骨粗しょう症から、腰曲がりへ
骨密度の減少で骨がもろくなり、骨が折れやすくなるのが、骨粗しょう症という病気です。骨粗しょう症になると、特に背骨の椎体骨折(圧迫骨折)が多く、これが進むことで背中が丸くなり、腰も曲がるようになります。この「腰曲がり」は脊柱変形と呼ばれ、見た目の問題だけではなく、以下のような影響が出ます(実際の症例と手術での改善は、前回記事を参照)。
・背中や腰の痛みが続く。
・真っすぐ立てず、歩きづらくなる。
・内臓が圧迫されて、胃や肺に影響が出る(食欲不振になる)。
そればかりか、重度の脊柱変形は、関節炎や慢性肺疾患、糖尿病、うっ血性心不全などの慢性疾患よりも、健康関連QOLを低下させてしまうのです。本来は、若年期に健康的な生活習慣を続けることで「骨量を稼ぐ」ことが大切なのですが、40代、50代であっても、今から気をつけるべきことがあります。
骨粗しょう症になりやすい人の4大リスク
骨粗しょう症は、誰にでも起こるわけではありません。しかし、特に 「なりやすい人(危険因子を持っている人)」 がいるので、以下の4つのカテゴリーに当てはまる人は注意が必要です。
①遺伝・体質によるリスク
もともとの骨の強さや体質は生まれつき決まっている部分があり、年齢による影響もあります。
・家族に骨粗しょう症の人がいる(遺伝)
→ 親やきょうだいが骨折したことがある場合、自分も骨が弱くなりやすい傾向。

・小柄・痩せ型の人
→ 骨の量が少ないため、加齢とともに骨密度が低下しやすい。 BMI(肥満度を判断する数値)が 18.5未満の人 は特に注意。BMIは 18.5以上25未満が「普通体重」。
・閉経後の女性(または50歳以上)
→ エストロゲン(女性ホルモン)の減少 により、骨がもろくなりやすい。栄養不足には注意が必要。
・高齢者(特に70歳以上)
→ 年齢とともに骨をつくる力が落ちる。
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②食生活のリスク
骨をつくる栄養が足りていないと、骨密度はどんどん低下します。
・カルシウム不足(牛乳・小魚・大豆製品・緑黄色野菜をあまり食べない)
・ビタミンD不足(魚・きのこ類を食べない)
・タンパク質不足(肉・魚・卵・豆類・牛乳・乳製品をあまり食べない)
・ビタミンK不足(納豆・緑黄色野菜)
・塩分・リンの過剰摂取(加工食品・スナック・ジュースをよく食べる)
→塩分を過剰摂取すると、尿と一緒にカルシウムが排出されやすくなる。リンをとりすぎると、カルシウムの吸収が妨げられる。
・アルコールやカフェインの過剰摂取
→過度な飲酒は、骨をつくる細胞(骨芽細胞)の働きが低下、カルシウムの吸収も悪くなり、骨折リスクが上がる。カフェインをとりすぎると、カルシウムが尿と一緒に流れ出る。
③生活習慣のリスク
普段の生活習慣によっても、骨密度はどんどん低下してしまいます。
・ 運動不足(座りっぱなし・歩く時間が少ない)
→ 骨は 「負荷(刺激)」がかかることで強くなるので、動かないとどんどん弱くなる。骨に刺激を与える運動(ウォーキング・ジョギング・階段昇降)や筋力をつける運動(スクワット・ストレッチ・ヨガ)など、適度な運動を習慣にする。
・喫煙習慣がある
→ 骨の成長を邪魔するうえ、カルシウムの吸収も悪くなり、骨密度を低下させる。
・極端なダイエット
→ 極端な糖質制限・断食・低脂肪食はNG! 脂質・タンパク質不足で、骨をつくる材料が不足する。
・日光を浴びる時間が少ない(ビタミンD不足)
→ 屋内での生活が多い人は注意が必要。ウォーキングや買い物、通勤などで1日15〜30分の日光浴を心がける。
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④病気や薬の影響によるリスク
ほかの病気や薬の副作用で、骨粗しょう症になりやすいこともあります。
・関節リウマチや甲状腺の病気がある
・糖尿病や胃腸の病気がある(栄養が吸収されにくい)
・ステロイド薬を長期間使っている(骨がもろくなりやすい)
骨粗しょう症は気づかないうちに進行するので、侮ってはいけない危険な病気です。
40代50代からの予防がとても大切で、ポイントは、老後のために骨の貯金を増やし、減らさないこと。
特に、リスク①(遺伝・体質)と④ (持病がある人)に当てはまる人は定期的に骨密度検査を受けて、医師と相談しながら予防策を考えましょう。
【教えていただいた方】

国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 診療部長。脊椎・脊髄疾患の専門医、医学博士。日本整形外科学会 整形外科専門医・認定脊椎脊髄病医・認定運動器リハビリテーション医・日本脊椎脊髄病学会 脊椎脊髄外科指導医・脊椎脊髄外科専門医。頚椎から腰椎まですべての脊椎・脊髄疾患の保存治療および手術治療を行っている。
イラスト/かくたりかこ 取材・文/井尾淳子