【答えてくださった方】
幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行う地域密着型クリニック「 聖順会 ジュノ・ヴェスタ クリニック八田」院長。著書に『思春期女子のからだと心 Q&A 資料ダウンロード付き』(労働教育センター)、『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)ほか。
今回も、40代以降に多い症状ですね。
この連載を読んでくださっている方はもうおわかりでしょうけれど、フェムゾーン(デリケートゾーン)の不快感は、以前も出てきたGSM(ジーエスエム)そのものの症状です。
♦更年期の外陰部は”せんべい布団”
乾燥する、かゆい、痛い、ムズムズ感、ヒリヒリする、ピリピリする、イガイガ感がある、ほてる、熱感がある…など、人によっても時によってもさまざまな不快感があります。
何もしなくてもそうなのですから、ショーツですれて痛いのはもちろん、硬いデニムなら、それはそれは痛いでしょう! 自転車のサドルが硬ければ、それもまた痛そう!
女性ホルモン「エストロゲン」はお肌の潤いを保ってくれることはご存じだと思います。
エストロゲンには、皮膚や粘膜のコラーゲンを増やして、みずみずしさやハリを与える働きがあるのですが、それは顔やボディの皮膚だけでなく、フェムゾーンも同じ。エストロゲンが減少すると、ゆくゆく顔はシワシワたるたるに、ふっくらしていた外陰部はしぼんでしまいます。羽根布団がせんべい布団になってしまうんですよ!
敏感になった更年期の外性器は、下着やおりものシートなどによる摩擦に弱く、腫れたような痛みが起こることもあります。
洗いすぎ、ゴシゴシこすりすぎ、強い洗浄力のあるボディソープなどで洗うのも刺激が強すぎるのでNG!
♦経血がナプキンの前側につくようになったら、それは…
月経がまだある人なら、経血がナプキンの前側へ漏れてくるという変化もあります。
若い頃は大陰唇にハリがあるため、経血は後ろ側へ漏れることが普通ですが、更年期以降せんべい布団になった大陰唇は経血を押し返さないので、前方へ行ってしまうのです。
さて、痛い場合の対策としては、まずは外性器の肌にできるだけ刺激を与えないこと。
ショーツは、肌への優しさを第一に素材重視で考えて!
かわいいものやセクシーなランジェリーを身につけていたい気持ちもわかるけれど、デザイン重視の下着は肌に刺激の強い素材でできていたり、通気性が悪かったりします。
ポリエステル素材などではなく、コットン100%を選んでみてください。
そして、縫い目の少ないもの(またはシームレス/無縫製)やタグなどがついていないものを選びましょう。
レース素材が好みであれば、クロッチ(股の当て布)だけがコットンやシルクなど天然素材が使われているものがおすすめ。
クロッチが狭いと、縁が外陰部に食い込むことで不快に感じます。さらに、サイズ選択も重要。
メーカーによっても違うので、体にフィットしたきつくないサイズを選ぶこともチェックポイント。下着の形状が影響していることもあるので、例えばTバックよりは、スタンダードなショーツやボクサータイプのほうが楽に感じることも。
【この連載の担当編集が最近ネットショップで見つけた、お気に入りのショーツ。股関節を締めつけない”ふんどしタイプ”で、素材は綿100%。価格は送料込みで2090円(税込み)でした】
♦ほかにもあります。更年期世代は避けたほうがいいもの
ガードルショーツなど、締めつけの強い下着も更年期には避けたいもの。補整下着などはフェムゾーンの大敵です。さらには、洗濯のすすぎが不十分で洗剤が付着した下着、夏場のストッキングのムレ、長時間のパンティライナーや尿もれシートの使用などもトラブルに直結です。
そして、硬いジーンズはやめましょう。
オバサンぽくてもダサくてもなんでも、ジーンズならソフトなデニム素材に。
それにジーンズでなくても、おしゃれはできますから。
毎日、自転車に乗っている人は、そりゃサドルの痛さ、気になりますよね。
サドルの形や素材の硬さによると思いますが、クッション性のあるサドルカバーをつけるとか、サドルを替えるなどの工夫が必要かもしれません。
もうひとつ、忘れてならない解決法があります。
それはHRT(エイチアールティー/ホルモン補充療法)です。
女性ホルモン(具体的にはエストロゲン)を薬で補う治療。
♦HRTは女性器の症状にも有効です
HRTとは、少量の女性ホルモンを補うことで、更年期の不調を改善するひとつの方法です。
とはいえ若い頃のような量にまで増やすのでなく、少量のホルモンで女性ホルモンの揺らぎを整えるようなイメージ。
HRTというとホットフラッシュの改善だけと思われがちですが、精神症状や今回のご相談にあるような女性器の症状にもズバリ効き目があります。
また、HRTは「ホルモン注射」のイメージと混同してしまうのか、注射による治療だと思っている人も少なくありません。
でも、補う女性ホルモンはごくごくわずかな量。
用いる薬剤のタイプですが、注射ではなく飲む錠剤や、皮膚に貼るパッチ剤、腕などに塗るジェル剤、腟に挿入する腟剤などがあります。
日本ではHRTはがんになる、などと報道されたことにより、怖いイメージが先行して、まだその恩恵を受けていない女性がほとんどです。
日本は先進国の中でHRTの普及率は、かなり低いことが明らかにされています。しかし、2021年秋に新発売された天然型の黄体ホルモン経口薬は、乳がん、子宮体がんリスクを上げないことが証明されていて、HRTの安全性はさらに高まってきました。
またHRTに精通した婦人科医の診察を受けるにはどうしたらいいかと聞かれることも多くなりました。
もし、お近くの婦人科でいまひとつ納得できる説明がなかったら、今はオンライン診療を受けるという手もあります。
オンライン診療後、処方箋をメールで送ってもらい、近所で薬を受け取ることも可能となりました。
ただし、きちんと検診は受けてくださいね。
何はともあれ、更年期の悩みは放っておかない!
「小さな不調もよくなって当たり前!」という気持ちを持つことが大事です。
取材・文/蓮見則子 イラスト/内藤しなこ