背骨の下部が痛みの多発地帯
「背骨は小さな骨(椎骨)が連なっており、それをつなぐように椎間板があって、クッション役を果たしています。それにより、背中を丸めたり(屈曲)、反らす(伸展)、横に倒す(側屈)、回す(回旋)と、さまざまな動きに対応できるようになっているわけです。
こうした腰の動きも、まわりの関節や筋肉の絶妙な連携があってこそ。特に、股関節や胸椎が大きく関係していて、ここの動きが悪くなると、負担が腰に集中します。特に、背骨の下の部分、第4番腰椎(イラストのピンク色の部分)と5番腰椎(紫色の部分)、仙骨(緑色の部分)にダメージが起こりやすく、痛みもこの背骨の下部に起こることが圧倒的に多いのです。
腰痛を起こさないようにするには、この部分を安定させ、股関節と胸椎に力をうまく分散させて、動きすぎ、使いすぎを自分でコントロールすることが大切です」(武田淳也先生)
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床にある重い荷物を持ち上げるとき、イラストのように腰を曲げていませんか? これでは腰と膝にも、大きな負担がかかってしまいます。
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ところが、膝とつま先を同じ方向に向けて、膝を曲げ、腰を下まで落としてから持ち上げると、腰への負担は最小限ですみます。このとき、荷物を体に引き寄せて、お腹をしっかり引き込んだまま、車のジャッキアップのように、膝と股関節だけを伸ばして持ち上げるのがポイントです。
「このように日々、間違った体の使い方を繰り返していると、加齢とともに、筋肉、骨、そのほかの組織の変性などが加わって、やがて腰痛を発症することになります。ひょんな瞬間に急性に起こるのが通称『ぎっくり腰』です。この場合、激しい痛みは3日~1週間くらいで治まりますが、『慢性腰痛』になると、軽い痛みやだるさが何ヵ月も続くことがあります」
40代から増えてくる腰の病気に要注意!
年齢とともに、腰痛に悩む人が増えてきます。代表的な腰痛を伴う3つの病気とは?
正常な脊柱管
私たちの背骨(脊柱)は、椎骨という小さな骨が重なっています。通常は椎骨同士がきれいに並び、それをつなぐ椎間板がしっかりとクッション役を果たしています。
脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)
背骨の変形や椎間板の膨張、黄色靱帯の変性などで、神経の通る脊柱管が狭くなります。これによって神経が圧迫されて痛みを発症します。背骨を後ろに反らすと、より脊柱管が狭くなるので、痛みが増します。太ももや膝にしびれが出ることもあります。
椎間板ヘルニア
椎骨同士をつなぐクッション役を果たす椎間板の中にある、髄核が飛び出して神経を圧迫するのが痛みの原因です。ヘルニアとは体の一部が、あるべき場所から出てしまった状態を指します。椎間板ヘルニアの場合は、腰だけでなく、太ももにもしびれを起こすことがあり、腰を曲げると痛みが増すことが多いようです。
腰椎変性すべり症
椎間板や関節の劣化などで、椎骨の位置がずれる病気です。短い距離なら歩けるのですが、長距離だとお尻や太ももが痛くなって歩けなくなることも。しかし、少し休めばまた歩ける…といった症状が特徴です。前かがみになると少し楽になります。
「初期段階では痛みが軽く、病院に行くほどではないなどと思いがちですが、重症化する前に整形外科を受診して、レントゲン、MRIなどの画像検査で正確な診断を得ることが重要です。
クリニックでの治療は、消炎鎮痛剤、腰部固定帯を着用するなどで、炎症を鎮め、腰部の安定を保つこと。リハビリテーションで腰にストレスを与えない姿勢や動作を学び、実践することが大切です」
胸椎の動きを広げるエクササイズをプラス!
「腰に負担を集中させないためには、腰椎や骨盤を安定させたまま、その周囲である、胸椎や股関節の動きを高めることが、腰痛の予防や再発防止に必要です」
*注意/しびれなどの神経症状や骨粗しょう症のない人に限ります。
① 両膝を曲げて、あお向けになり、左右の足や膝の間はこぶし1個分ほど開きます。股関節に両手のひらを置いて、息を吸って準備をします。
② 息を吐きながら、上体を頭→背骨→肩甲骨とゆっくりと床から持ち上げていきます。肩甲骨の下の角くらいまで上げるのが目安。同時に両手を膝の方向にスライドさせます。
③ 再び息を吸い、吐きながら、背中全体のカーブを深くして、さらに上体を2~3㎝上げます。ゆっくりと体を元に戻します。これを5~6回を目安に繰り返します。難しいと思う場合は3回以内にとどめ、無理をしないようにしてください。
日常生活では「腰だけ曲げない」ことが必須!
予防や再発防止には、日常でのちょっとした動作に気を付けることが重要です。
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例えば、顔を洗うとき、両膝を伸ばしたまま腰だけを曲げて、背中を丸めていませんか? これだと腰と首にも大きな負荷がかかっています。
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左右の膝を少し前後にずらし、両膝を軽く曲げて両股関節から上体全体を斜め前に倒します。腰を落とすようにして、背すじ伸ばしたまま、お腹は平らに引き入れます。この姿勢はキッチンで調理をするときなども同様です。膝を上手に使って、力を分散させることが大切です。
いかがでしたか? 腰痛にならないためには、日頃の姿勢と体の使い方が大切。この小さな積み重ねが、痛みのない体づくりの基本です。
【教えていただいた方】
「整形外科 スポーツ・栄養クリニック」(福岡、東京・代官山)理事長。日本で初めて医療にピラティスを取り入れ、独自の「カラダ取説」プログラムの普及に尽力
イラスト/かくたりかこ 構成・文/山村浩子