまるように思われて、なかなか難しいと思いますが、とりあえず、更年期症状には、婦人科3大処方といわれる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)から選んでみるとよいでしょう。

 

当帰芍薬散は、“血と水”の異常がある場合に用います。“血と水”に異常がある場合は、女性ホルモンの変化による症状に加えて、むくみと冷えが強く出やすいので、そのような人に向いています。

 

また、加味逍遙散は、“気と血”に異常がある場合に用います。“気と血”に異常があると、女性ホルモンの変化による症状に加えて、イライラ、怒りやすい、不安、落ち込みなど精神的な症状が強い場合が多いので、そうした人に向いています。

 

そして、桂枝茯苓丸は、“血”に異常がある場合に用います。“血”の異常があると、女性ホルモンの変化による症状に加えて、冷えのぼせ(首から上は熱く、下半身は冷える)の症状が強い場合が多いので、そうした人に向いています」

 

■更年期症状に用いられることが多い「婦人科3大処方」

●当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

むくみと冷えが強いことが選択する際のヒントになります。

更年期障害、月経不順、月経困難症、月経痛、月経前症候群、寒冷刺激で悪化する頭重感、頭痛、めまい、肩こり、貧血、倦怠感、動悸、耳鳴り、下腹部痛、腰痛、腰の冷え、四肢の冷え、皮膚にツヤがないなどの症状に。

 

●加味逍遙散(かみしょうようさん)

イライラ、怒りやすい、不安、落ち込みなどの精神的な症状や、肩こり、疲労などの症状があることが選択する際のヒントになります。

更年期障害、月経不順、月経困難症、月経痛、月経前症候群、頭痛、頭がふらつく、頭がボーっとする、のぼせ感、目の疲れ、四肢のしびれ、皮膚にツヤがない、動悸、眠りが浅い、食欲がない、倦怠感、むくみ、腹痛、冷え症、虚弱などの症状に。

 

●桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

冷えのぼせの症状がある、しっかりした体格、赤ら顔、腹部充実(お腹まわりに脂肪がついてきた、脂肪がついている)などの特徴があることが、選択する際のヒントになります。

更年期障害、月経不順、月経困難、月経痛、月経前症候群、子宮内膜炎、不正出血、痔、下腹部(特に左側)に圧痛がある、めまい、頭重感、肩こりなどの症状に。

 

「婦人科3処方」以外で、更年期症状によく用いられる漢方薬もあります

上記の3つの漢方薬以外にも、更年期症状によく用いられるものもあるとか。

 

「ホットフラッシュには、熱を下げる作用のある黄連解毒湯(おうれんげどくとう)や、黄連解毒湯に血を補い、血を潤す効果を加えた温清飲(うんせいいん)を用いることがあります。

 

また、加味逍遙散は、精神的な症状の中でも特に、イライラなどの気が立っている場合に用いることが多いですが、精神的に弱くてうつうつとしている場合には、女神散(にょしんさん)を使うことがあります。

 

そのほか、気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠などには柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や抑肝散(よくかんさん)を用いることもあります」

 

患者さんの状況や環境に応じて、漢方薬を選び分けることも

「その人の状況や環境に応じて漢方薬を選び分けることもあります。

 

私の場合は、更年期症状なら、仕事と家庭を両立している人なのか、仕事はしていないけれど、家事や子育て、介護などをしている主婦の人なのかで選び分けることが多いです。

 

前者の、仕事を持ち、家事に育児にと一日が24時間では足りないような人には、“血の道”を調整することに加えて、滋養強壮を目的とした“参耆剤(じんぎざい)”と呼ばれる漢方薬を用います。参耆剤には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)など10種類程度があります。

 

一方、専業主婦で、家事、育児、介護などで忙しくしている人には、“血の道”の調整に加え、精神安定の効果もある“気剤”の漢方薬を用いることが多いです。気剤には、前述した柴胡加竜骨牡蛎湯のほか、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)などがあります」

 

漢方薬で更年期症状が、短期間で改善するケースもあります

ちなみに、漢方薬は、ホルモン補充療法と組み合わせることも可能なのだそう。

 

