「かかと落とし」運動でオステオカルシンの働きを促す
「寝たきり」になる原因として上位を占めるのが、認知症や生活習慣病の合併症として起こる脳血管疾患(脳卒中)、そしてそれに匹敵するのが転倒による骨折です。
「骨は常に新陳代謝を繰り返して生まれ変わっています。破骨細胞が骨を壊し、骨芽細胞が骨を作っていて、そのバランスがとれていることで骨は健康を維持しているのです。
このバランスをとる働きに関与しているのがエストロゲン(女性ホルモン)です。女性は40代頃からエストロゲンが急激に減少します。すると、骨を作るスピードよりも壊すスピードが速くなり、骨密度が低下して骨が急速にもろくなります。
特に閉経後に、骨がスカスカになる骨粗しょう症の人が増えるのはそのためです。こうなると、ちょっとした転倒や尻もちでも簡単に圧迫骨折などを起こすことがあります」(鈩裕和先生)
では、今からでも骨を丈夫にする方法はあるのでしょうか?
「骨は、物理的な刺激が加わることでオステオカルシンというホルモンが分泌されます。これが骨を作る骨芽細胞の働きを活性化し、骨を丈夫にします」
その刺激とは、どのくらいのものが必要なのでしょうか?
「つま先立ちをして、ストンとかかとを落とすくらいのものでOK。この『かかと落とし』を日常の習慣に加えるといいでしょう」
【かかと落としのやり方】

① 椅子の背もたれなどで体を軽く支え、つま先立ちになり3秒ほどキープ。
② そのあと、ストンとかかとを落として体重をかけます。
これを、5回1セットとして、1日3セットを目安に行います。
「かかとを床に落としたときの衝撃が、足から腰の骨にまで伝わり、骨芽細胞の働きを活性化します。椅子に座った状態で、かかとをトントンするだけでも効果があります」
記事が続きます
薬を上手に使って骨粗しょう症を放置しない!
「骨粗しょう症と診断されたら、食事指導、運動指導、理学療法に加えて、薬物療法も行います。薬物療法では、症状や生活スタイルなどに応じて薬が選ばれます」
【骨粗しょう症の薬】
【骨を壊すのを抑制する薬】
〇ビスホスホネート製剤/破骨細胞の働きを抑える。経口剤と注射薬がある。
〇SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)/女性ホルモン(エストロゲン)と似た作用で骨密度を増加させる。
〇カルシトニン製剤/骨を壊すのを抑制する注射薬。骨粗しょう症による痛みをやわらげる鎮痛作用もある。
〇デノスマブ(抗RANKL抗体製剤)/破骨細胞の活性化に働くタンパク質RANKLをブロックする。半年に1回の皮下注射ですむので、継続しやすい。
【骨の形成を促進する薬】
〇カルシウム製剤、活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK2製剤/腸からのカルシウム吸収を促進する。
〇テリパラチド製剤/副甲状腺ホルモンと同じような作用で、骨を作る細胞の働きを促進。1日1回自分で注射をする皮下注射剤と、週1回医療機関で皮下注射するタイプがある。
【両方に働く薬】
〇ロモソズマブ製剤/骨を作る働きと、骨を壊すのを抑える働き、両方の作用を持つ新しいタイプ。月1回の皮下注射で、治療期間は限定される。
「薬物療法では、その人の病状や生活スタイル、歯科治療の予定があるかや逆流性食道炎を起こしやすいかなど、さまざまな状況を考慮して薬が処方されます。
薬の種類は必ずしも希望に添えない場合もあるので、主治医とよく相談して決めるといいでしょう」
積極的にとりたい骨を丈夫にする栄養素とは?
薬を上手に使いながらも、毎日の食事などで骨を丈夫にすることはできるのでしょうか?
「特に、カルシウムをはじめ、その吸収を助けるビタミンDやビタミンKを含む食材を積極的にとるといいでしょう」
カルシウム豊富な食材には 乳製品、小魚、豆腐や納豆などの大豆製品、小松菜などの緑黄色野菜など。
ビタミンDはサケやイワシ、アジなどの魚類、干ししいたけやきくらげなど。ほかに、太陽光を1日15分浴びることで体の中で作られます。
ビタミンKはブロッコリーやほうれん草、小松菜などの緑黄色野菜、海藻類や納豆などもおすすめです。
「これらをバランスよくとるようにしましょう。もちろん骨粗しょう症の“予防”にも役立つので、今からぜひ取り入れてほしい食事習慣です」
記事が続きます
【教えていただいた方】

医療法人社団つくしんぼ会理事長。平成9年に、外来診療から訪問医療介護、在宅看取りまで連携したサービスを提供できる専門機関「つくしんぼ会」を設立。職種間の垣根を越えて自由に議論できる環境作りに努め、治療介護計画を立案し実践する体制を構築。患者に寄り添う医療を実践する。著・監修書『身近な人の突然死・寝たきりを防ぐ心臓と脳の正しいケア』(自由国民社)など。

イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子


