9月は防災月間ということで、非常食や非常用持ち出し袋のチェックをしたという人も多いのではないでしょうか。非常時はいつもと違う環境におかれるうえ、物資が不足することもあり、さまざまな二次健康被害が発生しやすいそうで、体調にも配慮した備えが必要になってきます。
そこで、災害時にはどんなことに気をつけたらいいのかを知るために、株式会社ドリームホールディングスの発表会に参加して学んできました。
◆災害時に起こりやすい不調とは?
まず登壇されたのは、済生会横浜市東部病院の医師・谷口英喜先生。
高度急性期病院に勤務される谷口先生は、「災害時の二次健康被害対策をずっとしてきましたが、今は超高齢化社会、そして、昨今気候の変動も大きく、対策するところが変わってきています」と話します。
具体的に災害時に意識しておきたい、二次健康被害にはどのようなものがあるのか、どのような対策をしたら良いのかについて、谷口先生に教えていただきました。
【1】脱水症・熱中症
「災害時は水分と食事が不十分なうえに、エアコンが完備されないので、体温コントロールが難しいです。また、体内の水分が少なくなってしまって、脱水症や熱中症を招きやすくなります」(谷口先生)。災害時は清潔なトイレが十分に足りないことも多く、水分を控えてしまうのも原因の一つになってしまうのだそう。
「脱水対策としては、3食しっかりとり、食事から水分をとるほか、経口補水液などで水以外のイオンをとることが大切です。熱中症対策には、水で湿らせたタオルなどを首の横の血管に当てて冷やす、ハンディファンなど電気がなくても冷やせる工夫をすることが大切です」(谷口先生)。
【2】食欲減退・栄養不足
「食糧不足は2~3日で解消されることが多いですが、精神的ストレスで食べられないこともあります」(谷口先生)
そんなときにぴったりなのが、ゼリー飲料。「自律神経を活発にし、胃腸を動かすので災害時におすすめです」(谷口先生)。また、非常食は乾パンなどの炭水化物だけでなく、たんぱく質・ビタミン・ミネラルなどの栄養素をとれるものを準備するのも大切なのだそう。
【3】口腔環境が不衛生に
水分をとることが減り、歯磨きもままならない状態だと口腔環境が不衛生になりがち。「口腔環境が悪いと、口臭や口内炎、虫歯などが起きます。そして何よりも注意したいのが、口腔内の雑菌が肺に入ることで肺炎が増加することです。水分をとって唾液を増やすことで口内環境の悪化を防ぎ、それが肺炎予防にもつながります」(谷口先生)
【4】免疫力の低下・感染症
「避難所生活をすると、どうしても密なところで集団生活をするため、それだけでも呼吸器感染症にかかりやすくなります。また、水不足で手洗いが不十分になり、手から口にいろいろなウイルスが入ってきます」(谷口先生)。
手洗いができる水を確保したり手指を消毒できるものを用意するほか、衛生的なトイレを確保し排泄物を適切に処理することが感染症対策になります。
【5】血栓症
「避難生活でじっとしていることに加え、先ほども述べた脱水の状態が続くことが、血栓症の原因に。ふくらはぎあたりの脚の静脈に血栓ができやすく、それが肺に行って肺梗塞になると、心肺停止になってしまうこともあります」(谷口先生)。
同じ姿勢ばかりとらないようにし、水分をこまめに取ることが大切ですが、それには安心して使えるトイレがあることが大前提に。トイレの整備は血栓症対策にもつながるんですね。
【6】持病の悪化
災害時は、いつも飲んでいる持病の薬を持ち出すことが大切。「特に高血圧や不整脈の持病がある人の薬が切れてしまい、避難生活のストレスや脱水で頻脈になると状態が悪くなってしまいます」(谷口先生)。
糖尿病の人もインスリンなどが使えない状態で、糖質に偏った食事しかできず運動不足の状態だと、血糖状態が悪くなり最悪の場合昏睡状態になってしまうこともあるそう。持病の薬を持ち出せるようにするほか、お薬手帳を常備しておくことも大切です。
【7】心理的不安・睡眠障害
避難生活が長引くと、「これからどうなるんだろう?」「住むところはどうなる?」と不安が募りますよね。「災害時はどうしても交感神経が優位になり、常に体が戦う姿勢のままでいるので、さまざまな病気の引き金になりかねません」(谷口先生)。
不安が募る非常時には、特にコミュニケーションが大切なのだそう。「ポジティブな言葉を掛け合ったり、ペアで話しながら手足をマッサージするなど、副交感神経を優位にし、孤独にならない工夫をしていきたいですね」(谷口先生)
災害時の二次健康被害と対策を教えていただきましたが、その中でも度々大切な対策として出てきたのが、「清潔なトイレの確保」。下記のように、トイレが使えなかったり清潔でなかったりすると、多くの二次健康被害につながってしまいます。
災害時はつい非常食などに目が行きがちですが、人間の生理現象として避けて通れないトイレ対策も大切、ということを実感しました。谷口先生のお話に続いて、被災の体験者や防災のプロに、災害時に起こることをお話いただきました。
◆被災者が実体験を語る!「これが困った」こととは?