そんな漢方薬を用いて、実際に更年期症状が改善した例を、今津先生に伺いました。

 

「夏の終わり頃から体調が悪く、突然、汗が出るようになったという43歳の女性で、時と場所を選ばずに汗が出るため困っていると相談に来られた方がいました。中肉中背で、仕事と家事の両立をされていて、子どもの世話で自分の時間もなく、疲れている様子でした。

 

そこで、ホットフラッシュを改善するために、速効性のある“黄連解毒湯”を処方しました。すると、ご本人いわく、飲んだその日から症状がやわらいだそうです。

 

また、夏の終わり頃から、夜中に突然、熱くなって目が覚めるようになったという50歳の女性で、昼間も同様の症状が出ると相談に来られた方がいました。中肉中背で、仕事が忙しく、人前で汗が止まらなくなることを気にされていました。

 

そこで、ホットフラッシュを改善するために、温清飲を処方しました。ご本人によると、数日後、気づいたらホットフラッシュの回数が減り、夜中に目が覚める回数も少なくなったそうです」

 

漢方薬は飲み始めてから効果を感じるまでに時間がかかるイメージがあるかもしれませんが、このようにスピーディに効果を感じられることも多いそう。

 

更年期症状に悩んでいる人は、ぜひ一度、試してみましょう。

 

■編集部セレクト/

更年期の不調対策。市販の漢方薬から選ぶこともできます

ドラッグストアなどで買える市販の製品にも、更年期症状に効果のある漢方薬があります。

ここでは、上で紹介した「婦人科3大処方」といわれる漢方薬の例をご紹介します。

 

●当帰芍薬散

当帰芍薬散 クラシエ薬品

クラシエ当帰芍薬散錠(第2類医薬品) 96錠  ¥1,969(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品

製品の詳細はこちら(クラシエ薬品 公式サイト)

 

ツムラ 当帰芍薬散

ツムラ漢方当帰芍薬散料エキス顆粒(とうきしゃくやくさん)(第2類医薬品) 20包(10日分)¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ

製品の詳細はこちら(ツムラ 公式サイト)

 

●加味逍遙散

加味逍遙散 クラシエ薬品

「クラシエ」漢方加味逍遙散料エキス錠(第2類医薬品)96錠  ¥2,640(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品

製品の詳細はこちら(クラシエ薬品 公式サイト)

 

ツムラ 加味逍遙散

ツムラ漢方加味逍遙散エキス顆粒(かみしょうようさん)(第2類医薬品) 20包(10日分)¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ

製品の詳細はこちら(ツムラ 公式サイト)

 

●桂枝茯苓丸

桂枝茯苓丸 クラシエ薬品

「クラシエ」漢方桂枝茯苓丸料エキス錠(第2類医薬品)48錠  ¥1,969(メーカー希望小売価格)/クラシエ薬品

製品の詳細はこちら(クラシエ薬品 公式サイト)

 

ツムラ 桂枝茯苓丸

ツムラ漢方桂枝茯苓丸料エキス顆粒A(けいしぶくりょうがん)(第2類医薬品) 20包(10日分) ¥2,640(メーカー希望小売価格)/ツムラ

製品の詳細はこちら(ツムラ 公式サイト)

 

 

【教えていただいた方】

今津嘉宏
今津嘉宏さん
医師
公式サイトを見る

「芝大門 いまづ クリニック」院長。藤田保健衛生大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科・副医長、慶應義塾大学医学部漢方医学センター助教、北里大学薬学部非常勤講師などを経て、2013年に「芝大門 いまづ クリニック」(東京都港区芝大門)を開業。日本外科学会認定医・専門医。日本消化器病学会専門医。日本東洋医学会専門医・指導医。西洋医学と東洋医学に精通し、科学的見地に立って漢方による治療を実践。おもな著書に『健康保険が使える漢方薬の事典』(つちや書店)、『まずはコレだけ! 漢方薬』(じほう)などがある。

 

写真/Shutterstock〈イメージカット〉 取材・文/和田美穂

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