今年の夏は本当に暑かったですね。まだまだ厳しい残暑が続いていますが、体温より高い気温から比較すると、つい涼しくなったように感じがちな今日この頃です。
以前(第51回)の記事で、私は乳がんの術後の再発予防のホルモン治療として、エストロゲンを抑制する薬を毎日服用していることを書きました。この薬の副作用、通常も結構しんどいのですが、この暑さのせいか、とにかくこの夏はきつくて困りました。
この副作用、いろいろ周囲と話していると放射線治療や抗がん剤とは違って、どうもそこまで大変と思われていないらしいことに最近気づきました。私が妙に元気な印象があるせいかもしれませんが(涙)、例えば貧血予防のために毎日鉄剤を飲んでいるみたいなイメージの人が多かったようです。
退院した=治った、あとはただ時間が過ぎるのを待って再発しなければOK、みたいな感じでしょうか。実はそこからが副作用との戦いなのです。
この副作用、人によるのですが鬱になる人もいるくらい重いこともあるそうです。実際私もどんよりした気分になりますし、状況によって確かに鬱っぽくなるだろうと感じます。
そしてなにより、完治とみなされるまでにはこの状態を10年我慢しなければなりません。結構大変だと思いませんか?!
というわけで、今回はちょっとそんな愚痴もこめて(笑)、ホルモン療法を行うとどんな副作用があるのか、あくまで私の場合ですが具体的にお話してみたいと思います。
乳がんのホルモン療法の副作用、私の場合
私は乳がんの術後、再発予防のホルモン療法としてエストロゲンを抑制するタイプのタモキシフェンという薬を毎日服用しています。 これは簡単にいうとエストロゲンを欠乏状態にすることになり、副作用もその影響から起こるそうです。
この副作用は、国立がん研究センター中央病院のサイトによると一般的には大きく以下の4つで説明されています。
1. ほてり・のぼせ(体温調節ができなくなる)
2. 無月経・月経異常(不正出血など)
3. 子宮への影響(長期服用により子宮体がん・子宮内膜症発生率が高まる)
4. 血液への影響(血液が固まりやすくなる)
私の場合は、1ののぼせの症状がかなりきつく出ています。
エアコンを25℃設定にした部屋の中で、いきなり汗だくになるなどはしょっちゅうです。しばらくたつとまた急に寒く感じるので、体温調節機能が正常ではないという実感もありますし、自分では対処できないため非常に苦痛です。人に会うのも苦痛になります。
この症状で苦労するところは他にもあれこれあるのですが、一番影響があるのが睡眠です。エアコンは冷房をつけっぱなしで寝るようにしていますが、毎日のように夜中に”暑さで”起きてしまいます。第51回で書いたように睡眠薬も使用していますが、睡眠の導入時には効果があっても、途中で目が覚めることは残念ながら予防できないことが多いみたいです。特に今年の夏は暑すぎてほぼ毎日この症状に悩まされていました。
それ以外だと、ちょっとしたことですが綿素材の衣服が着られなくなったことでしょうか。急に汗だくになるので、綿のTシャツなどは、汗だけでまるで水を浴びたような見た目になるからです。おかげで趣味のランニングウェア(吸水・速乾に優れた化繊)が非常に活躍しています。
2の無月経については、前回の記事(第58回)に書いたように手術前から現象自体はないので私は当てはまりませんが、3の子宮への影響については、もともとあった子宮筋腫が5cmから8cmに大きくなりました。これは、ホルモン治療のせいかどうかは主治医もはっきりいえないらしいのですが、可能性はゼロではないそうです。
この影響としては大きくなった筋腫が膀胱を刺激するためトイレがすごく近くなりました。出るものがないのに頻繁に行きたくなるので、脱水にもなりやすい実感もあり、特にアウトドアレジャーやランニングなどの際にはかなり注意するようになりました。 ただ、水分を取りすぎると低ナトリウム症の危険もあるので、調整も難しく悩みは尽きません。
最後の4の血液への影響は今のところそこまでではありませんが、血液中の水分量が減ることで乾燥やかゆみなどにもつながるそうで、特に皮膚の柔らかい部分や陰部のかゆみに悩まされるようになりました。これも地味な症状ではありますが、毎日のことだとストレスはなかなかのものです。
更年期と似ているけれど、同じでもない理由
