いつも元気で笑顔。とってもエネルギッシュで前向き。
病気とかいろいろなことがあっても、ちゃんと悩んでちゃんと泣いて、そしてまた大きな笑顔を見せてくれる。
そんな南果歩さんのさまざまなチャレンジを、私たちは見て、励まされてきた。
そして今度は、絵本を出版することに。今このタイミングで彼女は、どんな思いを込めて絵本を作り、世に送り出すことにしたのだろう?
撮影/富田一也 ヘア&メイク/国府田 圭 スタイリスト/坂本久仁子 取材・文/岡本麻佑
南果歩さん
Profile
みなみ・かほ●1964年1月20日、兵庫県生まれ。桐朋学園大学短期大学演劇科在学中に映画『伽耶子のために』ヒロインオーディションを勝ち抜いて主演。『夢見通りの人々』で第32回ブルーリボン賞助演女優賞、『お父さんのバックドロップ』で第19回高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。2022年全世界配信のドラマ『PACHINKO パチンコ』(Apple TV+)をはじめ、映画『MISS OSAKA ミス・オオサカ』『義足のボクサー GENSAN PUNCH』や舞台『夏の夜の夢』『パンドラの鐘』など幅広く活躍中。2022年12月16日~19日には福島県南相馬市のRain Theatreにて、舞台『家を壊す』に出演。近著に『乙女オバさん』(小学館)がある。公式HP http://www.kaho-minami.com/
だっこだっこだっこだっこ
南果歩さんが、『一生ぶんの だっこ』という絵本を出した。元気で明るくてカラフルで躍動的で、心の痛みや苦しさを、ふんわりほっこり包んでくれる絵本だ。
まるで南さんをまるごとギューッと、詰め込んだみたい。
「もともと絵本が大好きなんです。子どもが小さい頃は毎晩毎晩、読み聞かせていました。
好きな絵本はいっぱいあります。『どろんここぶた』とか『ぼく、お月さまとはなしたよ』とか、海外のものが多いかな。
日本のものも、ええと、『みんなうんち』とかね。子どもが好きだった絵本はすべてそのまま、今も身近に置いてあるんです」
息子さんが小学校に上がる頃に、毎晩の読み聞かせは終了。その後は息子さんの通う小学校で、時おりボランティアで読み聞かせをするくらい。だんだんと機会は減っていった。
それが復活したのは、あるきっかけがあったから。
「東日本大震災の後、被災地の幼稚園や保育所、病院の小児病棟に絵本を抱えて伺うようになりました。子どもたちに、絵本で少しでも心を癒して欲しかったから。
そして熊本地震の後も同様に、被災地に行きました。もちろん大人の方たちとも交流しましたけど、子どもたちへの読み聞かせは私のライフワークになってきたんです」
しかしその活動も2020年2月以降、コロナ禍で中断してしまった。さて、どうするか。
「2020年の5月末から、インスタグラムで絵本の読み聞かせを配信し始めました」
実はそこには、思いもよらないあるきっかけが。
日本中でマスクが不足していたあの頃、南さんはどうにかできないかと韓国の知人に連絡を取って相談、中国産のマスクを大量に個人輸入することを決断した。
3週間後、船便で東京港に届いた10万枚のマスクを、友人たちと手分けして、コロナ最前線で闘う病院に届けたという。
そのマスク寄付についての記事が新聞に載り、それをきっかけに医療従事者とのつながりが生まれて、小児科病棟へのリモート絵本読み聞かせが実現したのだという。
さらにそこから、インスタグラムでの配信も実現した。南さんの情熱と実行力が、コロナの壁を突き破ったのだ。
ところがここで、もうひとつの問題が。
「読み聞かせに使う絵本は時間をかけて選んでいたのですが、その使用許可を出版社からなかなかいただけなかったんです。
作家さんから直接許可をいただいたり、友人の作家さんにお願いしたりして、なんとかぎりぎり切り抜けましたけど」
そんな時思い出したのが、自分で昔、書いた原稿。
「いつか絵本にしたいと思って、内緒で書いていたものです。絵はついていなかったけれど、お話だけ。それを引っ張り出して、ちょっと手を入れて、まだ絵のない絵本ですっておことわりして読んだんです。
