地元密着型の婦人科クリニックは、一人の女性の若い時代から生涯にわたってお付き合いすることも多いのが特徴。若いときのPMSや更年期症状まで、一人一人の悩みに寄り添う立場だからこそわかる事情を、二人の先生にお聞きしました。
つらい月経不順をほっとかないで! いったん止めてみるのもいい方法です
【教えていただいた方】
日本産婦人科学会専門医。医学博士。妊娠・出産はもちろん、思春期、更年期、老年期の女性に寄り添い、40年以上診療を続けている。著書に『婦人科医が不安と疑問にやさしく答える 更年期の処方箋』(ナツメ社)、『50歳からの婦人科 こころとからだのセルフケア』(高橋書店)など多数。
閉経前に、月経が不順になるのは普通にあることなのだけれど、周期も期間も量も予想がつかないくらいバラバラになると困りものですよね。
でも、それはれっきとした月経異常なので、イライラするくらいなら婦人科に行きましょう。今は月経をコントロールする薬がちゃんとありますから。
特に子宮筋腫があると、周期はバラバラだし経血量はあふれ返るほど多くなるし…。それを我慢していたらだめですよ。
「もう妊娠したいわけじゃないから、月経は毎月こなくてもいいわ。それより苦しめられてきた月経をなんとかしたい」という人なら、月経を止めてみましょうと提案します。
月経がこないように、でも女性ホルモンはなくならないようにする薬があるんですよ。
それはジエノゲスト(ディナゲスト)というとてもよい薬。黄体ホルモン(プロゲステロン)と同じ働きをする薬です。
ジエノゲストには、ピルで起きるような血栓症の副作用がないので、10代から50歳くらいまでの女性に適応します。
黄体ホルモンは体内では月経の後半に出ているホルモンで、この薬を飲むことによって子宮内膜は厚くならない。つまり、飲んでいる間は月経はこなくなるんです。
といっても自分のエストロゲンは少しだけ出ている状態なので、更年期症状が出たり、閉経させるわけではありません。
1日2回、飲み続けている限り月経はこない。だけど体調はいい。やめればすぐに月経はくる。なんて便利なんでしょう! 飲み忘れないようにしないとすぐきちゃいますけどね。
近年、毎月の月経そのものが、子宮や卵巣にダメージを与えることが解明されてきました。子宮をしばらくお休みさせてあげることが、とてもよいわけです。
〈閉経までを快適に過ごすための薬はこんなに進化!〉
ジエノゲストで月経を止める話をすると「1回飲み始めたら、閉経するまで10年間も飲むんですか?」と。「そうよ」っていうと「それは無理〜」という人もいるわね。
そしたらミレーナという、黄体ホルモンが入っている小さな器具もあります。子宮に入れておいて、ゆっくりゆっくり子宮内膜に作用して、黄体ホルモンを自動的に放出してくれる。
ミレーナは5年以上入れたままでいいから、これがいいという人も少なくないんですよ。
地方の医療機関ではミレーナなんてすすめてもらえない?
そういうときは東京にいらっしゃい。何度も来なくてもいいのだから。
とにかく我慢はだめ。自分の体のことなんだから、自分の人生なのですからね。
「そういう長く飲む薬はいらない、でも月経を止めたい」という人には、偽閉経にする薬レルミナ。使用期間が6カ月までと決められていますけれど。
もう少し若い40歳そこそこの人で月経をコントロールしたい、避妊もしたいという人には、低用量ピル。ピルはエストロゲンと黄体ホルモンが両方入っている薬です。
保険で処方できるものがいろいろあるんですよ。
おすすめはルナベル。これは低用量よりさらにエストロゲンの量が少ない超低用量ピル。
昔は高用量、次に中用量ピル、少し前は低用量ピル。それが今はルナベルのようなウルトラロードース(ULD)という超低用量ピルまであるの。
ウルトラロードースは飲み忘れると、すぐに出血してしまう。低用量までなら「夕べ飲むの忘れたから、今日お昼に飲んじゃおう」でも間に合うんだけど、超低用量だと間違いなく飲んでもらわないとダメなんです。間に合わないんですよ。
血栓症のリスクもあるので検査をしながらですね。生活習慣もチェックしながら、ウルトラロードースを飲むということに抵抗がなくなってきたら、ジエノゲストに変えていくとか。
一人一人に合わせた治療法をとります。「治療」なんて言わないほうがいいかしら。「月経コントロール」と言ったほうが前向きでいいわね。
閉経は遅いほうがいいけれど、止めたければ止めてもいいんです
【教えていただいた方】
幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行う地域密着型クリニック「 聖順会 ジュノ・ヴェスタ クリニック八田」院長。著書に『思春期女子のからだと心 Q&A 資料ダウンロード付き』(労働教育センター)、『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)ほか。
閉経前の月経不順や月経過多に悩んでいる方に「もう月経を止めたい」と言われることは確かにあります。私はずばり、止める処方をします。
特に、重症感が漂っている患者さんには、偽閉経に持ち込むレルミナを処方しますね。
使用期間が6カ月、休薬期間が6カ月と決められているので、2カ月ほど飲んで出血が止まったら、3カ月目からは減量する(隔日にしたり半量にしたり)ことも。
ほてり感やのぼせなど、女性ホルモン低下により起こる症状がつらい場合は、漢方薬やサプリメント、抗うつ薬を併用することもありますね。
ただ、偽閉経療法は、実際より早く閉経させてしまうことになります。
人生100年時代の今、女性ホルモンが体をめぐっている時間が長いほうが、若々しく元気でいられることは間違いないの。
閉経が遅ければ、女性ホルモンに依存した乳がんや子宮体がん、血栓症などの発症リスクは上がるかもしれない。でも、その心配は検診で早期発見・早期治療を行えば払拭できるはず。
そして、実際にホルモンが減った分はホルモン補充療法でカバーできるんです。
あとは、骨粗しょう症の問題かな。
実は、男女とも80歳になったら骨粗しょう症になることはもうわかってきてるんです。
女性は女性ホルモン・エストロゲンのおかげで骨が保たれているんですけど、それがなくなる閉経後に骨が急に弱くなり始めます。
閉経が早いと骨粗しょう症に早くなるリスクも高くなるので、骨密度の検査と骨粗しょう症対策をすべき。
いかに骨量を減らさないかっていうことですね。活動性の高い50代、60代、70代をいかに骨密度を減らさないでいくか、減っていくカーブを少しでも緩やかにしていくかということ。
整形外科の先生方は、閉経後はもうビタミンD活性剤(活性型ビタミンD3製剤)のエディロールなどを飲むべきだと言いますしね。
なにしろ日本人はアラブの人の次くらいに日光を浴びないともいわれているくらい。紫外線によって皮膚でつくられるビタミンDが不足しています。
カルシウム(骨)代謝を活発にするのがビタミンDなんですが、日本人女性はこのことをもっと真剣に考えてほしいと思っています。
閉経を止めても自然に閉経しても骨粗しょう症は確実に迫ってくること、忘れないでくださいね。
イラスト/Shutterstock 取材・文/蓮見則子