これらの症状は更年期障害とよく似ているといわれます。 厚生労働省のサイトでは以下のように解説されています。
「閉経期前後の約10年間に卵巣ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少することによって症状が現れます。(中略)女性の閉経前における身体的症状としては、のぼせや顔の火照り、脈が速くなる、動悸や息切れ、異常な発汗、血圧が上下する、耳鳴り、頭痛やめまいなどです。」
私は更年期の症状を感じる前に乳がんになってしまったので実感はなかったのですが、エストロゲンが低減した状態という点では確かに同じです。そう考えれば更年期障害の人も同じような症状に悩まれているのだろうと思います。
そういう意味から、少しでも症状が軽減しないだろうかと、更年期障害の対処方法を調べたこともあります。
更年期障害の場合、体質や症状改善の漢方薬などを別にすると、特に有効な治療法としてホルモン補充療法(hormone replacement therapy 略してHRT)という方法があるそうです。急激にエストロゲンが減少し混乱してしまった体に、少量のエストロゲンを足して、穏やかに軟着陸させるという確かに非常に理にかなった方法です。 雑誌などの更年期特集でも、効果のある治療法として勧められているケースをよく見かけます。日本では普及率はまだ数%~十数%らしいのですが、海外では50%以上の普及率に及ぶ国もあるのだそうです。それだけ効果が期待できるのですね。
でも、お気づきでしょうか。そもそもなぜ私が苦しい思いをしてホルモン治療をしているのか。
私のような乳がんサバイバーは、再発につながるエストロゲンをわざわざ制限しているので、このHRTという手段はとれません。エストロゲン由来の乳がん患者にとっては、エストロゲンの補充などもってのほか、あってはならない”もの”です。
漢方薬などで症状改善を期待する以外に、症状を起こす原因に対して、直接対処する方法がない。 この副作用がこのまま続くとしたら10年耐えなれば、完治とは判断されないのが私の乳がんサバイバー生活の実態です。
病気を予防するだけ、ただ時間が過ぎるのを待ち再発しなければOK、だけではないことは、ぜひ知っていただきたいと思います。
病気でなくても、未満でもしんどいことも多い
少し脅すような内容になってしまいましたが、この副作用にはもちろん個人差はあります。同じホルモン療法をしていても、副作用がなかったり軽い人だって当然いるはずです。 また、ホルモン治療の中でも、私が経験しているのはあくまでタモキシフェンのケースです。
私はあまり効果が見られませんでしたが、漢方薬などで対応する人も多くいらっしゃるそうです。
そういう意味では万人に当てはまりはしないと思いますが、同じような療法を想定する場合、10年間この症状に耐える必要があることを含めて少しでも心構えの参考になればと思います。 そして、私も元気そうに見えてなんやかやがんばっているのね、と思ってもらえたらうれしいかな、とも思います(笑)
あと、ホルモン治療の期間の話ですが、私は主治医から10年経たなければ完治とは判断できないとはっきり言われたのですが、どうも5年で済むケースもあるみたいです。私は5年は都市伝説だと思っていたので(笑)、次回の定期健診で主治医に再度聞いてみようと思いますが、そういうガイドラインもあることを知っていると気が楽になるかもしれません。
参考:患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版|
それから、対処する方法があるといっても、更年期障害の症状だって大変なことは、似た症状で毎日ひーひー言っている私が実感しています。なったことがない方にはなかなか実感できない面もあると思いますが、病気ではない病気未満だって生活上では結構なストレスだったりします。
これを読んだあなたの周囲にもしそんな更年期障害の症状で苦労していらっしゃる人がいたら、なるほどこんな風に大変なのかと理解する参考にしてもらえたらなと思っています。
そして、もし実際に更年期障害に苦しんでいるのなら、乳がん後のホルモン療法と違ってすでにHRTという手段があるということは救いだと思います。漢方薬なども、苦しさが続くようなら一度対応策を考えてみてもよいのではないでしょうか。 つらい状態はないに越したことはないのですから。