第3話 嫁姑の確執勃発
わいわい中華料理を食べながら、座は盛り上がった。
が、佳恵は初めて会う彼氏の家族に緊張しているのか、黙々と食べていた。何か聞かれれば答えるが、発言はしない。佐知は違和感を覚えた。
やだこの子、笑顔がないわー。
娘の花梨も気難しくて笑顔が少ないから、最近の娘はそうなのかしら? と、自分たちの青春期との違いを痛感するのだった。佐知たちの若かりし頃は、女は愛嬌、男は度胸という古臭い価値観が、まだまかり通っていた。
久志が一人で家に来てくれたら、どうしてあの娘なの? と聞き出したいぐらいだった。
もっと可愛いとかきれいとか、センスがいいとか話すと面白いとか、何かチャームポイントがあったなら、佐知も納得できた。でも、よりにもよってなんでこんな、つまらない娘にひっかかっちゃったのだろう。
「二人はどこで知り合ったの?」
久しぶりに酔って上機嫌になった夫が聞いた。
「職場だよ」
久志がぶっきらぼうに答える。
「へえ、そうなんだ。じゃ、うちと一緒だ。わっはっはー」
え、そこ笑うとこ? 花梨の眉間にしわが寄った。自分だけではない。花梨もきっと、この娘が自分の義理の姉になるのは嬉しくないだろうと、佐知は思った。
「年は? 久志よりずっと若いだろう」
「今年30になりました」
佳恵が真顔で答えた。
「いやー、若く見えるねぇ。花梨と同じぐらいだと思ったよ」
花梨は見事にスルーして、海鮮焼きそばの麺を避け、具だけを食べていた。
グルテンフリーもやっているので、小麦製品はあまり食べないことにしているのだ。
「同じ部署の同期なんだよ」
久志がフォローした。
「へえー、じゃあリモートワークになってから寂しいだろう」
「・・・・」
一同、しーんとなったが、久志が勇気を出して切り出した。
「実はもう、一緒に住んでるんだ」
佐知は心の中で「ぐええっ」、と叫んだ。夫は、
「なんだそうだったのか、ワッハッハー」
とただの酔っ払いだ。
「それで実は、すぐにでも結婚したいんだ。緊急事態宣言が明けるのを待ってたんだよ」
「それはいきなりね。もしかして・・・」
佐知の胸に不安と期待がこみ上げた。
「特大餃子でごじゃいますー」
中国人の店員が、久志の大好きな特大餃子を持ってきた。
「あ、来た来た。これうまいんだよ。ヨッシーも食べなよ。熱いから気を付けて。黒酢つけると美味しいよ」
要件を切り出せて安心したのか、久志が急に、素に戻って娘に接し始めた。
「あ、そーそー、ここの黒酢、美味しいんだよね」
佐知も話を合わせた。
佳恵は久志に言われるまま、小皿に黒酢をあけている。
他店では見かけない中国直輸入の黒酢は、プラスティックのミニボトルでそのままテーブルに乗っていた。
しかし、蓋が異様に固いのが難点だった。
佳恵がボトルの蓋をうんショと閉めたとき、黒酢が隣の佐知の頬に、ビシッと飛んだ。佳恵は気が付いていない。佐知は気づかれないように、ナプキンでそっと、それをぬぐった。
こうやって、小さなことが積み重なって、嫁と姑の確執は生まれるんだわ・・・佐知は戦々恐々とするのだった。
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◆次回は、8月23日(火)公開予定です。お楽しみに。