パンツもデニムも臭い! ちゃんと洗っているのになぜ?
OurAg読者の皆さん、こんにちは。富永ペインクリニック院長、富永喜代でございます。
前回は、萎縮など腟まわりのトラブルとそのケア、当院の処方についてお話をしました。そこで今回は、「医者である自分にも、実は深刻な腟トラブルは起こりました」というリアルな体験を語らせていただきます!
しかし、人生というものは、つくづく「後から気づくことのみ多かりし」なんよね。なんのこっちゃ?といいますとね。あれは、私が43歳のときに起きた出来事。
当時まだ小学生だった息子が、ある日、「ママ、なんか臭いよ」とひと言。「へっ!?」とびっくりした私は、勢いに任せて、「何言ってんの! そんなことないよ!!」と、いきなりド否定をかましてしまったのでした。
そのニオイのもとは、腟まわりだったわけですが…。そのときショックだったのは、自分が頭ごなしに、息子を否定してしまったという事実。いつもの自分であれば、そんなふうに断定することが嫌いだから、たとえ子どもであっても言い分を聞いて、物事を判断したいと思ってきたのに。でも、自分の「あそこが臭い」という指摘が恥ずかしいやらつらいやら、それに耐えられなかったんやね。
「そんなことないわよ」とか言いつつも、お風呂に入ろう!と思い立って、服やら下着やらを脱ぐとやっぱり…臭いんですよ。それも下着だけでなく、デニムまで臭い。
でも、お風呂に入る間隔が空いていたわけでもなければ、腟まわりの洗い方が雑になっていたわけでもない。腟まわりの構造はよく理解しているので、立体的に洗うことも心がけていました。それでも。それなのに。一日を終えて服を脱ぐと、パンツもデニムも臭い…。
「おしっこ臭い」というのではなく、すえたニオイというか、ツンとするというか。なんとも言い難い、イヤ〜な感じのニオイ。それが下着を越えてデニムをも越えて、人の鼻がキャッチしている!…ということが、本当にイヤで苦しく、ショックでした。
今まではいていたTバックが痛い! ナゾの違和感に襲われる
ほいで。ニオイの次にやってきたのは何かというと、「Tバックがくい込んで痛い!」という事態。もうね。ニオイとかTバックとか、言いにくいこともバンバンお話ししますけどもね。
Tバックというのは構造上、クロッチ(ショーツの股の部分の内側にあたる二重に縫いつけられた布のこと)の面積が狭いでしょう? で、さらに縫い目がちょうど会陰部に当たるんですよ。
「このパンツ、おかしいな〜? 新しいのに買い替えよう!」と、はき心地がよくないことをパンツのせいにしていましたが、もちろん別のTバックを買ったとて、改善はしないんですよ。
そこからはもう、転がり落ちるようにさまざまなことが起きました。
シャンプーをするたびに、ごっそりと毛が抜ける。
不眠が出てきたうえに、とにかく朝、起き上がれない日が増える。
はてには人と話したことを覚えていないという記憶力低下に、抑うつ傾向…(特に「朝起きられない問題」「抑うつ」は仕事上も深刻で、いろいろなことがありました。詳しくは次回、またお話しするので待っててね)。
でね。その後、私は48歳で閉経を迎えたわけですが、そこで「あっ、そうだったのか!」と、ようやくさまざまな不調の原因に思い至ったわけですよ。
そう! それらはぜーんぶ、「更年期症状」やったんです!
更年期というのは、「閉経を挟む前後5年、計10年間」の期間を指しています。…ということは。48歳で閉経した私の場合、さかのぼって考えると、息子にニオイを指摘された43歳のときはすでに更年期に突入していた、ということ。それも「月経の乱れ」とか「ホットフラッシュ」のような、目に見えてわかる症状ではなかった分(なんせニオイとTバックですから)、自分が更年期にあることとは、まったく結びつけられなかったんです。
医者なのに、プロなのに…。100人いればまさに100通りの症状が出るんだなということを、自分の更年期で思い知った、というわけなのでした。
すべては、想定外の「更年期」サインだった
ニオイについては、更年期特有の腟内の善玉菌の減少が原因でした。つまり、女性ホルモンのエストロゲン激減に伴い、善玉菌の餌であるグリコーゲン産生が減少してしまう。すると、腟内の善玉菌が減って、反対に悪玉菌のほうが増えてしまい、イヤなニオイが発生していたんよね。Tバックのくい込みのほうは、更年期による腟まわりの乾燥に加えて、会陰部の皮膚粘膜が薄くなったことが原因。粘膜が薄くなるから、下着の擦れにも弱くなる、ということ。
自分が閉経を迎えるまでは、「私は仕事が忙しいハードワーカーなんだから、ストレスフルで疲れているのは当たり前。多少の不調はあって当然」ぐらいに思っていたんですよ。でも、「すべては更年期だったんだ」「エストロゲンが激減したせいなんだ〜!」と気づいて以降は、せっせとホルモン補充療法のHRTを取り入れるようになりました(&腟まわりのマッサージも、以前より丁寧に行うようになりました!)。
HRTは閉経から5年以上たった現在も続けていますが、これまで悩まされたさまざまな不調が劇的に改善されていくさまを目の当たりにして、今はもうすっかり、ニオイもTバックもOK!
この体験を通じて、「ってことは、ホルモンって本当に大事なんだな」と、改めて勉強をし直すことにもつながりました。そして自分の専門である「性交痛外来」というジャンルについても、さらに深く見つめるきっかけにもなりました。
いろんな気づきは、更年期があったからこそ。ゆえに「たかが更年期症状じゃない!」という思いは私自身も深いわけですが、けんど。けんどね。
どんなに元気な人にもみんな来るのが更年期。そして、ある日突然来るように見えて、実はその前から、サインはいくつも来ているもの。
けれど閉経って、いつ来るか事前にはわかんないわけじゃないですか。まさに「プロでも見逃すのが更年期」。だから私には、「更年期のサインを見逃さないで!」なんて正論は、とても言えないです。
それにさ。40代、50代の女性のライフステージって、自分以外にまつわるイベントが多すぎるよね? 夫の転勤だの子どもの受験だの、両親の介護だのetc.。おまけにこの世代の女の人たちの責任感は強くて、ちょっとした不調ぐらいでは、自分に時間を割けない(&割かない)。「いよいよヤバい!」くらいになるまでは、自分のことを後回しにする傾向があるんよね。だから、更年期のサインの見逃しなんて、もう仕方のないことだと私は思う。
じゃあ、どうすればいいのか。そんなOurAge世代の私たちだからこそ、あえて意識的に、自分のことをちょっとだけ大事にしてもいいんじゃないかな。不調があったら、せめて我慢はしなくてもいいんじゃないかな。
できたら私のようなかかりつけ医を見つけて、人には言えないこととか、日々のストレスとか、時にはぶちまけちゃって!ということを提案したいと思います。そうすれば、体の不調の早期発見にもなるわけで、一石二鳥じゃないですか。
私の更年期ストーリー、まだまだ話し足りません(笑)。
【教えていただいた方】
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。
撮影/天日恵美子 角守裕二(花) 取材・文/井尾淳子