現在放映中のドラマ「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」で報道キャスター役を演じている中谷美紀さん。
媚びず甘えず、腹をくくって仕事に打ち込む大人の女は、まさにハマり役。クールな美貌は衰えることなく、絶賛更新中だ。
数年前からオーストリアと日本を行ったり来たり。仕事にプライベートに、充実した日々を過ごしている。
47歳の今もこんなにタフで、こんなにキレイ。その背景には、彼女自らが集積してきた美と健康に関する膨大な知見が潜んでいた!
撮影/土山大輔(TRON) ヘア&メイク/下田英里 スタイリスト/岡部美穂 ネイル/川村倫子 取材・文/岡本麻佑
中谷美紀さん
Profile
なかたに・みき●1976年1月12日、東京都生まれ。’93年にドラマ「ひとつ屋根の下」で俳優デビュー。以来数々の映画、ドラマ、CMなどに出演。’06年『嫌われ松子の一生』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。’14年に『ロスト・イン・ヨンカーズ』で読売演劇大賞の最優秀女優賞を受賞。’18年にドイツ出身のヴィオラ奏者ティロ・フェヒナー氏と結婚。オーストリアと日本を行き来する生活を送っている。日本で仕事にいそしむ日々と、オーストリアで暮らしを楽しむ日々を記したエッセイ『文はやりたし』(幻冬舎文庫)が発売中。また、フェヒナー氏と共演する「フィルハーモニクス ウィーン=ベルリン with 中谷美紀」が2023年12月13日・東京オペラシティ コンサートホールほか鹿児島、大阪にて開催予定
二拠点生活で変化した人生観
スクープを取ることに一生懸命。事件の真実を追い求め、それを視聴者に伝える事に情熱を傾けるベテラン・キャスター。中谷美紀さんがドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』で演じているのは、そんな女性だ。
いつどんな役を演じるときも、入念に準備して撮影に臨む中谷さん。今回もキャスター役には万全を期したらしく。
「フジテレビの3人のアナウンサーから講義を賜りました。
西山喜久恵さんからは『キャスターは演者であれ』と。たとえばニュース番組では、児童虐待でお子様が亡くなったというニュースの直後に、クリスマスのイルミネーションが点灯したというほのぼのとした話題が続くこともあります。その瞬間、キャスターは声のトーンや声の表情を微妙に切り替える。それがとても大事なことなんですね。
佐々木恭子さんからは『語尾の最後まできちんと発音するように』。梅津弥英子さんからは『ただ原稿を読むだけでなく、いかにニュートラルに、それでいてわずかに自分自身の意志を含めるか』といったことを教えていただきました。とても勉強になりました」
このドラマは、二宮和也さん、大沢たかおさん、そして中谷さんのトリプル主演。
中谷さんが演じる倉内桔梗(くらうちききょう)は、ローカルテレビ局のキャスターなのだが、自ら立ち上げた報道番組の打ち切りが決まり、料理番組への異動を命じられたばかり。
二宮和也さんが演じる勝呂寺誠司(すぐろじせいじ)は、横浜の埠頭で起きた銃殺事件の容疑をかけられたものの記憶がなく、やむなく逃亡している。
大沢たかおさん演じる老舗レストランのシェフ、立葵時生(たちあおいときお)は、クリスマスディナーの準備の真っ最中。
このクリスマスイブの1日を、崖っぷちに立つ3人の主役がそれぞれどのように生き抜いていくのか、3人はどのような関係なのか、3つの物語はどうからみあい、どんなエンディングを迎えるのか。たった1日を3ヶ月かけて描き出すという意欲作だ。
中谷さんは現在、1年の約半分を日本で、残りの半分をオーストリアで過ごしている。2018年にドイツ出身のヴィオラ奏者ティロ・フェヒナー氏と結婚して以来のライフスタイルだ。
