男性更年期についての連載の第3回は、男性の更年期障害「LOH症候群」について詳しく解説します。女性の更年期障害と違って、まだあまり知られていないLOH症候群ですが、どんな症状が出るのでしょうか。
教えていただいたのは
低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢医学会理事など。前立腺がん、腎臓がんのロボット手術などから、男性更年期などまで、泌尿器科で扱う幅広い診療内容に長けたエキスパート。 市ヶ谷ひもろぎクリニックでは男性更年期外来を担当
LOH症候群は、テストステロンの低下によって起こる男性の更年期障害
女性の更年期には、ホットフラッシュや動悸、不眠、イライラ、うつ状態などさまざまな症状が出ますが、日常生活に支障をきたすほど症状が重い場合を、一般的に「更年期障害」と言います。では、男性の更年期障害である「LOH症候群」とはどんなものなのでしょうか。
「LOHとは、英語のLate Onset Hypogonadismの略。これは『加齢に伴ってテストステロンの値が病的に下がる』という意味で、LOH症候群とはそれによって引き起こされる症状を指します。日本語では、加齢男性性腺機能低下症候群と訳されます。
一般的に、テストステロンの量は10代前半から急激に増え始め、20歳頃をピークに加齢とともになだらかなカーブを描いて減少していきます。このテストステロンの減少とともに起こるLOH症候群は、40代後半から増え始め、患者さんが最も多いのは50代〜60代です。
ただ、テストステロンの分泌量は個人差が大きく、分泌量が低い人と高い人とでは3倍近くも差があり、40代後半でLOH症候群を発症する人もいれば、70代〜80代になって初めて症状を訴える人もいます」(井手先生)
LOH症候群は、女性の更年期障害と同じような症状が出ることも
LOH症候群のおもな症状は女性の更年期と同じように、身体症状と、精神症状に分けられるそう。
「身体症状としては、朝立ちの消失や、勃起不全(ED)といった男性機能の低下がまず挙げられます。そのほか、のぼせや多汗といったホットフラッシュ症状や、全身倦怠感、筋肉や関節の痛み、骨密度低下、頭痛、めまい、耳鳴り、頻尿などといった女性の更年期にも見られるような症状が出ることもあります。
精神症状としては、健康感の減少や、性欲の減退、不眠、不安、イライラ、無気力、集中力や記憶力の低下などの症状とともに、うつ症状が出る場合もあります」
テストステロンを減少させ、LOH症候群を招く大きな原因がストレス
前回でもご紹介しましたが、テストステロンは加齢以外の原因でも減ってしまい、LOH症候群を招くこともあるそう。
「テストステロンを減少させる原因には飲酒や睡眠不足、肥満などもありますが、代表的なものがストレスです。テストステロンは大脳の視床下部からの指令によっておもに精巣で作られますが、ストレスを長く受け続けて交感神経が優位な状態が続くと、大脳から“テストステロンを作るな”という指令が出されてしまうのです。
50代~60代の男性にLOH症候群が多いのは、加齢によってテストステロンが減少することに加えて、職場では中間管理職になったり、家庭では子どもの教育や住宅ローンなどの問題を抱えたりと、ストレスが多い世代だからということも関係していると考えられます」
テストステロンの減少からくるLOH症候群のおもな症状
身体症状
・性機能低下
・朝立ちの消失
・筋力低下、筋肉痛
・全身倦怠感、疲労感
・ほてり、発汗
・骨密度低下
・頭痛、めまい
・耳鳴り
・頻尿
精神症状
・健康感の減少
・性欲減退
・不安
・イライラ
・うつ
・不眠
・集中力の低下
・記憶力の低下
LOH症候群になると、生活習慣病や認知症のリスクが高まる
LOH症候群はまだあまり知られていないため、“年のせいかな”と放置しがちですが、そうすると思わぬ事態を招くことが…。
「テストステロンが減ってLOH症候群になると、中性脂肪やコレステロールの代謝が低下したり、内臓脂肪や皮下脂肪が増えやすくもなるので、メタボリックシンドロームになりやすくなります。その結果、肥満や糖尿病、心疾患、がんなどの生活習慣病のリスクが高まることもわかっています。また、認知機能が低下し、認知症につながる場合もあります。ですから、放っておかず治療をしたほうがよいのです」
あなたのパートナーに、LOH症候群のような症状はないでしょうか?次回は、LOH症候群かどうかチェックできるテストをご紹介します。
イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/和田美穂