いまだ先が見えない新型コロナウィルス感染症の影響で、巣ごもり時間が長くなった今だからおすすめしたい本。それはなんだろう?
とにかく気分を変えるために、現実から飛躍できる時代小説もいいし、謎ときに没頭できるミステリーもいいし……と考えていたのですが、実際に私が買い込んだうちの一冊をご紹介することにしました。
恩田陸さんの『ドミノin上海』です。
恩田さんといえば、映画にもなった直木賞受賞作『蜜蜂と遠雷』を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、多彩な作風で有名。
学園ミステリーにSFファンタジー、青春小説など、どれを読んでも手ごたえがあり、なおかつ“らしさ”を感じるので、いつも感嘆してしまいます。
では『ドミノin上海』はどういうお話かというと、“ジェットコースタームービーの小説版”。
平穏な上海の日常に“騒動の種”みたいな出来事がいくつか発生し、その影響で複数の人物に思いがけないことが起こり、それらが複雑に関係しあって大混乱、そしてあれよあれよという間に大団円へ。562ページとボリュームがあるのでゆっくり楽しめますが、もしかしたら先が気になるあまり、一気読みしてしまうかもしれません。
実は恩田さんは2001年に、東京駅を舞台にした『ドミノ』を刊行しています。
ある女性が強風で傘を飛ばされる、同じ紙袋を持った3人のそれが入れ替わるなどの偶然が重なって、まるでドミノ倒しのようにどんどん事態が変わり、終盤には少女人質事件にまで発展してしまう。
その緻密な構成と見事な着地に、19年前の私は「恩田さんの頭の中はどうなってるの!?」と驚くばかりでした。
今回『ドミノin上海』を読んでうれしかったのは、そんな『ドミノ』の世界観が引き継がれていたこと。そして再登場の人物が何人もいたこと。
しかも彼女たちは、またもやとんでもない騒動に巻き込まれてくれるのです。
前作で大活躍した生命保険会社のOL三人組(えり子・和美・優子)が再集結したのは、上海の寿司デリバリー会社の副社長になったえり子のもとを、和美と優子がリフレッシュ休暇を使って訪れたためでした。
同じタイミングで上海に滞在していたのが、ゾンビ映画を撮影中のご一行。偶然にも彼らは、東京駅での騒動の当事者でもあった映画監督たちだったのです。
そんなこととはまったく関係なく繰り広げられていたのが、幻の至珠「蝙蝠」を密輸して高値で売り抜けることを目指す骨董商と警察の攻防。
そこへ動物園から抜け出したパンダ、成仏できない映画監督のペットなどが絡み、偶然や必然やさまざまな思惑が絡まって、次々に“事件”が起きていく。
当然事態は混迷をきわめるのですが、読む分にはどう転ぶかわからないそれらの騒ぎを天上から眺めているようで、愉快かつスリリング!
ラストはパズルのピースがきっちり埋まったかのような快感もあり、さらなる続編を期待しつつ本を閉じることができました。
『ドミノin上海』と『ドミノ』、どちらを先に読んでも大丈夫。
現実を忘れて物語の世界にひっぱり込まれたいときに、ぴったりの2冊です。
そして、上海や東京駅がこれらの小説のような“当たり前のにぎわい”を取り戻すことを、心から願ってやみません。