91歳、男性、料理アシスタント。小林まさるさんをご存じでしょうか?数カ月前、とある番組で見かけて「バンダナ巻いたかっちょいいおじいさんだな。え、91歳!?」と、目が釘付けになった私です。
とにかくお若い!話す言葉もよどみなく、軽快なフットワークで動き回ります。バンダナがこんなにさまになるシニア男性、日本ではなかなかいないのでは? よく「年齢なんてただの数字」といいますが、かつて私が見たなかで、どんな美しい女性よりも説得力をもってその言葉を体現していたのが小林まさるさんでした。
そして料理アシスタント?男性で、90代で?あわてて調べたら、彼の師は小林まさみさん、なんとまさるさんの息子の妻だそう。
ええーーーー、舅と嫁!?しかも舅が嫁のアシスタント!?90代で!?
さらに驚愕しました。いくら21世紀でも令和でも、そんな関係性ってあるの?自分の家族に当てはめても見当もつきません。しかもアシスタントを始めたのは70代に入ってから!とにかくすべてが想定をはるかに超えている小林まさるさんです。まさるさんもスゴいけど、義理の父をアシスタントにできるまさみさんもスゴい!
ぜひまさみ・まさるコンビのことが知りたい!検索していたら、まさるさんのエッセイを発見しました。
「人生は、棚からぼたもち!」(東洋経済新報社刊・1,540円)
付箋貼りまくりで、恐縮です。だっておもしろいし、人生のヒントがたっくさん書いてあるんですもの!「これは忘れたくないなぁ」という言葉のオンパレードです。
本では生い立ち、会社員ライフ、定年後、悠々自適に暮らすつもりが、なぜか嫁のアシスタントに…というまさるさんの人生を語り口調で描いています。笑って泣けて、また笑える楽しい本。でもまさるさんの人生は、もちろん決して平坦なものではありませんでした。
まさるさんは1933年(昭和8年)、当時日本領だった樺太生まれ。13歳で終戦を迎えますが、そこからロシア兵が樺太に上陸してきて、占領下におかれる、という体験をしています。殺されたりひどい目に遭うくらいなら、いっそ自決しよう、とまさるさんのお父さんは手りゅう弾を用意していたそう。そもそも戦後の物のない時代、ましてや極寒の樺太で、常に常にお腹を空かせていたまさる少年。
「死ぬ覚悟をしたおかげで、強くなった」
と本にありますが、そんな状況、戦後生まれには想像もつきません。10代で、死が間近にあるなんて…。
高校を卒業して、炭鉱に就職。結婚、離婚、シングルファーザーに。諸事情あり、離婚した妻と復縁したら、今度は妻が倒れて長期療養に…という、過酷な生活。絶望して酒や競馬にはしり、
「もう面倒くさい、死んでしまおうかという気持ちになったこともある」
と、相当荒れた気持ちで生活していた頃もあったようです。
そんな前半生を過ごし、定年後、やっとのんびりできる…と思っていたら、なぜか料理アシスタントに。そして自分でもレシピを考案し、料理研究家にもなって、レシピ集もエッセイも出すことに!その辺の経緯は本で楽しんでいただくとして、私が付箋を貼りまくったのは、人生の先輩として、これから60代を迎える私たちに響く言葉がいっぱいあったから。
「60歳までは人生の下ごしらえ。それをどう調理していくかは60歳から始まるんだよ」
「『年だから』は年寄りがいちばんよく使う言葉なんだ。それを言い出しはじめたら、老化が始まった、ということかもしれないね。年寄りには絶対禁句だ」
「『若いモンに負けていられるか』という言葉も好きじゃない。若いモンには負けていいんだよ。その代わり、助けてやればいい」
「やってみたいなぁ、面白そうだなぁと思うものがあったら、とりあえずやる。
どうしてかって、年寄りには先がないんだ。後ろに棺桶が待っているから」
ああー、すみません!つい「もう年だから」って言いそうになります。それはラクしたいからだし、同時に老化しているということですね。心します。
こんな90代が活躍しているのに、60代前で弱音吐いてる場合じゃありませんね。本からは、まさるさんが毎日ワクワク、ドキドキしながら、人生を心から楽しんでいる姿が伝わってきます。その心のハリ、ポジティブな姿勢こそが、やっぱり究極のアンチエイジングなのかもしれません。