樫出恒代(かしで ひさよ)
漢方薬剤師・漢方ライフクリエーター。漢方カウンセリングルームKaon代表。Kaon漢方アカデミー代表。新潟薬科大学薬学部卒業後、一人ひとりのこころとからだにていねいに向き合う漢方カウンセリングを提唱。連載「女性のための漢方救急箱」の味わいあるイラストは、本人によるもの。美容家・吉川千明氏との共著に「内側からキレイを引き出す 美肌漢方塾」(小学館)
<悩み>
「数年前から更年期の不調が出はじめました。 先日は仕事中に頭痛、数時間後に吐き気も。暑いと思ったら急な寒気に変わり、手がしびれ始めて動悸も起こり、パニック状態でした。婦人科に行くと、 以前乳がんを患って放射線治療を行ったためHRT(ホルモン補充療法)はできないと言われました。不安な気持ちの毎日で誰にも話せず、悩んでいます」(48歳・パート)
<回答>
不安感の原因は「気」が減っているから。漢方的な視点から、改善を目指すことは可能です。
積み重なる不安がパニックの引き金に
更年期の不調が一気に出て、とてもおつらい状況にあることが文面から伝わってきました。お悩みから感じたのは症状の裏にある、とても大きな不安感。これが今の相談者さんを苦しめているのではないでしょうか。過去の大病、それに続く更年期の波、婦人科での治療の記憶。これらが重なり合う中で、「前回のような不調が次々に押し寄せて、またパニックなったらどうしよう」と、不安を増幅させているように思いました。
更年期には、ホルモンバランスの変化によって自律神経が乱れやすくなり、そこからパニックのような症状が現れることがあります。例えば急に胸が苦しくなったり、動悸がしたり。私の患者さんの中にも「観劇に行ってドアが閉まった瞬間に、ここから出られないのでは、という強い不安感に襲われてパニックになった」という方もいました。
漢方では、このような状況を、気の乱れとしてとらえます。相談者さんも、気の巡りが滞ることで、気が減る「気虚(ききょ)」の状態になっているのかもしれません。気が減ると、不安感や過剰な敏感さが生じやすくなり、それがパニックの引き金になります。また更年期は、加齢による変化を意識せざるを得ない時期。「老眼が進んだ」「顔のシミが気になる」「疲れが取れない」といった老化を感じさせる現実がまた、未来への不安につながって、さらに気を減らしてしまうのです。
「気」を養い、不安を和らげる漢方的アプローチ
「気」とは、体と心を支える大切なエネルギーです。気が減ってしまうと、不安感が強まるばかりか、ひどくなれば鬱のような状態にまで進む場合があります。動くのもおっくうになり日常的生活にも支障が出る人もいますが、相談者さんはまだそこまで進む前の段階ですよね。HRT(ホルモン補充療法)ができないという人でも、そのような心と体の状態に向き合うために、漢方的視点が役立つことは多くあります。つらい症状が続く中でも、きっとよくなると言えると漢方医として私は考えます。
不安やパニックに対して、漢方では気を増やすことを重要視します。気を補うことで不安を軽減し、心身のバランスを整えることができる、というわけですね。いくつか具体的な方法をご紹介しましょう。
1. 旬の食材を取り入れる
旬の食材には、自然のエネルギーがたっぷり詰まっています。例えば、春には山菜や菜の花、夏にはトマトやきゅうり、秋にはかぼちゃや栗といった季節の食材を積極的に取り入れてみてください。旬のものを食べることで、気は満ちていきます。
2. 深い呼吸を意識する
不安を感じると呼吸は浅くなりがち。深い呼吸をすることで気を巡らせ、不安感を和らげていきましょう。特に、朝晩やお風呂上がりなど、リラックスできる時間に意識的に深い呼吸をしてみてください。ヨガや瞑想を取り入れるのもおすすめ。ただし「やらなければならない」と、義務感で取り組むと逆効果になる場合も。大切なのは自分が心から楽しんで行っているか、ということです。
3. 時には情報断食を
現代社会では、メディアやSNSから日々多くの情報を受け取りますよね。中には自然災害、また社会的な不安を煽るものも多く含まれています。こうした情報は、知らず知らずのうちに心に不安を溜め込み、パニックの引き金になることも。時には、意識的に情報から距離を置いてみませんか。静かな時間を過ごし、自分自身に集中する時間を取ることが、気を増やす助けになります。
4. 魂が喜ぶ時間を持つ
不安が募ると、自分は何を楽しめるのか、何が好きだったのかもわからなくなることがあります。SNSなどで見る他者のキラキラした生活に目を奪われて「私は何もしていない」「こんなことでいいのだろうか」と、自分を責めてしまう人も少なくありません。
でも本当に大切なのは、外側の世界に、ではなくて、自分にベクトルを向けることです。「そういう時期なんだな」と今の自分を認めて、心から好きなこと、魂が喜ぶ時間を少しずつ取り戻しましょう。美術館巡りでも推し活でも、友人との他愛のない会話でもいいのです。小さな楽しみを見つけていくことが、気を増やす大切なステップです。
漢方医や漢方薬剤師、漢方アドバイザーなどの漢方カウンセリングも有効
それでも不安感が減らない場合は、更年期の悩みを相談できる漢方医や漢方薬剤師、漢方アドバイザーを見つけることをおすすめします。最近、私の漢方カウンセリングルームでもパニックや鬱の症状を抱える人が増えています。でもこの国日本では、心身の不調や生きづらさを語りづらい空気がありますよね。周囲にカウンセリングを受けていることを知られると「あの人、心の病気みたい」とレッテルを貼られてしまう怖さもあります。
実際、女性は男性の2倍うつになる確率が高いと言われています。それでも多くの人が、人に言えないつらさを抱えているからこそ私がお伝えしたいのは、「あなた一人が特別ではないんですよ」ということ。OurAge世代は特に、二人に一人は不安やパニックにつながる悩みを持っている、と考えてもいいくらいです。こうした状況で大切なのは「自分だけがこんな気持ちを抱えているわけじゃない」と知ること。そして遠慮せずにどんどん話すことです。話すことで、心は少しずつ軽くなっていきます。
欧米のように、カウンセリングが当たり前という文化がまだ根付いていない日本では、安心して気持ちを話せる場所が少ないのも現実。でも漢方のいいところは、単なる薬の処方にとどまらず、気兼ねなく症状や状況を話すカウンセリングの場でもあるということです。
ぜひ身近なところで、信頼できる漢方医を見つけてみてください。季節の変わり目ごと、年に四回程度でもいいので、定期的なカウンセリングの時間を持つのはとても有効です。安心して話せる場所を見つけて、不安や不調が少しずつ軽くなっていくことを心から願っています。
取材・文/井尾淳子
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