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映画「アアルト」で、美しいフィンランド建築の魅力とデザイナー夫婦の人生に迫る

新谷麻佐子

新谷麻佐子

あらたに・あさこ●イラストレーター&編集者。2014年にムーミンの作者トーベ・ヤンソンが暮らした島「クルーヴハル」に、友人でライターの内山さつきと1週間滞在したのをきっかけに、kukkameri(クッカメリ=フィンランド語で「花の海」の意) を結成。以後、フィンランドの小さな町や四季、暮らしと文化をテーマに取材を続けている。著書に『とっておきのフィンランド』『フィンランドでかなえる100の夢』(ともにダイヤモンド社)がある。http://kukkameri.com

フィンランドの巨匠アルヴァ・アアルトと彼を支えた才能ある妻の軌跡

 

待ちに待った秋の到来! 映画鑑賞はいかがでしょう? 私のおすすめは、フィンランドの巨匠アルヴァ・アアルトと二人の妻の軌跡を描いたドキュメンタリー映画「アアルト」です。

 

フィンランドを代表する建築家であり、デザイナーのアルヴァ・アアルト(1898年〜1976年)について、詳しくは知らなくとも、彼が手がけた建築物やデザインアイテムを目にしたことがある方は多いかと思います。

 

こちらがアアルトです。サスペンダー姿がなんともおしゃれ!

建築家、デザイナーのアルヴァ・アアルト(1898年〜1976年)

 

彼が手がけたものの中で、おそらく日本で最もポピュラーなのは、アアルトが仲間と創業した会社「Artek(アルテック)」のL-レッグのイスやテーブル。2006年公開の映画「かもめ食堂」で使われたので、フィンランドブームが巻き起こる中、憧れた方も多いと思います。近年は、北欧雑貨店やカフェで目にする機会も増えました。

 

こちらがL-レッグのスツール。スタッキングしやすい3本足の「スツール60」は特に人気です。

スツール60

 

そして、アアルト建築で有名なのは、愛する家族と暮らした住居兼オフィスの「アアルト・ハウス」と、アアルト・ハウスが手狭になって建てられた「スタジオ・アアルト」。こちらは私が2015年にアアルト・ハウスを訪れたときの写真です。

ルイ・カレ邸

 

Photo by Asako Aratani(2015)

 

アアルト・ハウス
Photo by Asako Aratani(2015)

 

他にも、自身の闘病を経て、病人の視点から細かい部分までこだわってデザインしたというパイミオのサナトリウム、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、ロヴァニエミの図書館といった公共施設から、一般の集合住宅、小さな町の教会、フランスの画商のコレクションを飾る家、ルイ・カレ邸のような個人の邸宅まで、アアルトが手がけた建築物は、世界に300棟もあるそう。

アアルト・ハウス

 

ルイ・カレ邸

 

ヴィープリ(ロシア)の図書館
ヴィープリ(ロシア)の図書館

 

劇場公開中のドキュメンタリー映画「アアルト」では、世界中の研究者や建築家、アアルトの友人や家族が、アアルトが何を重視して、その建物やアイテムをデザインしたのか、そしてアアルトと二人の妻が、いったいどういう人物だったのかを語り、知られざる人物像に迫ります。

 

映画では、まず映像の美しさにも見惚れてしまいます。私も本当にごく一部ですが、フィンランドのアアルト建築を訪れたことがありますし、日本での展覧会や作品集でも資料写真などを目にしてきましたが、映画「アアルト」では、映像作品だからこそ見せられる、アアルト建築の魅力をいくつも教えてくれます。

 

例えば、本作ではドローン映像が駆使されているので、現地を訪れてもなお見ることができない上空からの映像が見られます。フィンランドの豊かな森に囲まれた「パイミオのサナトリウム」や、フィンランドとは異なる、どこか黄色味がかった太陽の光が印象的な、広大なアメリカ・マサチューセッツの街並みの中の「MIT」などを見ることができます。

 

建物のシーンは特に、ゆったりとした川の流れのような映像なので、「どうぞじっくりとご堪能ください」と言われているかのよう。それはきっと監督がアアルト建築をこよなく愛しているから。愛おしい建物を優しくなでるかのように見せてくれます。

 

これらの映像美に加え、この映画の最大の魅力は、アアルトと共に歩んだ、二人の才能あふれる妻にスポットを当てていること。

アアルトとアイノ

 

特に最初の妻、アイノは1920年代〜40年代に、建築家としてのキャリアをスタートしたばかりのアアルトを支えながら、子どもを育て、自身も建築家、デザイナーとして邁進。Artekではアートディレクターとして活躍しました。

