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幸せには「種類」がある!?あなたを幸せにするのは…

「幸せ」とは多くの収入を得て流行のファッションを身にまとい、豪華な食事を楽しむ生活のことでしょうか。幸福学の第一人者、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司先生は「幸せには“瞬間的なもの”と“持続的なもの”というとらえ方があることを知っておきましょう」と言います。その違いとは?

幸せにも種類があります

 

――おいしいものを食べたり、素敵な服を買ったり、イケメンを見たり。またSNSで「いいね!」がついたりすると、私たちはいとも簡単に幸せな気持ちになります。でも前野先生が提唱する「幸せの4因子」には、そういうキラキラした幸福は含まれていません。それらは、本当の幸せとは違うのでしょうか。

 

ええ。幸福学においては、おっしゃるようなキラキラの幸せは「ハピネス」、幸せの4因子で生まれる幸せは「ウェルビーイング」ととらえています。そしてハピネスも、ウェルビーイングに含まれている、と考えてください。

 

――幸せって、なんとなく曖昧なものと思っていました。でも幸福学においては、定義されている概念があるんですね。「ハピネス」と「ウェルビーイング」の違いについて、もう少し知りたいです。

 

ハピネスとは、瞬間的に気分が高揚し、快楽を得たときに感じる幸せのことを指しています。一方のウェルビーイングは、心のよい状態のこと。長続きする幸せも含みます。おいしいものも素敵な服も、また恋愛のときめきやSNSの「いいね!」なども、手に入れた瞬間は幸せや高揚感を感じるけれども、永続的ではありませんよね。手に入れた瞬間が幸福のピークなので、その後は「もっと欲しい!」という渇望感につながりがちです。

ハピネスとウェルビーイング

 

 

――確かにそうですね。モノの消費による幸せは特に、長続きはしないと感じます。それでもやっぱり時々はおいしいものも食べたいし、買い物もしたいのですが…。ハピネスを追い求めるのはだめなのでしょうか?

 

もちろん、追い求めてもいいですよ。過度に自分を甘やかしてばかりいるのはよろしくありませんが、このストレス社会でリラックスする時間を持つことはとても大事です。

 

本当はストレスに対する根本的な原因を解決するのがいちばんいいわけですが、上司やパートナーにしょっちゅう嫌味を言われるとか、難しいこともありますよね。なのでまずは自分をいったんストレスフルな日常から切り離して、ケーキを食べたり買い物をしたり、温泉にでも入ってリラックスして、落ち着いた心を取り戻しましょう。

 

ただずっとそれを繰り返していても解決はしませんから、元気が回復してきたら、「あなたの言い方は傷つく。変えてほしい」と伝えるなど、頑張って行動していく必要はあります。

 

――問題から距離を置いて、その後、解決するという2ステップですね。ハピネスは、アクションを起こすエネルギーをためるものとして、上手に使う、と。

 

そのとおりです。

40代、50代は幸せの価値観を見直す過渡期

 

――多くの人には幸せには種類があるという概念がないので、ついハピネスだけを追い求めてしまいがちなのではないでしょうか。ウェルビーイングな状態というのが、まだよくわからないです。

 

幸福になるにはハピネスだけでなく、ウェルビーイングな状態というのも、やっぱり必要なんです。「ウェル」「ビーイング」は、「良好な」「状態」=満たされた状態とも訳されます。ウェルビーイングのキーワードは、やる気、思いやり、チャレンジ精神、やりがい、つながり、利他精神などが挙げられますね。幸福学で推奨したいのは、これらの長続きするウェルビーイング的な幸せです。

 

具体的には社会貢献などの利他精神や、自分一人でも充実感のある趣味、人とのつながり。こうした「やりがいからの幸せ」という体験が少ない人は、どうしても快楽を多く得ることだけが幸せのすべて、と思ってしまいがちです。

 

――それだとバランスが悪いわけですね。確かに年齢を重ねても、ずっとキラキラの幸せばかりを追い求めるのは、ちょっと苦しくなりそうです。

 

そうですね。若いうちは、キラキラのハピネスを多く求めてもいいんですよ。それが生きがいややりがいにもなり、やる気も生まれますからね。ただ40代、50代はその過渡期ともいえます。ハピネスとウェルビーイングとのバランスをとるための苦しみの時期、とでもいいましょうか。でもそこを越えた先には、バラ色の幸せが待っている、と私は信じています。

 

――お話を伺って、だから今の時期が苦しいのか!と納得しました。

 

 

 

「やりがい」と「つながり」が、
老後の孤独に強くなる秘訣

 

――幸福の価値観について、切り替えができていないままに年齢を重ねるのはしんどいことなのだとよくわかりました。そして40代、50代の苦しみを越えた先にあるバラ色の未来にたどり着くためには、老後の孤独や不安については、どうとらえ直していけばよいでしょうか。

 

高齢者になると、孤独に強くなるという事実があります。よく言われる「孫は来てうれしい。帰ってうれしい」という言葉がありますよね(笑)。やっぱり人生を達観してくるので、ずっとベタベタ人と一緒にいなくても、「元気にしているなら、それでいいよね」と、孤独にはだんだん強くなっていく。実際にそういう研究結果もあります。

 

――年をとると孤独に強くなれると知ると、少し安心します。

 

ええ。ですから40代、50代を越えて、幸せな60代以降にうまく離陸するためには、やっぱりウェルビーイングの要素を増やしていくことに尽きると思います。

40代~50代は不幸だが60代以降幸福になる

 

具体的には、趣味などのやりがい、そして人とのつながり。孤独に強くなれる人は、自分の好きなことや得意なことで人とつながるという、ウェルビーイングを重視したライフスタイルを送っている人がほとんどです。例えば私の母は裁縫が趣味なのですが、ご近所の人に教えてほしいと頼まれることもあるとか。そうすると人とつながる喜び、教える喜びを感じるそうです。

 

――やりがいとつながり、ですね。今のうちに見つけておかないと〜!

 

あっ、「〜しなければ」というのは、真面目な人の落とし穴なので気をつけてください!やりがいやつながりは、「見つけなければ」と焦るほど、見つからないものなんです。禅問答のようですが、「見つかれば楽しそうだな〜」「そうなればラクになるんだ〜」くらいに楽観的に過ごしていると、ひょんなことから、きっと何かにつながっていきますよ。

 

 

【教えていただいた方】

前野隆司
前野隆司さん
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授兼武蔵野大学ウェルビーイング学部長
公式サイトを見る
Twitter

1984年東京工業大学卒業、86年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社入社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。2024年より武蔵野大学ウェルビーイング学部長兼任。研究領域は、幸福学、イノベーションなど。

 

イラスト/midorichan 取材・文/井尾淳子

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