手指のトラブルを治すのは、実は医師ではなく自分自身です!
富永喜代先生が院長を務める「富永ペインクリニック」(愛媛県松山市)には、他県からも手指の症状に悩む女性がたくさんやって来ます。
整形外科に行って「これはリウマチではありませんね」などと言われて、痛みや変形を治療もしてもらえず、困り果てて来る方が多いのだそう。
実際に、手指の痛みと変形に困って、「富永ペインクリニック」を受診した方々の写真を見せてもらいました。
■手指トラブルの実例(富永ペインクリニック)
【Aさん】
「指の変形は遺伝も関係していると聞くけれど、母も姉も妹も違う。私だけがこんな指になってしまった」と、つらさを訴える50代女性。
【Bさん】
40代の主婦の方。第1関節が過剰に屈曲、第2関節が逆に背屈する「スワンネック変形」という変形の仕方。指を伸ばすことができません。
【Cさん】
指に水ぶくれのようなできものができている女性。これは「ミューカスシスト」といい、おもにヘバーデン結節に伴ってできるケースが多い症状です。
【Dさん】
40代女性。変形は少ないのに、痛みがとても強い。変形と痛みは必ずしも比例しません。激痛は、急激に変形していく途中の段階や、一気に冷え込む季節などに起こりやすいものです。
【Eさん】
いくつか整形外科を受診したものの、指の痛みが治まらず、富永先生の著書を見て他県から来院した40代女性。オンライン診療も併用して何度か受診したら、痛みがなくなったそう!
「富永ペインクリニック」ではどんな治療や指導を行っている?
上のような、さまざまな悩みを持つ患者さんがいますが、富永先生のクリニックでは、どのような治療を行っているのでしょう?
●クリニックで行うこと(初診からの流れ)
問診 →「10秒神経マッサージ」の指導 →神経ブロック注射 →薬の処方。
●自宅で行うこと
「10秒神経マッサージ」を1日2回、朝晩に実施。
平均的には、週1回の通院で、約1カ月で、手指の症状が半減するのだそうです。
富永先生によると…
「富永ペインクリニックでは、『神経マッサージ』の指導をして、自宅で自分でも行ってもらいます。
同時に、ご自分のライフスタイルを見直すアドバイスをし、手指に負担のかからない工夫もしてもらいます。
それが大きな成果をあげています。
熱心にこういった指導をしても、クリニックとしては実は利益は0円。
だから、他の病院ではあまりやろうとしないでしょう。
だけど、私は痛みの専門家として使命があります。
クリニックで多くの患者さんを診るとともに、自分の痛みは自分で治して! とより多くの皆さんに伝えたくて、本もたくさん出しました。
本当は痛みがない世界、医者のいらない世界、治療家のいらない世界がいちばんいいはずなんですけどね。
私が考案した『10秒神経マッサージ』(この連載の第3回で紹介)は、お金もかからない、道具もいらない、自分一人でできる治療法です。
今までも、患者さんや本を買って読んでくれた人、多くの方に実践していただいています。
それとともに、今回ご紹介する、生活習慣のなかでできること、気をつけるべきことも、手指の痛みや変形の予防・症状改善にとても重要なので、ぜひ取り入れていただきたいですね」
最近多いのは「スマホ指」。スマホはもちろん、パソコン作業の癖も見直して!
「最近は、女性でなくても、手指の痛みに悩む人が多くなってきました。
それはスマホやパソコン、ゲームなどが手放せない時代が生んだ現代病ともいえます。
スマホやパソコンの使い方が原因の『スマホ指』『パソコン腱鞘炎』などという言葉もあるほどです。
長時間の使いすぎはもちろん、間違った使い方、持ち方や指使いの癖など、人によって原因はさまざま。
40歳以降の女性となれば、女性ホルモンの減少も加わって、手指トラブルに拍車をかけてしまいます」
スマホの正しい持ち方とは?
まずは、スマホの持ち方を見直してみましょう。
富永先生に、正しい持ち方、よくない持ち方を聞いてみました。
「スマホを片手だけで操作していませんか?
片手だと、どうしてもスマホの重さを小指で支えることになります。
指の中で、最も弱い小指の関節がねじれ、負担を大きくします。
なるべく両手を使って操作しましょう。
両手で操作する場合も、小指で支えることは避けましょう。
自分の手に対して大きなスマホを使っている人は、指の関節に無理がかかるので気をつけて。
手のひらに収まる小さなスマホなら、小指で支えなくてもいいので、手指への負担は少なくて安心です。
ただ、小さいスマホは、40代、50代の老眼が進みつつある更年期世代には、文字が小さくて見にくいというデメリットも。
大きめスマホを持つ場合は、スマホリング(スマホの背面につけて、指を通して持つと安定感が増す)を利用したり、すべりにくいカバーをつけるなど、手指に無理をさせない工夫をするだけで、ずいぶん違います」
パソコン作業で注意すべき点は?
パソコン作業と手指のトラブルの関係についても、先生に伺いました。
「手指にいちばん負担をかけているのは、キーボードを強く叩く癖がある人。
1日に何時間も作業をする人ならなおさらです。
タッチの柔らかいキーボードに替えるなどして、手指への負担やダメージを緩和できるといいですね」
「パソコン作業は、もともと小指の負担が大きいもの。
キーボードで多用する“A”や“Shift”、“Enter”キーは小指操作の人が多いのでは?
ひねって、伸ばして、叩く。
指の中でいちばん小さく脆弱な小指は、負担をかけすぎると、痛みやしびれ、変形を招きやすいのです。
そして、ショートカットキーを操る“こなれた”人も、実はずいぶん負担がかかっています。
キーボードの配置に、無理に指の動きを合わせるので、自然な動作とは違う、指に不自然なひねりや角度の動作をさせてしまう場合も。
長年ショートカットキーを多用することに慣れている人は、今まで与えてきた負担が大きく、手指のトラブルに発展しかねないので注意して。
小指とは違う指を使ったり、どの指にも負担のない角度や動かし方をするなど、今までとは違う操作を意識して行ってみましょう。
また、マウスの使いすぎが原因の『マウス腱鞘炎』などという言葉も登場しています。
マウスを置く位置が、体幹から離れるほど手に負担がかかるので、マウスをできるだけパソコンに近い位置で使う習慣に変えましょう。
マウスを握る手の負担をやわらげるアイテムもいろいろ出ているので(手首を支えるグッズ、ひじを支えて手にも負担をかけないようにするグッズなど)、思い当たる人、心配な人は、そういうものを取り入れるのもいいでしょう」
撮影/天日恵美子(富永先生) イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/蓮見則子
【教えていただいた方】
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。
■富永喜代先生の OurAge 更年期連載はこちら!