受診の目安は、眼鏡やコンタクトレンズで見えやすくなるかどうか
老眼をはじめとして、年齢とともに増えてくる目のトラブルはさまざま。
よく見えない、ぼやける、かすむ、疲れる、目が乾く、ショボショボする、ゴロゴロする、痛い…などの症状を感じる人が増えてきます。
「このような不快感があると『何かの病気?』と不安になることもあると思います。
遠くか近く、どちらかは見えているのにどちらかが見えにくい場合、視力は落ちたけど眼鏡があればよく見えるという場合は、いわゆる老眼のことが多いですね。
遠くも近くも見えにくく、眼鏡やコンタクトレンズでも改善しない、目の不快感がずっと続いているような場合は、目の病気が隠れている可能性があるので眼科に行く必要があります」
そう教えてくれるのは、眼科医の宮澤優美子先生。
眼科に行くタイミングを迷う人にとって「眼鏡をかけて見えやすいかどうか?」は、とてもわかりやすい指標です。
「眼精疲労」はただの「疲れ目」ではなかった!
そもそも人の目は、加齢によって調整力が低下します。それが老眼。
老眼初期に目に負担のかかる作業をすると、調整力を上げようと目が頑張るため、「疲れ目」になりやすいのです。
目を休ませれば治る一時的なものですが、繰り返しているうちに「眼精疲労」にまで進んでしまいます。
眼精疲労の症状はピントが合いにくい、かすむ、まぶしい、充血する…などのほか、頭痛やめまい、肩こり、吐き気などの全身症状に及びます。
「軽度の眼精疲労は、ひと晩眠ればよくなります。よく寝たのに疲労が続いている場合は、やはり眼科を受診したほうがいいでしょう。
眼精疲労の原因はさまざまです。目を使う作業を長時間行ったり、度の合わない眼鏡を使っていることなどですが、ドライアイや緑内障、白内障など目の病気や全身疾患が隠れていることも少なくありません。
心因性の場合もありますしね。職場が変わっただけでストレスがなくなり、症状が改善する方もいらっしゃるくらいです。
眼精疲労にはビタミンB12が有効だといわれていて、外来では点眼薬や内服などの処方薬を出しています」
意外と多い「マイボーム腺機能不全(MGD)」に要注意!
眼精疲労はドライアイとも密接に関連しています。ドライアイで目の表面が乾燥すると視界が不安定になり、目がいっそう疲れやすくなるためです。
そのドライアイの原因として注目されているのが「マイボーム腺機能不全(MGD)」。
マイボーム腺とは、まつ毛の生え際にある皮脂腺の一種で、脂分を分泌して涙の蒸発を防ぐ役割を担っています。
その腺の出口が詰まって、分泌が低下するのがマイボーム腺機能不全です。
涙液の脂分が不足するので、涙が蒸発しやすく、ドライアイになります。
ドライアイ患者の約86%がマイボーム腺機能不全といわれますが、多くの人がこの原因には気づいていないのだそうです。
「マイボーム腺の詰まりと聞いて、原因の想像がつきませんか?
そう、アイメイクがきちんと落とし切れていないんです。マイボーム腺に汚れが詰まって変色している人もいるほどです。
特にアイライナーをインライン(目の粘膜部分)に入れるのは、マイボーム腺の出口を塞いでしまうのでよくありません。
もし粘膜までアイラインを入れたら、きちんと落とすこと。もちろんアイシャドウやマスカラも残りがちです。専用のクレンジング剤と綿棒を使って丁寧に落としましょう」
マイボーム腺の詰まりは化粧品会社でも注意喚起していて、お客さまサポートページでも「インラインはおすすめしません」という表記が増えています。
目の清潔ケアが、マイボーム腺を守る鍵
「マイボーム腺機能不全を予防・改善するには、やはり目元の清潔を保つことが重要です。
思い当たる人は、目専用のアイシャンプーを使うといいでしょう。
涙と同じpHに調整されたもの、目元の汚れをしっかり落としつつも肌に優しい設計になっているタイプがたくさん市販されていますよ。
とにかく毎日きちんと『まつ毛を洗ってあげる』ということが大事。
専門用語では『リッドハイジーン(眼瞼清拭)』と呼ぶんですが、まつ毛の根元をぬるま湯や専用のアイシャンプーで優しく洗浄する習慣、これを身につけたいですね。
マイボーム腺機能不全で炎症がひどい人の中には、まつ毛ダニ(顔ダニ)が大量に固まってまつげの根元に貼りついていることもあるんです。まあ、まつ毛ダニはどんな人の顔にもいるものなんですけどね」
【理想的なリッドハイジーンのやり方】
1)洗顔後、38度以上のぬるま湯か、ホットタオルで目元を温めます。
2)アイシャンプーを使用。鏡できちんと確認しながら指や綿棒を使って、まつ毛の根元を優しくマッサージしながら洗います。
3)洗浄後は優しく水で洗い流し、清潔なタオルでそっと拭き取りましょう。
毎日のセルフケアと受診で目の健康を守って!
「自宅でできる治療の基本はリッドハイジーン。まぶたを洗うことと温めることです。目の内側は温めないほうがいいんですけど、まぶたは温めたほうがいい。
また、脂分の分泌を増やすためにオメガ3系オイルの摂取も推奨されていますね」
セルフケアで変化がない場合は眼科の受診を。マイボーム腺機能不全の治療は、腺から脂を出すことが目標になるため、一般のドライアイ治療とは異なります。
「眼科でできることは炎症を抑える薬を出すこと。
それでも治らない場合はIPL(Intense Pulse Light)治療もあります。IPLはまぶたを温める器具を使う治療で、扱う医療機関が増えていますね。
自費診療ですが、新たなドライアイ治療法として注目されている方法です。
ひどくなる前にドライアイや眼精疲労の原因に目を向けて、ぜひ眼科を受診してほしいと思います」
【教えていただいた方】

表参道内科眼科。医学博士。日本眼科学会認定専門医。日本眼科学会、日本眼科手術学会、日本眼科医会、東京都眼科医会、港区医師会会員。 「クリニックは、東邦大学眼科名誉教授が開設した所で、眼科の中でも、専門は白内障、網膜硝子体疾患を得意としています。日本大学病院教授、准教授が非常勤で、高度な大学医療レベルを保っています。内科を併設していて、網膜疾患を発症した方が、かかりつけ医ではコントロール不良の、高血圧や糖尿病を管理しています。私は、医局の人事異動で配属され、全体のサポートとしてかかわってきました」
取材・文/蓮見則子