そうしたらけっこう反響をいただいて、ぜひ絵本にしてくださいという声もたくさんいただきました。それが今、やっと、この絵本になったんです!」
タイトルは、『一生ぶんの だっこ』。
「ソーシャルディスタンスが日常になって、こう、ぎゅっとだっこしてあげることがなかなかできない今だからこそ出す意味があるかもしれないと思っています。
私がこれを書いたのは息子が小学生の頃、彼が絵本を卒業するタイミングですね。私自身、いつまでこの子をだっこしてあげられるのかなって、いつも感じていて。
子どもが一人前になって社会に送り出すときに、私は何を残してあげられるかな、何を支えにこの人は人生を歩き出すのかな、と思ったら、それは本当に愛情とかね、確かに抱きしめられた温もりの記憶があれば、一生の支えになるんじゃないかなと思って、書いたのだと思います」
『よーしよし だっこ だっこ だっこ だっこ。一生ぶんの だーっこ』
ぜひ、南さんの生の声でこの文章が聞きたくて、取材中にお願いしてみた。
すると・・・、じんわり、ふんわり、本当に抱きしめられているみたい。
「私の声はアニメ声なので(笑)、絵本を読むのに向いているんでしょうね。
読み聞かせの会で読んでいるときも、子ども達はうれしそうに聞いてくれますし、子どもと一緒にいらした大人の方たちの中には、涙を流される方もいて。
大人は疲れていても誰も慰めてくれないし、強くなれって言われるばかりだし。だから大人の方にも喜んでいただけるみたいです」
絵を描いているのは、iPadを使ったデジタル描画で今注目のアーティスト、ダンクウェルさん。あたたかみがあってパワフルで、ふんわりカワイイ!
iPadというツールを使っているのが信じられないくらい、じんわり体温が伝わってくるような、温もりのある絵だ。
「彼の絵が好きで、以前から個展などで見ていたので、お願いしました。彼の描く絵の躍動感は私の絵本にピッタリだなと思ったんです。
アングルも面白いし、いろいろ楽しいアイテムを書き込んでくれているでしょ? お目にかかって最初に「こんな本です、ちょっと聞いてください」って、まず読んだところ『ぜひやりたい』っておっしゃってくださって。
キャラクターに関しては、シンプルで目の表情が生き生きとしたものにしたくて、何回も打ち合わせをしましたけど、それを決めてからはもう、彼の世界です」
この絵本、日本で発売するだけでなく・・・。
「できるなら、英語版も発売したいですね! でも『だっこ』を英訳して『HUG』にしてしまうとニュアンスが全然違う(笑)。『だっこ』のまま出せないかしら」
22年2月に発表したエッセイ集『乙女オバさん』も、南さんが生きてきた“予測不能な人生”をくっきりと描き出し、何があっても前に進むエネルギッシュな生き方に、読者からたくさんの共感が寄せられたという。
「ですからこれからも、女優はもちろん続けますけれど、文章を書く仕事も続けたいなと思っています。この絵本のプロモーションにも私、やる気満々で(笑)、全国47都道府県全部を廻りたいって言ってるんですけど、コロナなんでちょっと無理ですって (笑)。
でも12月16日から19日まで、福島県の南相馬市で友人の柳美里さんがやっているブックカフェ「フルハウス」でリーディングの劇をやるんです。そのときに、読み聞かせの会もしたいなって思っています」
ぐんぐんぐんぐん、テリトリーを広げ、やりたいことを実現し続ける南さん。いったいそのエネルギーは、細い体のどこから? というお話は、後編にて。
(南さんの筋トレや免疫力アップについての、インタビュー後編はコチラ)
『一生ぶんの だっこ』
文:南果歩 絵:ダンクウェル(2022年12月8日発売/講談社 1650円)
東北や熊本など被災地に向けて絵本の読み聞かせを続けていた南果歩さんが、コロナ禍でのリモート朗読の際に自作の詩を使用。ぜひ絵本にしてほしいという声があがり、本書が誕生した。絵は世界で活躍するアーティストのダンクウェル。本作が初めて手がけた絵本になった。