この冬一番の注目作である舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』に出演するシルビア・グラブさん。
三谷幸喜作品の常連とも言える彼女に、本作の魅力とやり甲斐、その楽しみ方を聞いてみた。
ミュージカル女優としてスタートしたシルビアさんは、今や話題の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に登場するなど、ストレートプレイでも高く評価されているオールマイティな存在。
さまざまな試練を乗り越えて今に至る、その成功の鍵は何?
撮影/富田一也 取材・文/岡本麻佑
シルビア・グラブさん
Profile
シルビア・グラブ●1974年7月17日、東京都生まれ。聖心インターナショナルスクール在籍中から音楽活動を開始。ボストン大学卒業後、1997年に舞台『ジェリーズ・ガールズ』に出演以降、『エリザベート』『アイ・ガット・マーマン』『レ・ミゼラブル』などミュージカルを中心に数多くの舞台に出演。ストレートプレイにも活躍の場を広げ、2008年に『レベッカ』で第34回菊田一夫演劇賞・演劇賞を受賞。2012年には三谷幸喜氏の舞台『国民の映画』で読売演劇大賞・優秀女優賞を受賞。2022年には第43回松尾芸能賞・優秀賞を受賞。2005年、俳優の髙嶋政宏氏と結婚。
舞台の仕事はサプライズの連続!
「“今回はどんな役を与えてくれるのだろう?”って、三谷さんの作品に出るときは毎回サプライズなんです。今までやったことのない、他の現場ではなかなか来ないような役柄をいただけるので勉強になりますし、なにより楽しいです!」
そもそもこの作品、シェイクスピアの『マクベス』を上演する舞台の、舞台袖というゴチャゴチャしたスペースで物語が始まる。
舞台監督とその助手、演出部のスタッフが時間に追われながら働く中で、さまざまな関係者が登場して、アクシデントをまき散らす。それでも観客に気付かれないよう時間通りに上演するために、ああしてみたり、こうしてみたり、こんなことまでしてみたり。
はたして無事に終演までこぎつけることができるのか? 何があっても、ショウ・マスト・ゴー・オン(幕を下ろしてはならない)!
31 年前に上演して大成功。1994年の再演を最後に、今や伝説とも呼ばれる戯曲だけれど、三谷幸喜さんは今回の出演者たちに合わせて、加筆やら変更やらしたらしい。
たとえばシルビア・グラブさんが演じる女優のあずさという役は、再演時には男性が演じていたし、舞台監督役も男性だったけれど、今回は鈴木京香さんが演じる。マクベスを演じる座長役は、老優から尾上松也さんへと若返った。さらに、今まで登場しなかった新たなキャラクターも現れるとか。
女優・あずさ役と聞いただけでは、シルビア・グラブさんへの配役、それほど意外なことではないのかも。でも三谷さんの手にかかったら、どうなることやら。
なにしろ舞台『ショーガール』(2014年)では、ヒロインにもかかわらず、シルビアさんに渡された台本には、“地味な女”という役名しか書かれていなかったそうで。
「びっくりしました。私はどちらかというと派手だったり明るかったり、そういう役が多かったのに、たったひとこと、地味な女!ですから(笑)」
さらに大ヒットした舞台『日本の歴史』(2018年/2021年)で演じたのは、織田信長。そもそもこの『日本の歴史』という作品、歴史上の人物が次々に登場する一大エンタ-テインメントだけど、“シルビア・グラブさんが演じる織田信長を見てみたい”という三谷さんのインスピレーションが数年かけて実現したものだというから、びっくり!
