えっ? 休館中の東京国立近代美術館から、生中継?
自粛、ステイホームの中で4月が終わり、楽しみだったはずのゴールデンウィークも、あっさりと終わりました。コロナ禍の中、ビクビクした気持ちもありつつの休みだったので、とりあえず平和なのは大変ありがたいことですが、その前から在宅勤務のため、休みの最中もあとも、見ている景色がまったく変わり映えしません。
休み中にしたことと言えば、昼はプランターのお世話、夜はオンラインメディアの鑑賞三昧。「ニュー・ノーマル」に対応した仕組みもコンテンツもできてきて、エンタメはかなり、お家で楽しめますよね。
だけど…、物理的におうちでは「無理」なものもあります。たとえば東京地方ではあいかわらず閉まったままの美術展。せっかく、はるばる遠くから日本にやってきた作品たちが並ぶ強力な企画展が、休館になっていて見られない、という、なんとももったいない状況。
中でも私が残念に思っているのは、この展覧会。「ピーター・ドイグ展」。
始まったのは2月26日ですが、ちょうど東京都でコロナ感染が広まった時期で。美術館は次々と閉鎖になり、開催館の東京国立近代美術館も29日から休館になりました。開いていたのはたったの3日!です。
美術好きですが、知識はたいしてない私なので、実は名前すら知らなかった作家。でも、3月に通勤の地下鉄の駅でこのポスターを見かけたときに目に入った絵が、なんだか妖しく美しくて、とても気になっていました。
九段下駅に貼られていたポスター。これを見てなぜか、心が揺さぶられたのです。以前女優の黒木瞳さんが大好きな作家、ということで取材した「ムンク」の作品をうっすら思い出しもしました
ムンクみたい? それとも印象派のころの人? などとも思いましたが、なんかどこかモダン。
と思ったら、バリバリの現代美術作家のようです。
「もっと見てみたいなぁ」
そう思わされる引力を感じて……。「よし、観に行くぞ!」と思ったのでしたが……。そのときすでに休館中。以来再開されないまま、はや5月に。
それが! GW中のある日、SNSの中で「おや?」というものが目に入りました。
「ピーター・ドイグ展 休館中の東京国立近代美術館から生中継」。
わ、これすごい! 有名な「ニコニコ動画」が運営する「ニコニコ美術館」という動画チャンネルがあり、そのコンテンツのひとつ。「生中継」の日付は3月18日ですが、「タイムシフト」視聴なら、いつでも見られるみたい!
というわけで観てみました。
これ、めーっちゃおもろい!
毎回、その展覧会に関わった美術館のキュレーターの方や、気鋭のアーティストが登場して、一緒に館内を歩いて作品を紹介してくれる。生中継当日ならコメントで参加できますが、終わったあとは動画として「タイムシフト視聴」ができます ◇
下の写真のような感じで、けっこう行った気になれます(笑) 展示の順番に沿って、ひとつひとつの作品を解説してくれるので、とってもわかりやすく、勉強になります。
ドイグの絵ってすごく大きいものが多いようですが、それもよくわかります。
美術展は、展示の順番や、並びも考え抜かれているし、今回は作家の意図も反映されているそう。中を話しながら移動するさまは、さながらガイドツアーのよう ◇
作品の解説をしてくれるのは、展覧会のキュレーターの方と、作家に思い入れのあるアーティストのお三方。
この回のプレゼンターは、左から東京国立近代美術館主任研究員・桝田倫広氏、東京国立近代美術館企画課長(生中継当時/現横浜美術館館長)・蔵屋美香氏、アーティスト・五月女哲平氏。深ーい解説とともに、視聴者からのコメントも読みながらのノリの良いやりとりもあって楽しい ◇
動画からの聞きかじりですが、ピーター・ドイグという方は、「現代アートといえば立体」みたいな時代にあえて、圧倒的なペインティングの表現を用いて、若くして頭角を現していた人のようです。
古い絵はがきや映画など、元になるモチーフを生かして描いているのだけれど、ムンク(!)やブリューゲルなど、過去の有名な作家の影響も強いそう。
とてもきれいで懐かしさを感じる、でも雰囲気が微妙に非現実的で心にひっかかる。そんな不思議な絵。時には怖かったり、意味不明なものを巨大に描いていたりもしつつ、とても力強い。
学びが多いと同時に、動画ならではのライブ感で、わいわい楽しむことも
生解説では、その作品ごとのモチーフを見せてくれたり、彼の絵のキーとなるアイテムはコレ、とか、逆にそれ以外を省略して描くことで全体の主題が浮かび上がるとか、自分で美術館に行っても観ているだけではわからないことをたくさん教えてくれます。空の描き方とか、絵の具の盛り方とか、クローズアップでぐーっと近づいて見せてくれるのもありがたいです。
「このへんの絵の具の盛り方なんですけどね」と、ディティールも紹介。作家のタッチや主題の変遷と、その理由なども話題にされて。「へぇ〜」という驚きがいっぱい ◇
《のまれる》 (部分)1990年、ヤゲオ財団コレクション、台湾蔵
