「そば=ヘルシー」というイメージだけれど、血糖値の観点からは?
和食の2大麺料理、うどんとそば。
よく「どちらが好き?」と比較されがちですが、まったく違った特徴を持っています。
うどんは小麦粉+塩+水を原料にして作られます。
一方、そばはそば粉+水に、つなぎとして小麦粉を使うのが一般的。つなぎの小麦粉が2割、そば粉が8割なら「二八そば」、つなぎを使わずそば粉のみで打ったのが「十割そば」です。
カロリーの観点からいうと、うどんもそばもメーカーによって個体差があり、さらにはつけ汁やかけ汁など、めんつゆによってもカロリーや糖質量に差が出ます。
どちらかといえば、そばのほうがヘルシーなイメージが強いのは、栄養面で勝っているからです。
そばは、小麦粉に比べて良質のアミノ酸を豊富に含みます。うどんのように精製した小麦粉と違い、そばは実の外側まで食べることが多く、ミネラルやビタミンも比較的多く、さらにはルチンが含まれます。
ルチンはいわゆる腸内環境を整え、さまざまな病気予防に役立つ研究結果が出ている栄養素。そういったプラスアルファの栄養面でも、そばのほうが健康によさそうです。
うどん vs. そば。どちらが血糖値を上げなかった?
では、本題です。
うどんとそば、血糖値の上がり具合を比較してみましょう。
血糖値の変動を追うことができる「freestyleリブレ」を装着した、読者モニターの結果を紹介します。
最初はモニターTさん。
別々の日の朝食に、うどんとそばを食べて比較しました。
Tさんは、自宅で乾麺を使用し、具材もめんつゆもまったく同じものでそろえてくれました。
1日目。うどんです。具材は豚肉、三つ葉、わかめ、卵。
2日目。十割そばです。具材はまったく同じで、豚肉、三つ葉、わかめ、卵。
食べたあと、血糖値はどうなったでしょう?
左はうどんを10:00に食べた日:急に血糖値が上昇し、ピーク時150mg/dLになってはいますが、山が尖ってはいません。
右は十割そばを9:30に食べた日:なんと! うどんよりも明らかに急上昇。ピークが170mg/dL近くに。
そばを食べたあとにもう一度山ができているのは、休日でダンスのレッスンに行ったためと思われます。振り付けを覚えるためにずっと集中しているため、交感神経が優位になり、上がってしまったようです。
うどんよりもそばのほうが上昇する、という結果になりました。
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もう1名、モニターMさんの場合です。
同じようにうどんとそばを異なる日に食べてもらいました。
1日目はうどんです。薬味に小ねぎと生姜を使いました。
2日目は十割そば。同じく薬味に小ねぎと生姜を使っています。
血糖値の変動を見てみると…
左はうどんを14:15に食べた日:90mg/dLくらいから、食べた直後に160mg/dLまで急激にアップ。その差70mg/dL。
右は十割そばを14:10に食べた日:150mg/dL近くまで上昇。うどんに比べると少しはピークが抑えられた感じ。
4名がこの実験に参加してくれましたが、うどんのほうが血糖値のピークが高かったのはMさんのみ。
ほかの3名はどちらもあまり変わらないか、むしろ十割そばのほうが上がる、という結果になりました。
GI値が低いはずのそば。なぜ血糖値が上がる?
ヘルシーなイメージのそばのほうが血糖値が上がりやすかったのはなぜでしょうか?
この結果を血糖値に詳しいドクター、 山村聡先生に考察してもらいます。
「うどんとそば、実は糖質量はほぼ同じなんです。どちらも1食180g当たり、糖質が40gほど含まれています。
白米はお茶碗1杯の糖質が55g前後、コンビニのおにぎりひとつの糖質が40gくらいです。白米よりは糖質は少ないかもしれませんが、うどんもそばもそこそこ糖質がありますよね。
『GI値』の観点でいうと、そばは低GIで血糖値の急上昇を抑えられると思われがちです。
でも、糖質量がほぼ同じなので、血糖値の上昇幅もほぼ同じ。どちらも摂取した糖質の量だけ上がります。
これ、前回の『白米vs.玄米』の実験と同じですね。
実は、GI値の理論はちょっと古い考え方なんです。
うどんよりはそば、普通のパスタより全粒粉のパスタのほうが血糖値を上げにくいと思われていましたが、そうでもなかった。糖質量が同じなんだから、血糖値の上がり方もほぼ同じだったんですよ!」
もちろん、栄養素的には生成された白い炭水化物よりは、そば粉、玄米、全粒粉などのホールフード(精製を極力抑えた食品)のほうが優れています。
でも血糖値という観点では、どちらも同じように血糖値が上がるということ、肝に銘じておきましょう。
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消化がよい=血糖値が上がりやすいということ
さらには、お米よりも麺のほうが血糖値が上がりやすいと指摘する山村先生。
「麺は、穀物を製粉したものですよね。粒になっている米より消化がスムーズなんです。だから食べて即、血糖値が上がりやすい。
例えば、普通のご飯よりお粥は血糖値が上がりやすいんですよ。
病気のときに消化のいいものを、といわれますが、そういった食べ物はたいてい吸収されやすく血糖値が上がりやすいです。
もちろん体調が悪いときは、血糖値の上昇よりも栄養補給を意識してくださいね」
消化がいいといえば飲み物も?
「そうです! 糖質の中でも飲料の糖分はスピーディに消化吸収されます。その最たるものが甘い炭酸飲料。
消化の必要がない飲み物がいちばん血糖値に影響するんです。
甘い飲み物には、砂糖のほか『果糖ブドウ糖液糖』などの糖類が含まれていますが、これは果糖とブドウ糖を主成分とする液状の糖です。
清涼飲料水やジュース、栄養ドリンク、スポーツドリンク、市販の菓子、ドレッシング、そして焼き肉のたれなど調味料まで、幅広く使用されています。
砂糖以上に血糖値を急上昇させるだけでなく、体内の老化を進める物質『AGE(終末糖化産物)』の生成を促進してしまうのでより注意が必要です」
原材料を見て気をつけたいものは、「果糖ブドウ糖液糖」のほか「ブドウ糖果糖液糖」「高果糖液糖」「砂糖混合異性化液糖」など。
うどんやそばに使う、めんつゆにも使用されていることが多いので、市販のものを購入する際は、原材料表示をチェックしてみては?
【教えていただいた方】

九州大学医学部卒業。2024年12月に「やさしい内科クリニック」を開院。糖尿病啓発・予防のため血糖値に関するSNS発信を行っている。豊富な診療経験をもとに、一人一人のライフスタイルに合わせた血糖値改善、ダイエットプログラムの開発にかかわるなど、病気の予防と医療の架け橋として活動中。 自らの体を実験台にしてさまざまな食材の血糖値を測定するYouTubeチャンネル「やさしい内科医のY's TV」が人気。登録者数は8万人超。著書に『糖尿病専門ドクターが検証! 血糖値を下げる食事法について、実際に試してみた』(KADOKAWA)。
※血糖値の変動には個人差があり、モニターの結果はあくまで一例です。同じ食材をとっても人によって、また食べるタイミングなどによって変化します。
※モニターはFreeStyleリブレ2を2週間装着して間質液中のグルコース値を測定しました。間質液中のグルコース値は血糖値と相関することが知られています。この記事中では、間質液中のグルコース値を「血糖値」としています。
取材・文/蓮見則子