「『ショーガール』のときから、そうおっしゃっていたので、実現したときには、とうとう来たかと思いました。
でももっとびっくりしたのは、西郷隆盛まで演じたことですね。油断できないんですよ、三谷さんの作品は(笑)。
イメージを裏切る役を演じさせたいと思って下さるみたいで。でもいろいろチャレンジさせてもらって、うれしいです」
今回取材したのは、稽古に入って1週間経った頃。台詞の読み合わせが終わって立ち稽古に入り、段取りをチェックしている段階だ。
「三谷さんの舞台は出番が入り乱れて息つく暇もなくて、稽古中から他の人の芝居まで見ている余裕がないんです。
『日本の歴史』も、やっている間は自分の出番で精一杯。終わってからWOWOWの放送で見て初めて、ああ、こんなふうに見えていたのねって(笑)。
でも今回は三谷さんの作品で初めて、他の人のお芝居を見る余裕が少しあって。まだ手探りの段階なんですけど、それでもめちゃめちゃ面白いです! これから稽古を重ねてタイミングとかテンポとかブラッシュアップしたら、どれだけ面白くなるんだろうって(笑)」
ふだんのシルビアさんは、ごらんの通りの超絶クール・ビューティ。20代からミュージカル女優として頭角を現し、福田陽一郎、宮本亜門、小池修一郎など、大物演出家に見出され、次々と大作に抜擢され、高い評価を集めてきた。
けれど、順風満帆だったわけではなく。
「実は日本語の読み書きが苦手だったんです。
子どもの頃から歌が大好きで、大学ではクラシックの声楽を学びました。そもそも私、インターナショナルスクール育ちなので、家でも学校でも英語がメイン。日本語の教育を一切受けたことがないんです。
でもテレビっ子だったので、『うる星やつら』とか『キャンディキャンディ』とかのアニメと、『暴れん坊将軍』や『水戸黄門』なんかの時代劇が大好きで、それで日本語を覚えたんですね。ですから話すのは全然苦労しないのですが。
今でも台本をいただくと、読めない文字にはカナをふって覚えますし、意味がわからないものはあらかじめ調べておきます。まあでも、わからない言葉は、わりと日本人の俳優さんでもわからないんだなって最近知ったので(笑)、そこは大丈夫かなと思いながら」
そんなわけで、歌や踊りは得意だけれど・・。
「20代の頃は、舞台で歌さえ歌えればそれで満足。あとはどうにかなると思っていました。20代半ばで宮本亜門さんの『アイ・ガット・マーマン』に出たときも、台詞はなるべくしゃべりたくなかったですね(笑)」
芝居への情熱が生まれたのは、その時。亞門さんから徹底的に指導を受けたのがきっかけで、歌や踊りだけでなく、芝居ができるようになりたいと思うようになった。
「“ストレートプレイでも通用するようになりたい!”と思いました。とはいえ、それはそんなに簡単なことではなくて、その後いろいろなチャンスをいただくたびに“なんで私はこの仕事を引き受けてしまったんだろう?”って思うくらい、高い壁にチャレンジしてきたんです。
その都度、苦しいです。でも頑張ってやり終えて、お客様の反応とか周りの反応を見ると、結果やってよかったと毎回思います。
それにしても、この私が『メアリー・スチュワート』みたいな古典劇とか、NHKの大河ドラマに出られるようになるなんて! 20代の頃は夢にも思いませんでした」
そんなシルビアさんが、このコロナ禍で改めて自分の心と体に向き合うことになるお話は、インタビュー後編で。
40代後半、自分を見つめる時間を持ったことで、さまざまな気づきがあったという。そして今、彼女が自分に課している、美と健康のためのルーティンワークとは?
(夫・髙嶋政宏さんとの関係や美と健康についての、インタビュー後編はコチラ)
『ショウ・マスト・ゴー・オン』
三谷幸喜氏が「劇団サンシャインボーイズ」で上演した伝説の戯曲(1991年初演/1994年再演)を28年後の今、リニューアル上演。総勢16名のキャストが舞台上を駆け巡る、ノンストップコメディ。『マクベス』を上演する舞台袖、まもなく開演時間が迫る中、舞台監督・進藤(鈴木京香)と舞台監督助手・木戸(ウエンツ瑛士)、演出部・のえ(秋元才加)が忙しく働く中で、次々と問題が起こる。開演後も次々に起こるアクシデント。果たしてこの舞台はカーテンコールにたどりつけるのか?
出演:鈴木京香 尾上松也 ウエンツ瑛士 シルビア・グラブ 小林隆 新納慎也 秋元才加 浅野和之 ほか
作・演出:三谷幸喜
福岡公演 202022年11月7日(月)~13日(日) キャナルシティ劇場
京都公演 2022年11月17日(木)~11月20日(日) 京都劇場
東京公演 2022年11月25日(金)~12月27日(火) 世田谷パブリックシアター
企画・製作:シス・カンパニー
https://www.siscompany.com/showmust/