大人の発達障害には大きく分けて、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)があります。ASDには受動型、孤立型、積極奇異型が、ADHDには不注意型と多動・衝動型があります。それぞれに困り事が違います。
※詳しくは第1回参照。
「今回取り上げる、ASDの受動型の人は特に人とかかわることがとても苦手です。そんなケースを見ていきましょう」(司馬理英子先生)
ASD受動型のA子さんの場合
人が大勢集まる場、特に飲み会が大の苦手
A子さん(42歳)は既婚で、小学生の息子が一人と夫の3人家族。ある会社の経理部に勤務しています。口数が少なくおとなしく、勤務態度は真面目です。
業務以外で自分から人に話しかけることはなく、周りから話しかけられれば最低限の返事はしますが、それ以上の会話はしません。時々、先輩や同僚からランチや飲み会に誘われ同行することもありますが、自分から積極的に会話に参加することはありません。
特に苦手なのが、会社の忘年会など大勢が集まる場です。そんなときも自分から人に話しかけることはなく、いつも一人でおとなしくしています。
子どものママ友の食事会に誘われて、断れずに参加したときは、矢継ぎ早に飛び交う話題や情報についていけず頭が真っ白に。一度に多くの情報が入ってくると、その処理が追いつかずにオーバーヒート。突然、意見を求められても答えられず、へとへとに疲れてしまいます。
NOと言えずに人の言いなりになりやすい
特に自分の気持ちを伝えるのが苦手で、頼まれると断れず、やりたくないことでも受けてしまいます。先日も、用事があり早く帰る予定でしたが、急な仕事を頼まれ、断り切れず残業に。泣く泣く予定を延期しました。子どものPTAでも断り切れずに役員にされ、そちらの仕事も抱えるはめに。
知人がやっているネットワーク販売も断れずに、サプリメントや化粧品の定期購入に同意してしまい、出費を増やしてしまったばかりです。
こうしてやることが増え、さらに子どもの世話や家事が重なると、いっぱいいっぱいになってパニックに! 家のことがおろそかになり、出費がかさむなどで、家庭の雰囲気も険悪です。
【ASD受動群タイプの特徴】〇は積極奇異群と共通
●何をするのも受け身で自分から人にかかわるのが苦手
●自分の気持ちや考えが伝えられない
●ノーと言えずに、人の言いなりになりやすい
●感情表現が苦手で表情が乏しい、もしくはいつもニコニコしている
●外に出かけるのが好きではない
〇相手の気持ちがわかりにくい
〇言われたことを真に受ける
〇興味のあることにのめり込む
〇自分の規則やルールを守ろうとする
〇予定変更が苦手
「“普通(定型発達)”の人でも、口数が少なく人との会話が苦手な人はいると思いますが、ASDの人はその苦痛に感じる度合いが違います。特に大勢が集まった場での会話が苦手で、想像以上に頭が混乱して、疲労困憊してしまいます。
もしも職場や友人などにこうしたA子さんのような人がいる場合、周りがさりげなくサポートしてあげることが大切です」
【周りのサポート】
「例えば、飲み会や食事に誘うのはいいのですが(たまには誘ってほしいという人もいます)、強引ではなく、『飲みに行くけれど、どうする?』『もしよかったら行かない?』というように、断れる雰囲気を残してあげることが大切です。
何かを頼むときには、言葉で言うよりも、目で見る情報のほうが伝わりやすいので、文字に書いて渡す(メールで伝える)のがベター。さらに『これ、お願いしても大丈夫?』『大変だったら言ってね』など、気遣う言葉を添えるといいでしょう」
【当事者へのアドバイス】
「こうした状況を上手に乗り越えるには、例えば、職場の飲み会やママ友との食事会などでは、『私はおしゃべりが得意ではないのですが、皆さんのお話を聞いているのが楽しいです』などと説明し、徹底して聞き役に回る方法があります。
無理をして話をしなくても、周囲に『あまりしゃべらない人』だとわかってもらえば、気が楽になるのではないでしょうか?
また、会議など苦手なディスカッションをしなければならない場で、どうにも頭がフリーズしてしまうようなら、『私はASDの傾向があり、ディスカッションが苦手なんです』と上司などにカミングアウトして配慮してもらう方法もあります。
頼まれると断れない人は、もしかしたら子どもの頃から、親や先生、友達の言うことを黙って聞いていたかもしれませんね。
嫌という自分の気持ちが言葉で伝えられないだけでなく、表情やしぐさでも表せない人もいます。
そんな場合は、日頃から断る練習をしておくといいですね。『今日はどうしても外せない用事があるので、明日でもいいでしょうか?』『仕事が忙しいので、それは引き受けられませんが、〇〇ならできるかもしれません』など、断る文言を事前に何通りか考えておきます。そして、それを声に出して練習しておくことが大事です。
また、強引なセールスやお店の販売員などに物をすすめられた場合、即決しない練習をします。『考えさせてください』と、これも声に出して練習して、どんなときでも必ず一度家に帰って考え直すこと、または誰かに相談する癖をつけましょう」
【教えていただいた方】
司馬クリニック院長。岡山大学医学部・同大学院卒業後、1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てながら、ADHDについて研鑽を深め、1997年に帰国後、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニック「司馬クリニック」を開院。著書は『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)をはじめ、『わたし、ADHDガール。恋と仕事で困ってます』(東洋館出版社)、近著『もしかして発達障害?「うまくいかない」がラクになる』(主婦の友社)など、多数。
イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子