「変形性膝関節症」の62%は痛みがない!
膝痛というと真っ先に頭に浮かぶのが変形性膝関節症ではないでしょうか? 変形性膝関節症というと、杖をついて歩くおばあさんを思い浮かべてしまいますが、実は40歳から急速に罹患率が高まる疾患。決して他人事ではありません!
「この病気は40歳を過ぎた頃から急に増え、40歳以上の有病率は、男性で約43%、女性で約62%という調査結果があります(2010年、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター関節疾患総合研究講座特任准教授・吉村典子先生のグループの調査)。
その罹患者のうち、自覚症状である痛みがあるのは、男性で約1/4、女性で約1/3。つまり、男性の3/4、女性で2/3は痛みがありません。
問題なのは、痛みがない、もしくは違和感はあるが大したことはないと放置して、痛み出した頃には、かなり病態が進んでしまうことです」(武田淳也先生)
膝は股関節とともに体重を支える関節のひとつです。その安定性を確保するために、半月板やじん帯、筋肉や腱などが複雑にサポートし合うことで、スムーズな動きを支えています。
「その複雑さゆえに、日常生活からスポーツ時にも、力学的負荷がかかることの多い関節といえます。膝を痛めないためには、もちろん膝まわりの筋肉を鍛えることも大切ですが、特に“ひねり”の力に弱い構造なので、脚の使い方が重要になります。
実際に、どんなに鍛えられた筋肉を持つプロのアスリートやダンサーでも、体重がしっかり乗った状態で膝をひねると、簡単に膝を痛めてしまいます。
年齢とともに、筋力だけでなく、半月板やじん帯などの弾力性も弱くなってきますので、膝関節への負担は年々増すと考えるといいでしょう」
変形性膝関節症は膝の軟骨がすり減った状態
では、変形性膝関節症とはどのような病気なのでしょうか?
「通常、膝は大腿骨と脛骨(けいこつ)の接面に関節軟骨や半月板があり、これらが歩行時などの衝撃を吸収する役割を果たしています。
このクッション役が加齢などにより、弾力を失ったり、すり減って、骨が変形する疾患が変形性膝関節症です。骨と骨が当たり、骨の端にトゲのような突起物(骨棘/こつきょく)ができることもあります」
初期症状では、起床後、動き始めに膝のこわばりを感じます。しかし、しばらく動いていると違和感は治まるため、気にせずに過ごしてしまいがちです。放っておくと、やがて関節内部の炎症が進み、痛みが出たり膝が腫れたり、熱を生じることも。こうなると階段の上り下り、正座などが困難になってきます。
悪化した症状では、骨同士がぶつかるなどして、痛みが増し、日常生活に支障が出るようになります。
「特に初期段階では痛みを感じないケースがあります。少しでも違和感があったら、早い段階で一度、整形外科医を受診することをおすすめします。早く対処をすれば、軟骨の摩耗・損傷の進行は抑えることができます」
足先と膝が同じ方向を向いていることが重要!
「膝はひねりの力に弱い、というお話をしました。それは具体的にどのようなことかというと、歩行などで脚を踏み出したときは、足先と膝の方向がそろっていることが重要です。この下肢のアライメント(骨と関節の配列)を無視した動きをすると、簡単に膝を壊してしまいます。
このアライメントが崩れた状態がO脚やX脚です。ですから、変形性膝関節症になる人は圧倒的に、O脚やX脚の人が多いのです。この傾向がある人は、できるだけ早い段階で治すことが大切です」
病院ではまずは炎症と痛みの軽減を
では、変形性膝関節症の疑いがある場合、整形外科ではどのような治療を行うのでしょうか?
まず行うのが保存療法です。
変形の少ない初期の段階では、おもに薬物療法で炎症と痛みを抑えます。薬には外用薬(塗り薬や湿布など)、内服薬(痛みが強い場合は炎症鎮痛薬などを短期で使用)、注射(関節内にヒアルロン酸などを入れる)があります。
また、運動療法も大切です。医師や理学療法士と相談しながら、有酸素運動でウエイトマネージメント(減量)、ストレッチ、筋トレなどを行います。
また膝を温めるなどの温熱療法、足底板や膝装具での物理療法を行うこともあります。
重症化すると手術療法を行うことも!
症状が進行して、保存療法で効果が出ない場合は、手術療法を行うことになります。おもなものに、関節鏡視下手術(関節鏡を挿入して、軟骨の破片を取り出したり、軟骨の表面をなめらかにします)、高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ/脛骨の一部を切り取り、膝への荷重のかかり方を調整します)、人工膝関節置換術(膝軟骨の表面を薄く削り、人工関節に置き換えます)など。
膝への負担を減らす「体の使い方」を身につける!
「痛みがある程度軽減したら、少しずつ体を動かすようにしましょう。膝のまわりの筋力が落ちると、関節の安定性が悪くなり、ますます膝に負担がかかるといった悪循環に陥ることもあります。まず体の正しい使い方(モーターコントロール・略してモタコン)をマスターして、膝をひねらないで使えるようになってから、筋トレをすることが大切です」
普段の生活で脚のアライメントに注意!
階段を上るときに、膝が内に入ったり、逆にがに股になっていませんか?
股関節と膝、足の人差し指が一直線になっていることが大切です。
これは階段を下りるときも、平地を歩くときも同様です。これを意識することで、膝への負担はかなり軽減するはずです」
O脚・X脚を改善するエクササイズ
膝の痛みがなくなっても、間違った体の使い方をしていたら、また痛みはぶり返します。膝と足先の方向をそろえることが何より大事! O脚・X脚を治すことも治療の一環になります。
骨盤を地面(床)に対して垂直になるように意識して、背すじを伸ばします。
両手を左右の腰に当て、上半身の姿勢を保ったまま、息を吸いながら、脚を1歩前に踏み出します。前に出した脚の膝が直角くらいになるまで曲げます。
息を吐きながら、前に出した膝に力を入れ、膝を伸ばしながら体全体を上に上げます。
そのまま、前に出した脚を後ろに引いて、元の位置に戻ります。
反対側の脚も同様に行います。これを左右各5~6回ほど繰り返します。
前から見たときの姿勢がこれ。股関節と膝、足の人差し指が一直線になっていることが大切です。例えば、足先を外に向ける場合は、足先だけでなく、股関節を開いて、膝も一緒に外に向けること。このラインがそろっていないと、膝に大きな負担がかかります。
「足先を動かすときは、股関節も動くときと、体に叩き込み、負荷が膝一点に集中しないように気をつけます。小さなことでも、日々の動作で積み重なると、痛みの原因になります」
【教えていただいた方】
「整形外科 スポーツ・栄養クリニック」(福岡、東京・代官山)理事長。日本で初めて医療にピラティスを取り入れ、独自の「カラダ取説」プログラムの普及に尽力
イラスト/かくたりかこ 構成・文/山村浩子