次に登壇されたのは、一般社団法人地域防災支援協会代表理事の三平洵さんと、ドリームホールディングスの藤村彩央里さん、石井琴子さん。
藤村彩央里さんは熊本地震(平成28年4月)で被災、石井琴子さんは九州北部豪雨(平成29年7月)で被災された経験があり、その経験を商品開発につなげています。
三平さんによると、トイレは我慢しようがない生理現象なだけに、被災時は一番の困りごとになるそう。「東日本大震災の際に、被災後3時間以内に31%の人が、9時間以内に78%の人がトイレに行きたくなっています」。
そんな大事なトイレですが、仮設トイレができるには時間がかかってしまうそう。「3日以内に仮設トイレが行き渡った自治体は、34%。3日経ってもトイレが整わないところが半数以上で、最も日数を要した自治体は65日かかっています」(三平さん)。
さらにライフラインである下水処理場、し尿処理場の復旧は長期にわたるそう。「下水処理場は平均で86日、最長で1年以上かかった自治体もあります」(三平さん)。つまりその間は、トイレの復旧が難しいということに。
実際に被災した石井さんは、「避難所生活では1つのトイレが詰まってしまい、夏だったので悪臭が発生。普段気にもかけていなかったトイレの問題でこんなにも苦しむのかと驚きました」と話します。藤村さんも、「公衆トイレには排泄物が山積みになっており、これから生きていく気力を失う光景でした」。健康だけでなく精神状態にも影響を及ぼす事態だったことがわかります。
避けては通れない災害時のトイレ問題について、三平さんは「仮設トイレはもちろんですが、初期対策として携帯トイレや簡易トイレの準備が大切です」と話します。
自宅避難をする場合、断水してもお風呂の水でトイレを流せると考えますが、これも実は危険。「地震で下水配管が外れていたら、流したものが漏れ出して悪臭がする場合も。自宅の便座を活用し、流さなくても用を足せる状態を作ることが大切です」(三平さん)。
そのために必要なのが、簡易トイレを備えること。仮設トイレが設置されるまでの間に活用したり、仮設トイレの数が足りない時など、個々が用意しておくとトイレ環境が良くなりそうですね。
とはいえ、なんとなく「かさばりそう」「どこに置いたらいいの?」と悩みがちな簡易トイレ。そんな悩みにこたえるべく、ドリームホールディングスではインテリアになじんでおしゃれ、かつ置き場所に困らない画期的な商品を発売。それがこちらの「sonae 備絵」です。
絵の中にはなんと簡易トイレキットが!
簡易トイレキットの中身は、凝固剤、畜便袋、ウェットティッシュで、1キット30回分。大人は1日に約5回トイレに行くため、30回分の簡易トイレは、1人暮らしで約6日分がまかなえます。トイレに、寝室に、と飾っておくと家族分用意が出来そうです。
災害を想定すると、水や食料をはじめ備えておくべきものがたくさんあります。「備えるべきものやことは自分が住む地域で起きやすい災害にもよるので、ハザードマップを見ながら必要な備えを考えることも大切です」と三平さん。自分が住む地域に合う備えをしつつ、誰にでも共通の悩みとなるトイレ対策もしておきたいですね。
◆資料提供/ドリームホールディングス
取材・文/倉澤真由美