【教えていただいた方】
生前整理アドバイザー認定指導員。片づけ収納マイスター認定講師。「お掃除とお片づけ」のプロとして30年以上のキャリアを持つ清掃業界のカリスマ的存在。近年、生前整理への関心の高まりから、「あったかい生前整理」を提唱し、生前整理普及協会を設立。主な著書に『生前整理で幸せな老いじたく』(PHP研究所)など
「生前整理」とは、これまでの人生をいったん振り返り、今後の人生をより充実させるために、人生の軌道の見直しを行う作業。かつては「死に支度をするみたいで抵抗がある」と考える人が少なくありませんでした。しかし、東日本大震災やコロナ禍の影響で、多くの人が“死”を身近に感じるようになってきたのです。
といっても、生前整理って、何から始めればいいのでしょうか?
一般的には「整理するのがいちばん難しいのは写真」と考えられています。ところが、「まず始めに写真の整理からスタート」するのが大津さん流。なぜなら写真の整理をすることによって、これまでの自分の人生を振り返り、心の整理をすることができるからです。実は3・11の直後、被災された方たちが最初に探したのが、家族の写真でした。
マイベストショットアルバムを作ると、人生が変わる!
「遺品整理の現場経験から、私は“物、心、情報”の3つの整理をすることが重要と考えています。その第一歩として、40代~50代で元気なうちに写真の整理に取り組むと、その後の人生が変わってくるんですよ!」
大津さん流、生前整理の3つのステップ
大津さんが考案した写真の整理法は、まずは家中の写真を集めて、その中から“マイベストショット”を選び、“マイベストショットアルバム”を作るという方法です。
写真の整理をするときは時系列に並べていき、“輝いている私”をテーマに、気に入った写真を選んでいきます。生まれて間もない赤ちゃん時代から幼児期、小学校から大学までの学生時代、社会人となって働いていた20代~30代の頃、結婚・出産・子育ての思い出、そして最近の写真。それらを人生のストーリーに沿ってピックアップしていきましょう。
「たくさんある写真の中から、まずは100枚くらいの写真を厳選してください。そして次に50枚、30枚と絞り込んでいきます。そして、最終的にチョイスした30枚の写真に、その時々の気持ちやエピソードを付箋に書いて添えるのがコツ。短いコメントでOKです」
すると、まるでフォト自分史のような仕上がりに!「これまで、幸せな人生を送ってきたんだなあ」と振り返ることができて、自分自身を肯定できるようになっていくのです。
大津さん自身の「マイベストショットアルバム」
遺影のためのベストショットは、あらかじめ自分で選んでおきたい
私たちOurAge世代はたくさんの写真を持っています。子ども時代に両親が撮ってくれた紙焼き写真のアルバムが何冊もありませんか?また、「友だちが焼き増ししてくれた紙焼き写真がいまだに封筒に入ったまま」というケースも少なくないでしょう。30代以降はデジタルカメラが普及し、この10年で多くの人がスマホを持つようになりました。今や写真はデータが中心です。
「でも、スマホに保存した写真って、スマホが故障したら、すべて消えてしまう場合があるんです。大切な写真は、やはりバックアップを取って、なおかつプリントアウトして保存しておくのをおすすめします」
大津さんによれば、遺品整理の現場で意外に多いのが、家族が遺影の写真を探す際に「気に入った顔写真が見つからない!」というケースなのだとか。時には写真が見つからず、運転免許証の写真を使用するケースもあるのだそう。
スナップ写真に写った顔を引き伸ばしたり、クリッピング(切り抜き)するのも可能ですが、ピンボケの写真は可愛くないうえ、加工費用がかかってしまいます。
「いずれ迎える人生最期のときに備えて、『今の段階ではコレ!』というベストショットをバックアップしておき、さらにプリントアウトしておくと、いざというときに複製することも可能です。ちなみに、私が選んだ“人生最期の旅立ちの写真”は、52歳の今のベストショット。アルバムの最終ページに貼って保管しています。この先、年齢を重ねるにつれて、アルバムの残りのページが増えていく予定なので、いずれは新しい写真と差し替えるかもしれません」
写真を通して人生を振り返る作業は、親の介護にも役立つ
50代の今の時点で、自分の人生を振り返る作業は、親の介護にも役立つそうです。
「更年期の年頃は、ちょうど人生時計の分岐点です。人生時計は午前と午後に分かれていて、午前中の時間帯は『オギャー』と生まれてから、親に守ってもらう時期。一方、40~50歳の分岐点を過ぎて人生の午後に入ると、今度は親の介護が始まり、親を見送るなど、私たちが親をサポートする世代に入ります。私自身も父の介護を経験して、イラッとしたことがありました。でも、写真の整理をすることで、親を一人の人間として見ることができるようになったんです」
赤ちゃんの自分を抱っこする若き日の両親の姿を眺めるうちに、「親がいるから、今の私が存在する」と、感謝の念が湧いてきたという大津さん。「私が大人になったのだから、親が老いるのは当然のこと。認知力が低下するのも仕方ないよね」と受け止め、いたわりの気持ちを持てるようになったのです。
また、写真を見ながら人生を振り返ると、自分が子ども時代にやりたかったこと、夢見ていたことがよみがえる瞬間があります。
「実は私、子どものときから歌うことが大好きで、この夏、自作の歌でCDデビューすることになりました。今だからこそ、実現できることもあるんです。50代以降の人生を豊かなものにするためにも、やり残したことにチャレンジしてみませんか!?それをアシストしてくれるのがマイベストショットアルバムです」
たとえ更年期の不快症状を抱えていようとも、OurAge世代の人生はまだまだ続きます。
「写真の整理をすると、心が整理され、さまざまな〈気づき〉が得られます。すると、物を整理するときの優先順位もつきやすくなっていきますよ!」
イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