2024年も気づけば残り3カ月ほど。今年もいろいろありましたが、ドラマはもっぱら朝ドラ『ブギウギ』『虎に翼』、大河ドラマ『光る君へ』をおっかけ続け、結果的にNHK推しになってしまった私です。
で、『光る君へ』を観ていてふと気づきました。そういえば、平安時代っていつからいつだっけ?えーと、“鳴くよウグイス平安京”だったから794年、“いいくにつくろう鎌倉幕府”だから1192年(昨今は1185年に変わったらしいですね)…400年も続いたんじゃん。長くないー⁉
現代で考えれば、400年前というと…江戸時代の初期。そんな長きにわたって、穏やかで平和で、華やかな貴族文化が続いたなんて、ありえなくない? 紫式部や清少納言の時代はちょうど10世紀~11世紀に変わる頃。平安時代400年のまさに半ばですよね。ではその前の200年って、何も事件が起こらなかったの? 平和な貴族社会が続いていたの?
そんな小学生のような疑問に答えてもらおうと、最近この本を購入しました。
『謎の平安前期-桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』
(榎村寛之著 中公新書・1,100円)
もう、タイトルがドンピシャ!いくら世界史選択だからって、平安前期の知識がすっぽり抜け落ちている私の数々の疑問に答えてくれる本だわっ!と読み始めたら…
もう序章の前の「はじめに」からつかまれました。
遅くとも室町時代には、平安貴族は男女ともになよっとした、恋だの和歌だのにうつつを抜かし、政治はどこへやら、という固定的なイメージで理解されるようになっていた。
…のですって!それは新たな時代の主役・武士たちが、貴族を否定的に捉えるようになったからだそう。
確かに前の時代を否定するというのは、現代でもよくみられる現象です。実際には貴族たちは応仁の乱くらいは頑張っていたそう。以前もご紹介した本『殴り合う貴族たち』にもあったように、かなり乱暴で何かあるとすぐ暴力に訴える貴族たち。「なよっとした」「恋だの愛だの」のイメージはかなり作られたものだったのですね。
本では奈良時代と平安時代の比較、平安京に遷都した桓武天皇をはじめ、平安前期の天皇たちの考察、貴族と文人の違い、宮廷女官の政治への影響力…といったカタい話から、宮廷の恋愛事情、生年もわからないのに平安文学におおいに影響を与えた紀貫之、平安前期のファッション(十二単とは相当違ったよう)までさまざまなトピックが取り上げられています。
新書なので内容は決して平易ではないし、正直読みづらいな、と思う部分もあるのですが、著者はなるべく私たちにもイメージしやすく表現に工夫をこらしています。たとえば…
「簡略にいえば、奈良時代とは、日本史上はじめて訪れたデジタル化社会なのである」
「和歌の教養化は、誰でも参加できる文化を育成した。(中略)いわば誰でも参加できるカラオケバトルが宮廷で文化として定着したと考えてみてほしい」
「歌人がもてはやされる時代になっても、プロの歌人たちは歌で出世をすることはできなかった。彼らを見ていると、ポケモン(ポケットモンスター)のようだなあと思うことがある。ピカチュウなどのモンスターたちはどれほどレベルを上げても、ポケモンマスターはおろかポケモントレーナーにもなれない」
うーん、なるほど。こういう表現をしてもらうと、1000年前も、1200年前も人間の本質って変わっていない部分があるんだなぁと感じます。
で、年表に出てくる有名人の名前を見ると…空海、最澄、菅原道真、平将門に藤原純友…そうだった、そうだった。知ってる人の名前もあった。反乱もありクーデターもあり、大地震で大仏の首が落ちたり、なるほど、優雅な平安朝というより、政治も社会も激動の時代だったわけですね。
国民や税をデータ化しコントロールした律令国家の奈良時代。その基盤を残しつつさまざまな試行錯誤をしたのが平安前期だそう。特に前期200年は巨大な転換期で、その後に平安後期が続き、中世の基盤が醸成された…この本を読むと大まかな歴史の流れはそういうことのようです。
歴史って続いてるんですね。私たちも歴史の一部、後の世で令和の、21世紀の庶民はどんな評価を受けるのでしょうか。大河ドラマを見ながら新書を読み、歴史に思いをはせる…少しは私も大人になった、ということでいいのかな。