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進む乳がん治療! 乳がんになっても、切らずに治せる時代が到来しています

増田美加さん

増田美加さん

1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。約35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』ほか。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員

いよいよ、乳がんになっても切らずに済む時代が到来しました。早期乳がんなら、メスを入れない「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法」が保険適用になっています。どんな治療なのか? どんな乳がんなら、この切らない治療が行えるのか? 増田美加さんがご紹介します。

早期の乳がんの割合が増えている! 年間患者は5万人超

 

私が乳がんと告知されたとき、まず頭に浮かんだのは、「胸をどのくらい切ることになるのだろう?」という不安でした。女性にとって乳房にメスを入れることは、大きなショックであり、恐怖です。

乳がん手術ってメスで切るの? と怯える女性

 

早期の乳がんの治療では、手術によってがんを切除することが中心です。主な手術としては、乳房を部分的に切除する手術(乳房部分切除術)や、乳房をすべて切除する手術(乳房全摘術)があります。

 

けれども、私たち患者にとって、乳房を切除することは心身ともに大きな負担になっています。

 

手術に伴って起こる出血のリスクもありますし、乳房に傷や変形を残すため、治療後のQOL低下や外見の問題があります。少しでも、患者に負担の少ない治療の開発が待たれていました。

 

日本女性の乳がんの罹患率は年々増えていて、その傾向はずっと変わっていません。年間の予測罹患数は全国で9万4300人。女性のがん罹患数では、大腸がんを超えて第1位と女性が最も多くかかるがんです*1。

 

なかでも0~I期の早期乳がんの割合は増加していて、2020年には乳がんの57.5%と半数以上が早期で見つかっています。早期乳がんの患者数は年間5万人を超えています*2。

 

そんななか、早期乳がんに対して「ラジオ波焼灼療法(RFA)」による、体にメスを入れて切ることなく負担を極力かけない(低侵襲)治療の選択肢が新たに加わりました。

 

従来の乳房部分切除手術とRFAは同じ治療成績

 

ラジオ波焼灼療法とは、がんの中に細い針状の電極を差し込んでラジオ波帯の電流を流し、発生する熱を利用して、がんを焼灼する治療法のこと。

 

ラジオ波焼灼療法は、国内で2004年に肝がん治療に初めて保険適用されたあと、今では多くの医療機関で治療が行われています。

 

2022年には、肺がん、腎がん、悪性骨軟部腫瘍ほかにも使われ、2023年12月に早期乳がんに対して保険適用になりました。

 

ラジオ波焼灼療法の臨床試験には、国立がん研究センター中央病院など全国9施設で372名の患者さんが参加。この試験の5年間の短期成績(乳房内の無再発生存割合)では、従来の乳房部分切除術に劣らない成績でした。

 

有害事象は、安全性評価の対象になる370名のうち43件が報告されています。術中では重篤ではない熱傷 7 件、術後から放射線治療開始までは、陥没乳頭1件、血腫1件、硬結・乳房硬結10件、出血1件、乳腺炎1件、皮下出血3件、皮膚潰瘍 1 件、疼痛 1 件などです。

 

この有害事象のデータを見ると、病変の部位や焼灼の程度、年齢など患者さんの持つ背景によって、決して多くはないですが、治療後に引きつれやへこみなどが起こることがわかります。

 

けれども、この治療最大のメリットは低侵襲と乳房の整容性(形の美しさ)の高さです。体にメスを入れることなく、乳房内のがん腫瘍を焼いて破壊することで、乳房にメスを入れて切除するのと同等の治療成績が得られることは、私たち患者の心身の負担を考えてもメリットが高い治療だと思います。

 

乳がん ラジオ波焼療法のプロセス【ラジオ波焼灼療法・左から】

①全身麻酔をして、皮膚表面から針のような電極をがんの内部に挿入し、ラジオ波帯(約472KHz)の高周波電流を流します。
②がん細胞は焼灼、凝固され死滅します。
③針を抜いて、絆創膏を貼ります。治療は約10分です。

 

 

ラジオ波焼灼療法(ラジオ波焼灼システム)機器
乳がん ラジオ波焼灼の機器乳がん ラジオ波焼灼の機器
↑ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation therapy︓RFA)の機器(写真上)と電極針(電流を流す針)。体表面から乳房内の腫瘍を超音波で見ながら、写真のラジオ波電極針を刺し、ラジオ波焼灼を行います

 

治療が行えるのは、しこり1.5㎝以下でリンパ節他への転移のない早期乳がん

 

ただし、このラジオ波焼灼療法は、乳がんになった誰もが行えるわけではありません。

 

この治療法が行えるのは、早期乳がんの人だけです。ここでいう早期乳がんとは、腫瘍の直径が1.5㎝以下、腋窩(わきの下の)リンパ節転移、および遠隔転移がなく、がんが1カ所に限局している場合です。

 

焼灼時間は10分程度で終了するとされています。術後には、これまでの乳房部分切除術後に行うのと同じように、通院による複数回の放射線照射治療が必要です。

 

保険適用の費用は、3割負担で約4万5,000円(入院費ほかは別)。日本乳癌学会ではラジオ波焼灼療法の十分な知識や経験がある医師と治療体制が整った医療機関を選定し、ホームページにて順次公開しています。
一般社団法人日本乳癌学会

 

 

早期の乳がんなら、切らなくてすむ! 早期発見のためには、症状がある前に乳がん検診で見つけることがとても重要です。1.5㎝以下のしこりは、触っただけでは見つけることが難しいといわれています。早期発見をして体と心に優しい治療をするためにも、今後ますます乳がん検診を定期的に受けるメリットが高くなります。ぜひ、2年に1回の乳がん検診を忘れずに受けてください!

 

*1 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」がん罹患数予測 2022年
*2 日本乳癌学会 全国乳がん患者登録調査報告 2020年

 

 

イラスト/かくたりかこ

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