子宮体がんは、罹患者数も死亡者数も増えています
閉経すると、子宮や卵巣を意識しなくなります。けれども、閉経後に増えてくる女性のがんがあります。そのひとつが子宮体がんです。
下の「年齢層別の子宮体がんの罹患率」のグラフを見てみてください。更年期世代から増え始め、50代、60代女性が罹患のピーク。更年期世代は、決して油断できないことがわかります。1年間に約1万8000人の女性が子宮体がんにかかっていて、罹患者数だけでなく、死亡者数も、2000年以降減っておらず、今も増加傾向なのです(*1)。
*1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)2019年
出典/国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」(元データ:全国がん登録罹患データ)2019年
閉経後の不正出血を見逃さず受診、が早期発見のカギ
更年期だからこそ、もう一度、子宮に目を向けて、がん対策を怠りなく行いたいものです。では、早期発見するにはどうしたらよいのでしょう?
「子宮体がんは、早期の段階から不正性器出血があるのが特徴です。不正出血や褐色のおりものがあったら、躊躇せず受診することが早期発見のポイントになります。特に、閉経後の不正出血は注意が必要です。進行すると、膿や血液の混じったおりものに加え、下腹痛、腰痛、腹部膨満感などが現れますが、そうなる前に不正出血の段階で、婦人科を受診してください」と上坊敏子先生。
更年期世代は、女性ホルモンの揺らぎで更年期症状に悩まされたり、閉経へ向けて生理が不順になるため、更年期症状と勘違いして、重要な不正出血という自覚症状を見逃してしまいがちだと思うのですが?
「そうですね。閉経前の更年期世代は月経が不規則で、不正出血と見極めがつきにくいことがありますね。しかし、更年期の月経不順かな?と思っても、迷わず受診してください。
子宮体がんの多くは、早期発見すれば、治療も手術だけですむことが多く、90%以上が治るがんです。早期発見が何より大切なのです」(上坊先生)
【子宮体がんに気づくポイント(自覚症状)】
↑子宮体がんは、子宮体部の内面を覆っている内膜にできるがんで、子宮頸部にできる子宮頸がんとは違うがんです。子宮頸がん検診では、見つけられないことが多いのです
子宮体がんにかかりやすいリスクがある人は、どのような人なのでしょうか?
「子宮体がんの約80%は、女性ホルモンのエストロゲンが発がんの因子です。エストロゲンには、子宮内膜の細胞を増やす作用があります。排卵すると、エストロゲンに対抗するもうひとつの女性ホルモンのプロゲステロンが分泌されます。排卵から2週間くらいで月経になりますが、内膜は出血と一緒に排出されます。ですから、順調に排卵して、月経が規則的にあれば、子宮体がんのリスクは非常に低いのです。
妊娠・出産経験がない人や肥満の人、卵巣がんや乳がんの経験がある人は、子宮体がんのリスクが高いことが知られています。また、大腸がんの発症が多いリンチ症候群という遺伝性のがん家系の人も子宮体がんのリスクがあります。いずれにしても45歳以上、閉経後の人は注意することが大切です」
遺伝性のがん、リンチ症候群とは、どのようながんなのでしょうか?
「リンチ症候群は、家系内に大腸がんの発症が多い特徴があります。大腸がんのほかに、子宮体がん、卵巣がん、小腸がん、腎盂(じんう)がん、尿管がんなども多いことが知られています」
以下の特徴に当てはまる場合は、リンチ症候群の可能性を考えて、がん遺伝外来などを受診することをおすすめします。
少なくとも3人の血縁者がリンチ症候群関連がん(大腸がん、子宮体がん、腎盂・尿管がん、小腸がん、胃がん、卵巣がん、すい臓がん、胆道がんなど)に罹患していて、以下の条件に該当している。
□一人の罹患者はその他の二人に対して第一度近親者(親、子、兄弟・姉妹)である。
□少なくとも連続する2世代で罹患している。
□少なくとも一人のがんは50歳未満で診断されている。
□第一度近親者が一人以上リンチ症候群関連がんに罹患していて、そのうちひとつは50歳未満で診断された大腸がん。
□年齢にかかわりなく、第一度あるいは第二度近親者(祖父母、孫、おじ・おば、おい・めいなど)の二人以上がリンチ症候群関連がんを発症している人。
出典/大腸癌研究会編「大腸がん診療ガイドライン2012年度」金原出版2012年より引用・「アムステルダム診断基準Ⅱ(1999)」「改訂ベセスダガイドライン2004年」を参考に改変
【こんな人は子宮体がんに要注意です!】
・太っている(肥満)
・妊娠、出産の経験がない、少ない
・閉経が遅い
・45歳以上
・30歳以上で月経不規則
・多嚢胞性卵巣症候群、排卵障害
・糖尿病
・高血圧
・リンチ症候群家系(子宮体がんの2~5%)
・卵巣がん(特に若い女性)、乳がんの既往
【教えていただいた方】
北里大学病院教授、社会保険相模野病院婦人科腫瘍センター長を経て現職。産婦人科専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医。著書に『新版 知っておきたい子宮の病気』(新星出版社)、『卵巣の病気』(講談社)ほか多数
【美加から今回のまとめ!】
不正出血後、速やかに検査をすれば早期発見で見つけることができ、90%以上が治療すれば治るがんと知り、改めて自分の体のサインに注意することの大切さを実感しました。
増田美加さん
Mika Masuda
女性医療ジャーナリスト。1962年生まれ。35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを専門に取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行っている
イラスト/かくたりかこ 構成・文/増田美加