「映画『レジェンド&バタフライ』やWOWOWの連続ドラマ『ギバーテイカー』、舞台『猟銃』のニューヨーク公演など、たまたま2023年に公開される作品が続きましたが、映画は2021年に撮影済みでしたし、ドラマは2022年に撮影したものです。仕事をしすぎないよう、ワークライフバランスを大切にしています。
とはいえ、日本にいる間はひたすら働いている感覚です。お休みの日も台本を読んだり、あれこれ雑用に追われていますし」
結婚を機に生活の場をヨーロッパに移したのをきっかけに、人生における仕事の意味が、大きく変わったという。
「結婚の前から、仕事一辺倒の人生には少し疑問を感じていました。
若い頃からわがままを言わせていただいて、ひとつひとつの作品を丁寧に演じながら、十分にお休みをいただき、自分のペースは守ってきたつもりですが、それでもやはり、俳優というのは一時的にせよ、他人の人生を生きる仕事なので、それを一生懸命繰り返していると、自分の人生がおろそかになります(笑)。これではいけない、と」
実際にヨーロッパで暮らし始めると、仕事よりも大切なものを守ろうとする、日本とはひと味違う人生観が見えてきた。
「『仕事が人生の目的ではない』と頭では理解していましたけれど、リアルに『こういうことなのか』と実感したんです。
ご存じのとおりヨーロッパの方々は、バカンスのために生きているようなところがあって、徹底的に自分の時間を謳歌する。
労働者の権利が守られているため、裁量権のあるのホワイトカラーやフリーランスは別として、就労時間を越えてサービス残業をするなんてあり得ませんし、その日の仕事が終わると電話に出ないしメールにも答えない。
根回しや社内政治とか接待といったことも少なく、無駄なことに一切時間を使わず、シンプルでフラットで、風通しがいい印象です。
そしていざバカンスが始まると1カ月でも2カ月でも、どんなに緊急な用事でも連絡がとれなくなるのが当たり前。
日本では考えられないシステムですけれど、驚くべきは、そのように休むときは徹底的に休んだほうが、むしろ仕事の生産性があがるということです。
私たち日本人は真面目で勤勉なので、真似するのはなかなか難しいのですが(笑)」
仕事第一に生きることをやめよう、と思い始めたら、不思議なことに。
「若かりし頃よりも仕事を楽しめるようになりました(笑)。
演じる際にはもちろん、最善を尽くします。お仕事をいただけるのはありがたいことですし、役柄の背景を想像し、心情を掘り下げることに喜びを感じます。でもその一方で、どうしても、と、この仕事にしがみつこうとは思わなくなったんです。
俳優という仕事は正解のない職業ですし、心も体も痛め付けないとできない部分もあります。しがみついてしまうと、あまりにも苦しい職業なので。嫌になったらいつでも辞める!(笑)と、そんな覚悟が心の中にあるからこそ、むしろ演じることが楽しめるようになったのかもしれません」
俳優という仕事がもたらすダメージは、意外なところにも。
「小説を読んだり映画を見ることを純粋に楽しめたのは10代の頃まででした。職業柄、物語によっては、感情が持って行かれるんです。
自分が演じるかどうかには関係なく、ついつい没入して、いろいろ想像力が働いてしまって、ぐったり疲れてしまう。本当にどっと疲れて、食事の支度もできなくなるくらいなので、書籍なら随筆や実用書、映画ならドキュメンタリーフィルムかシニカルなコメディーの方が余暇の息抜きになります。
最近も、今回のドラマで共演している大沢たかおさんが出演なさった『キングダム』と、佐藤浩市さんの『春に散る』を見たのですが、どちらもアクションシーンが多かったので、恐らくアドレナリンが過剰に分泌されたのでしょうね。夜中に何度も目が覚めました。
もちろん両方とも見応えがあり、楽しんだのですが、私には少し刺激が強かったのかもしれません(笑)」
読むにしても見るにしても演じるにしても、物語は人の心を支配して、肉体もその影響からは逃れられない。