 

アアルト・ハウスで仕事をするアイノとアアルトの様子です。

アアルト・ハウスで仕事をするアイノとアアルト

そして、こちらはアイノが手がけた、フィンランドの老舗ブランド「イッタラ」のグラス。アイノは、高価なものではなく、誰もが日常的に使えるアイテムを好んでデザインしました。

イッタラのグラス

 

これだけ才能あふれるクリエイターでありながら、彼女のインタビュー記事や映像など、記録が残されておらず、フィンランド本国でもあまり彼女の活躍が伝えられていませんでした。

 

映画「アアルト」では、アアルト夫妻の往復書簡を取り上げ、彼らの生の言葉にフィーチャーしました。すると、二人が才能あふれる建築家・デザイナーである以前に、リアルな夫婦であることも実感するのです。

 

国際会議など、海外出張へとうきうきと旅立ち、華やかな社交界で浮かれている夫。一方、家に残され、子どもたちを育てながら、仕事に忙殺される妻。しかも帰国するはずの日に帰ってこないなど、のんきな夫の様子に、アイノはもちろん、映画を観ているこちらも呆れてしまうのですが、結局、手紙の最後には、いつも隣に寝ているはずのチャーミングな夫がいない寂しさもアイノは綴るのでした。

 

実際、アアルトは非常に魅力的な人だったようです。男性にも女性にも親しまれ、国際会議でも、独特の存在感を発揮。ル・コルビジェなど、ヨーロッパトップレベルの建築家とも交流し、アメリカでは、フランク・ロイド・ライドとお互いを認め合う友人になりました。

 

けれども幸せな時間は突然奪われます。乳がんを患ったアイノが1949年に他界。アイノを失ったアアルトは、ひどく落ち込み、渡米する回数が減りました。

 

アイノが亡くなってまもなく、一人の若い建築家がアアルトの事務所に入所しました。彼女の名前はエリサ・マキニエミ。勘のいい彼女は、すぐにアアルトの作風をつかみ、アルヴァとエリサの仕事は見分けがつかないほど。

 

アアルトの信頼を得て、エリサは名前をエリッサに改名し、プライベートでも伴侶となりました。エリッサはみんなに愛された前妻、アイノの影を感じ、寂しさに苛まれることもあったかと想像しますが、アアルトを支え、自身も仕事に奔走。晩年、アアルトが手がけた仕事は、エリッサの存在が非常に大きかったと言われています。

 

フィンランドの巨匠、アルヴァ・アアルトと、才能あふれる妻アイノ、そしてエリッサの歩んだ軌跡を描く、ドキュメンタリー映画「アアルト」。フィンランドの豊かな自然の中でアアルト建築がたたずむ優美な姿や、思わずなでたくなる滑らかな曲線を描く家具やドアノブ、手すりなど、3人が手がけた美しいデザインの数々を、大きなスクリーンでぜひご堪能ください。

映画「アアルト」チラシ

映画「アアルト」
ヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK 吉祥寺で公開中。
10月28日(土)より東京都写真美術館ホール、ほか全国順次公開!
公式サイト

 

邦題:アアルト
原題:AALTO
監督:ヴィルピ・スータリ(Virpi Suutari)
制作:2020年 配給:ドマ 宣伝:VALERIA 後援:フィンランド大使館、フィンランドセンター、公益社団法人日本建築家協会 協力:アルテック、イッタラ 2020年/フィンランド/103分/(C)Aalto Family (C)FI 2020 – Euphoria Film

 

そして、アアルトファン、映画でアアルト夫妻についてもっと知りたいと思った方には、こちらもおすすめです。発売されたばかりの新刊『アイノとアルヴァ アアルト書簡集』(ヘイッキ・アアルト=アラネン/著 上山美保子/訳 草思社)。

新刊『アイノとアルヴァ アアルト書簡集』(ヘイッキ・アアルト=アラネン/著 上山三穂子/訳 草思社)

 

 

 

最後に、北欧アーティストつながりでお知らせがあります。この夏、ユニットkukkameriの活動で、フィンランドのアーティストをインタビューするウェブマガジン「kukkameri Magazine」を立ち上げました!映画「アアルト」の監督を務めた、ヴィルピ・スータリさんに、ユニットの相棒で、ライターの内山さつきがインタビューしております。そちらも合わせてぜひご覧ください。

 

 

新谷麻佐子さんの北欧旅連載

『今人気の田園ツーリズム。フィンランド、ラトビア、エストニアに行ってきました!』

 

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