しかも、家で観ているから、夕ごはん食べながら、「へぇ~(モグモグ)」とか「なるほどね(シュパ! グビグビ)」とかできるわけでw けっこう贅沢です。
そしてニコ生といえば、画面に流れる視聴者からのコメントたちが名物。
タイムシフトだから自分はコメントできませんが、めっちゃ流れてきます。
作品や解説者に細かくツッコミ入れたり、感心すると「へ~~~~」「8888」
とかが並ぶのも、ライブ感。共感できると嬉しかったりもする ◇《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》(部分)2000-02年、シカゴ美術館蔵
コメントはウザいという方は非表示にもできますが、私はけっこう好き。なんかにぎやかなのも楽しいし、なんといっても、美術作品だからって構えない、カジュアルな気分で観られるのがいい。
あと、これもニコ生といえば、なのはアンケート。参加できるのはやはり生放送時のみですが、結果を見るだけでも面白い。
「この展覧会に行きましたか?」
の問いの答えはこれ。
オチャリーナは「行く予定だった」の約20%のうちのひとりだったわけかー、と参加してる気分に ◇
興味深いのは、「開催を知らなかった(この番組で知った)」という人が68.6%もいたこと。
なんだ、そういう人が見てもいいのね、という気安さがまた増す。こういう動画で知らなかったアーティストに出会う機会をもらうのも、楽しいことだから、ほかのものも見てみようという気になります。
鑑賞後に募る、「やっぱり現地で見たい! タッチを、大きさを体感したい!」という思い
とはいえ、動画でせっかく予習したのだから、こうなると「やっぱり生で観たい!」という気持ちが募ります。
今回の展示は、日本で初の本格的な展覧会なのだそうで、作家本人も積極的に関わってきたとのこと。
たった3日で休館になっているのは残念ですが、もしかすると6月の再開もある・・・かな? と期待も。
待ちきれない私たちの思いを察したように、実は2回目の放送も配信されていました。
【展覧会をつくるお仕事】ピーター・ドイグ展の再放送を見ながら「企画する学芸員」と「作品の状態を確かめる保存・修復の専門家」と「記録に残す写真家」に質問しよう
私はこちらもあとで知ったため、生放送では見られなかったのですが、
前半は、初回の放送を再放送、その後、「展覧会の企画をする学芸員」「作品の保存や修復をする専門家」「美術展という、その場限りの空間を記録する写真家」それぞれ立場の違う現場のみなさんで、今回の展覧会のインサイドを語るトークもあるという、豪華長尺版。こちらの後半もぜひ見ようと思っています。
このニコニコ美術館、もちろんほかにも閉館中の展示を「生放送」しているほか、コロナ以前、それも2016年から同様の企画を発信しており、
「あ、これ見たかったけど行けなかったやつ!」というものもたくさん。
というわけで、さまざまな放送を楽しみつつ、リアルに作品を見られる機会には面白みが3倍?になるよう、たくさん予習をしておこうと思います!
最後に、動画画面経由でない、作品の資料写真から、私の好きな作品を改めて紹介!
アニメっぽくも見えるライオンと、その後ろの黄色い壁の鮮やかなコントラストが見事。そして左側にはゴースト・・・? 初期の荒々しく塗りたくったようなタッチから大きく変化していることもわかる
《ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク)》 301×352 (2015年)作家蔵 ◆1
私の「出会い」のきっかけとなったこの作品も、あらためてノイズのない状態でご覧ください。空の色、水面の灯り、省略された表現の左右の木の心もとなさ。なんともすてき
《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》196×296 (2000-02)シカゴ美術館蔵 ◆2
◎ピーター・ドイグ展
☆2月29日~ コロナウイルス感染予防のため臨時休館中
*5月20日現在
会場 東京国立近代美術館 1階 企画展ギャラリー/〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
◇印の画像は、【ニコニコ美術館】『休館中の東京国立近代美術館「ピーター・ドイグ展」から生中継』より。画像提供/niconico
◆印の画像は、東京国立現代美術館提供
◆1 ©Peter Doig. Collection of the Artist. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120
◆2 ©Peter Doig. The Art Institute of Chicago, Gift of Nancy Lauter McDougal and Alfred L. McDougal, 2003. 433. All rights reserved, DACS & JASPAR 2020 C3120