「若い頃は、小さな映画館で、メランコリックかつアンニュイなヨーロッパの映画をありがたがって見ていましたけれど、大人になった今は、気軽に笑えるような映画も見たいと思うようになりました。
昔はハッピーエンドを凡庸で退屈だと思っていましたが、今はハッピーに終わる作品も大好きになりました。どうしてなんでしょうね?」
最近は、小説よりもドイツ語の学習。夫のフェヒナー氏とより気楽に会話を楽しむために、そして友人知人に気を遣わせないために、ドイツ語会話を特訓中。日常会話程度なら、難なくこなせるようになってきた。
そういえば、運転免許を取得したのもオーストリアでの暮らしが始まってから。ザルツブルクの郊外で生活するには、車は必須のものらしく。
「それまで日本では、車の運転をしたいと思ったことはなかったのですが、夫に『僕は君の運転手じゃない。自分の生活くらい自分で面倒みなさい』と言われましたので(笑)。
運転できるようになったら、生活の自由度が増しました。どこにでもひとりで出かけられますもの。誰にも気兼ねなく、どこへでも羽ばたける自由を知らずに数十年間を過ごして来たことを後悔したほどです」
なんともダイナミックな生き方だ。
10代から俳優を生業とし、20代前半でフランスと日本を往復する生活に。30代を目前に控えてインド旅行を敢行。40代にして生活の拠点をオーストリアに移し、ザルツブルクの自宅では庭仕事や料理を楽しみ、ウィーンではクラシック音楽やオペラを堪能し、日々の暮らしを楽しんでいる。同時に、自分の可能性を広げるための挑戦を恐れない。
そんな彼女のもうひとつの興味が、書くこと。
30代の頃から『インド旅行記』などエッセイを発表してきたが、つい最近本になったのが、2016年から毎月文芸誌に発表してきた連載エッセイをまとめた『文はやりたし』(幻冬舎文庫)。
テーマは俳優の現場で思ったこと、役柄への多様なアプローチ、思いがけず始まった結婚生活、ドイツ語習得への長い道のりや、コロナ禍の中、日本とオーストリアを行き来しながら感じたことなどなど。
話し言葉が美しいことで有名な中谷さん、書き言葉もまた丁寧で美しく、ときどきドキッとするような辛辣な言葉も出現して、それもまた彼女らしい。
「担当の編集者が好きなように書いて下さいとおっしゃるので、真に受けまして。連載は文字数の制限なし、題材も自由でしたので、人知れず書き続けてきました(笑)」
中でも興味深いのは、健康に関する造詣の深さ。自分の体を把握して、必要な栄養をとるべくサプリメントを探し求めるその姿勢は、まるでミステリー小説に出てくる探偵のよう。
「自分でもオタク気質だと思います」
美容と健康にどのように取り組み、何を実践しているのかは、12月1日発売の『MyAge 2023 冬号』にて。詳しく楽しく、たっぷり語ってくれているので、お楽しみに!
→冬号の詳しい内容はコチラから。試し読みもあります。
『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』
記憶喪失の逃亡犯(二宮和也)、番組の打ち切りを告げられた報道キャスター(中谷美紀)、ディナーの準備に追われるシェフ(大沢たかお)。無関係に見えた3人の人生はどう交錯するのか? クリスマスイブのたった1日の出来事を丁寧に描く、謎と愛と奇跡の物語。
月曜21時~ フジテレビ系列でオンエア中
演出:鈴木雅之 三橋利行 柳沢凌介
脚本:徳永友一
出演:二宮和也 中谷美紀 大沢たかお 江口洋介 佐藤浩市 ほか
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/oneday_christmas_ado/
『文はやりたし』
中谷美紀 著/幻冬舎文庫 781円
東京で仕事に勤しみ、オーストリアで暮らしを楽しむ中谷美紀さんが、日々の出来事と想いを細やかに綴ったエッセイ集。演じることの難しさと愉しさ、仕事から離れて存分に味わう海外でのプライベートな生活などなど、独特の視点と美しい日本語が心地良い。自らオタクと認める、美容と健康に関する情報も満載。