コロナ禍を経て、この数年でスマホ決済のシステムが進み、スマホに金融情報を登録するのがポピュラーになりました。スマホは今や、通帳やお財布としての機能も持つようになったのです。将来的なデジタルじまいに備えて、デジタル情報の整理に取りかかりましょう。
紙に書いたパスワードやパスコードは、修正テープを使って目隠し保存を
デジタル情報を整理するときは、まずはスマホやパソコンを開くためのID、パスワードを紙に書きとめることから始めます。
デジタル機器のIDやパスワードは、自分しか知らない情報。「セキュリティ上、紙に書き出すのは抵抗がある」という人もいるかもしれません。
「でも、デジタル機器を開くことができなければ、その中に登録された金融情報などを見ることができません。しかも、本人認証としてのIDとパスワードの入力を一定回数以上間違えるとロックがかかり、機種によっては初期化され、スマホの登録情報を見ることができなくなる心配も。そうなっては、家族が“デジタルじまい”を代行できなくなってしまいます」
「万が一」のときに家族がデジタル情報にアクセスできるようにするためにも、IDやパスワードは紙に書いて、アナログ保存しておきましょう。
ここで紹介するのは、第三者に見られないようにするために、大津さんが考案した方法です。
「おすすめは、紙にボールペンで書いたパスワードの上に白の修正テープを引き、目隠しする方法です。修正テープを引いた上にセロハンテープを貼りつけておき、パスワードの確認が必要なときにセロハンテープをはがしてみてください。すると、目隠しした白い部分がきれいにはがれて、ボールペンで書いたパスワードを見ることができるんですよ!」
貼りつける際にセロハンテープの端を少し折っておくと、はがしやすくて便利です。紙の裏から文字が裏写りしないタイプの修正テープを使えば、より安全。
そして、万が一のときに、家族がデジタル情報を整理できるように、IDやパスワードのリストを作っておきましょう。金融情報については、暗証番号、ID、パスワードとともに、口座名、問い合わせ先なども添えておくといいでしょう。
<デジタル情報の一覧リスト>
・スマホやパソコン、タブレットなど
・クレジットカード
・〇〇ペイ
・ネット銀行
・マイナンバーカード
・日頃利用しているネットショップの会員ページ
など
「暗証番号やID、パスワードなどの情報は修正テープで目隠ししておき、『セロハンテープをはがすと見ることができるよ』と、家族に教えてあげてください。そして、もしもパスワードを変更した際は、一覧表のリストのほうも変更することをお忘れなく」
自分のSNSをクローズできるかどうかも、知っておこう
「今では個人がSNSを通じて発信できる時代です。私も仕事上、ブログやFacebookなどを通じて、片づけや生前整理に対する思いを発信しています」
利用者が亡くなった場合の対応は、SNSによって異なりますが、万が一に備えて、アカウントやパスワードを書き残し、削除する方法などをあらかじめ調べておくといいでしょう。ちなみにFacebookでは、故人のアカウントの管理者を登録し、追悼アカウントの設定ができるようになっています。
「人生の最期はいつやってくるか、わかりません。まだまだ元気な52歳ですが、私の場合は万が一に備えて、息子に管理してもらえるように設定しています。“私からの最期のメッセージ”を息子に託し、『お母さんにもしものことがあったら、このメッセージをアップしてね』と頼んであります」
緊急時に備えて、〈万が一カード〉をスマホケースに入れておこう
「実は私、これまでに救急搬送された経験があるんです。その際、緊急連絡先を記載した〈万が一カード〉を持っていたおかげで、救急隊員の方が家族に連絡をとってくれました」
〈万が一カード〉には、以下のような内容を書きとめ、スマホケースに入れてあります。
「ちょっと気が早いかもしれませんが、すでに葬儀社への申し込みもすませているため、葬儀社の連絡先も書いてあります」
<万が一カードに書きとめた内容>
・緊急連絡先
・かかりつけの病院
・主治医の名前
・血液型
・保険証やお薬手帳の保管場所
・持病の有無
・その他、個人情報を集めたファイルの保管場所
・遺影写真を置いている場所
・葬儀社の連絡先
自分の覚え書きとして、スマホのメモ機能を利用するのもひとつの方法ですが、その場に居合わせた人がスマホのパスワードを開けないと、見ることができません。やはり、いざというときはアナログのほうがアクセスしやすいのです。
こうして情報を整理することによって、「万が一のときも安心」と思えると、この先の人生を安心して過ごせるのではないでしょうか。
「改めて、皆さんにお伝えしたいのは、生前整理は残りの人生をよりよく生きるための手助けをしてくれるということ。私たちは効率よく、何でも時短でやるのをよしとしてしまいがちですが、生前整理に取り組むときには、一度ですべてをやろうとしないことです。無理のないスケジュールを立て、徐々に進めることが肝心です。そして整理が終了したあとも、年に一度、自分の誕生月に見直しをしてくださいね」
【教えていただいた方】
生前整理アドバイザー認定指導員。片づけ収納マイスター認定講師。「お掃除とお片づけ」のプロとして30年以上のキャリアを持つ清掃業界のカリスマ的存在。近年、生前整理への関心の高まりから、「あったかい生前整理」を提唱し、生前整理普及協会を設立。主な著書に『生前整理で幸せな老いじたく』(PHP研究所)など
イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